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日本受け詰め

26 - 第26話 溶けない記憶(海×日)

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2025年08月18日

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旧国注意、ショタ日本くんと海さんがデートするお話です。

本日、日英同盟破棄、四国同盟締結日ですがイギリス要素はありません。強いて言うなら海さんです。




「本日はよろしくおねがいします。」


そう言い、小さな影が丁寧にお辞儀をする。


「こちらこそお邪魔します。日本、挨拶も練習してくれたのか?」

「はい。本日はよろしくおねがいします。」


緊張からか震える言葉の端々に、身長ゆえに常に上目遣いの大きな黒目。

声といい顔といい。

相変わらず甥っ子の愛らしさは今すぐ目に入れて隠したくなってしまうほどだった。


「ふふん。そうだろう。」


綺麗に彩られた世界に、そんな声が絵の具を垂らす。

夕立のような素早さで顔が歪んだ。


「は?貴様を褒めた覚えはないが?」

「日本の前でそのような言葉遣いを許した覚えはないが?」


眉間の皺を鼻で笑われたので、お返しとばかりに最上級の笑みを向けてやる。


「それはすまない。兄上殿がそれほどに上品な方であらせられるとは思わなんだ。」

「は?お前より何百倍もマシだが?」


父親気取りの仮面は失せ、いつも通りのいけ好かない兄が顔を表した。


「ふっ……ガキくさ……。」

「あ゛?」

「と、父さん………。」


か細い腕が伸びてくる。

怖気のする笑みを浮かべた兄が、これまた吐き気のする声で日本に軽く謝った。


「それじゃあしっかり叔父上の言うことを聞くんだぞ。」

「はい!父さん、お気をつけて。」

「偉いな日本。陸、とっとと失せろ。」

「俺の家だよな?」


見送りに相合を崩すサルの背を蹴り、クソガキ、という叫びが小さな耳に届く前に戸を閉めた。




***




日陰の少なくなった頃。


大人しく絵を描くのにも飽きてきたのか、チラチラと黒の宝玉の視線を感じる。


「照れるな。そんなに熱心に見られると。」


目を合わせると、薄い肩が跳ねた。


「あっ、あの……見てて…ごめんなさい……。」


気にするなと言うと瞳から雨雲が引いていった。


「日本、ちょっとデエトをしよう。」

「でーと?」

「一緒にお出掛けしようってことだ。」

「行きたいです。」


食い気味な返事に持っていた文庫本を棚に戻し、掛けてある軍帽を手に取る。

これで私服でも多少の格好はつくだろう。


「大事なゲストだからな。退屈させるわけにはいかない。」


努めて軽く言って、麦わら帽を被せる。

靴を履き終えた小さな手を取れば、おずおずと握り返された。




***




連れ出したはいいものの、どこを目指せばいいのやら。


悔しいことに、空のように日本の喜ぶ遊びができるわけでもない。

ついでに、陸のように安心させてやることも。


まばらに聞こえる蝉の声を聞きながら、真新しい石畳を踏み締める。

とりあえず浜辺にでも出るかと商店街に足を向けた。


日本が物珍しげに左右を見回す。


「ここは?」

「海に出られる商店街。あぁ、あのスイカなんか美味しそうだな。」

「スイカ、好きです。」


裸電球の下でつやりと光る果物の数々。

背伸びをしながら店を覗き込む日本の愛らしさに、少しイタズラ心が湧いた。


「種を食べたことはないだろうなぁ?」

「昨日のお昼、ふたつくらいのんじゃいました。」

「あぁ、可愛い日本ともお別れか。」


バッ、と勢いよく日本がこちらの方を向く。


「なんでですか?」

「スイカの種を食べたらな、おへそからツルが伸びてきてスイカ人間になってしまうんだ。」


日本の頬からみるみる血の気が失せていく。


「どうしよう……父さん、5こくらい食べちゃったって……。」

「おぉ、お終いだお終いだ。今日の晩にはお葬式だな。」

「ぼくも……?」


うるうると両目に薄い膜を張った日本に見上げられた。


「まぁ。ジョーク……冗談だよ。」


ピタリ、と日本の動きが呼吸ごと止まる。

数秒後、両頬が浮き輪のよう膨らんだ。


「お、おーい日本?怒ったのか?」


ふいと顔を背けられた。

この横顔はまずい。完全に拗ねられてしまったらしい。


周囲を確認すると、ひらりと揺れる朱色の御旗。

その上に『あいすくりん』の文字が踊っている。


「日本、すまなかった。アイスクリン、食べないか?」


花びらのような唇が、ためらうように上下を繰り返す。

それを見逃さず、次の一手を畳み掛けた。


「暑いからなぁ。美味しいだろうなぁ。アイスクリン。」

「……あいすくりん…………。」


それとなくレストランの軒先まで移動し、最後の問いを投げかける。


「食べたいよな?日本。」


ドアノブに手をかけた俺を見て、日本はコクコクと頷いた。




***




窓際のソファ席に腰掛けて、日本にメニュー表を渡す。

アイスクリンだけでは店に申し訳ないしジュースとコーヒも頼むか、などと考えていると、日本がしゅんと萎れていた。


「どうした?」


テーブルギリギリまで顔を下げて日本を覗き込む。


「……食べたい味がふたつあるんです。でも……父さまに、虫歯になるからおやつは1日1こまでって……。」


悩ましげに寄せられた眉が壮大な悲壮感を漂わせている。

胸の奥にくすぐったいものが広がり、思わず笑ってしまった。


丁度近くにいたウェイトレスに声をかけ、注文を取ってもらう。


「バニラと苺のダブルと、バニラとレモンのダブルをひとつずつ。」


厨房に去っていく影を見送ると、日本はフクロウのような目になっていた。


「お、叔父上っ……!ふたつもなんて……父さまに知られたら……」


赤い顔で焦る姿がおかしくて、今度は肩を揺らして笑った。

不服そうに事の深刻さを伝える日本の頭を撫でる。


「叔父上はな、今日くらい甘やかされて欲しいんだ。」


う〜、と脳の処理を終えられない日本のもとに、ゴトリと涼しげな器が置かれる。


「バレないから大丈夫。俺は隠し事が上手いから。」


恐る恐る、という風に小さなスプーンが白の雪原を滑る。

ぽってりとした唇が、きゅっ、と噛み締められた。

日本が銀の柄を強く握って、のぼりくる朝日のように微笑む。


何よりも甘い笑みに、アイスクリンより先に溶けてたまるかと、必死に緩む頬を抑えた。




***




先ほど通った道を家に向けてなぞる。

西日を背中に受けていると、今度は草むらで鈴虫が鳴き出していた。


「叔父上。」


ぽつりと日本に呼ばれる。


「ん?」

「……ぼく、初めて父さんに秘密ができちゃいました。」


くふ、と満足そうに微笑みながら日本が言う。


「そうか。それは光栄だな。」


道脇から漂う夕飯の匂いに、先ほど満たしたばかりの腹が反応する。


「しっかり陸には秘密にするんだぞ。」

「はい!」

「ほぉ。何をだ?」


随分いい返事だな、と聞き覚えのある声がする。

ふたり揃ってギクリと後ろを振り向くと、案の定陸が立っていた。


「お、お前…陸……今日は夜までかかるんじゃ…」

「日本に会いたいからな。終わらせてきた。」


それで何が俺に秘密なんだ、と陸が腕を組む。


俺は日本と目配せをすると、細い体躯を抱き上げて一目散に走り出した。


「あっ、こら!海!日本!!」


見慣れた道を駆け抜けていると、丁度帰宅中らしい空に手を振られた。


「おーい!なんで走って……うっわ陸顔こわっ!!」


陸の怒号が響くたび、日本がきゃはきゃはと腕で跳ね、それに合わせて空も笑う。


茜色の雲の下、1日は静かに夏に溶けていった。



(終)

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コメント

9

ユーザー

ぐああああああ悶えました👊🏻👊🏻 なんて可愛いんでしょう。 この空気感に溶けたいです🫠💞

ユーザー

あっちみた後にこっちみちゃったからガチ情緒不安定ちゃむ🫵責任とってもらいますからね!とりまこの作品の日本くんの居場所を教えてもろて

ユーザー

最近、陸海空×日本にどハマりしてるのでマジで悶え死にました…。ちっちゃな日本君カワチぃ!!

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