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第9話
「うわあぁぁっ!海だーーーっ!!!」
砂浜に降り立つなり、全力で叫ぶ私。
潮風、青空、波の音——テンション最高潮!!
「……お前、開始一分でうるさい」
「え、うるさいって何!?今ここ、感動の場面だよ!?」
「映画だったら“音量注意”テロップ出るレベル」
「黒瀬ってさ、人生に字幕つけてそうだよね」
「どういう悪口だ、それ」
黒瀬 颯太。
無表情クール、だけどたまに変に優しい幼なじみ。
海に来ても冷静さMAX。
「ねぇねぇ、泳ご!」
「嫌だ。日焼けする」
「帽子あるじゃん!」
「砂が入る」
「もう理由が細かいんだよっ!」
「お前が雑すぎる」
はい、今日も絶好調に噛み合ってない。
パーカーを脱いで、水着になった瞬間——
黒瀬の手がピタッと止まった。
「……な、なに?」
「別に…その…似合ってる」
「っっ!?な、なに急に!!?」
「事実を言っただけ」
「真顔で言うなーーーっ!!」
私が慌てて浮き輪で体を隠すと、
「顔真っ赤」とボソッと言う黒瀬。
「そっ、それは日焼けですっ!!」
「まだ始まって5分なんだけど」
「紫外線って強いのっ!!」
笑いながら砂浜に座ると、
彼がタオルを投げてきた。
「ほら、ちゃんと拭け」
「わっ、ありがと。優しいじゃん?」
「別に。風邪ひかれると面倒だから」
「もう、それ口癖でしょ」
「実際、面倒だった」
「うっ……反論できない……」
そのあと波打ち際ではしゃぎながら、
颯太に思いきり水をかけてみた。
「くらえっ!青春のしぶきーー!!」
「うわっ冷て……。」
「勝った!!」
「まだだ」
「ひぃっ!?反撃早い!!」
バシャバシャバシャッ!!
完全に戦場。
そして、なぜか最後は私が波に沈んだ。
「……お前、ほんとバカだな」
「ぐすっ……海水しょっぱい……」
「当たり前だ」
「助けてよー!」
「自分で立て」
「冷たいなぁ!?」
そんなやり取りをして、気づいたら夕方。
夕日が海をオレンジ色に染めて、風が少し涼しくなってきた。
「……ねぇ黒瀬」
「ん」
「今日、楽しかったね」
「お前が勝手に騒いでただけだろ」
「いいじゃん!一緒に笑ってたじゃん!」
「笑ってねぇ」
「めっちゃ笑ってた!!」
「……笑ってねぇって」
「ほら、今ちょっと笑った!」
「……チッ」
「照れた!?今照れたでしょ!!?」
「してねぇよ。」
波音よりも賑やかな私たちの声が、
夏の夕方に溶けていく。
……でもまぁいいか。
勉強よりも、こういう日があっても。