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甲板にて心地良い風に当たりながら、己の護衛騎士の一人でもあるハレクと会話をしていたラティアは、その後、甲板を後にして、予約していた客室に向かう為、歩みを進めていた。
船内の中は、人が多く、湿気もあってか蒸し暑さが感じられる。
予約していた部屋に着いたラティアとハレクは互いに持っていた荷物を置いて、己の護衛騎士であるベルロットとバロン。
他国の研究所で、宝石の病の研究をしている研究者であるディークが居るであろう船内の中の食堂へと向かう為、部屋を後にした。
「そろそろ殿下が食堂に来る頃ですね」
バロンは食堂の壁に掛かっている時計を見ながら、そう呟く。
ラティアは騎士のハレクと共に甲板で少し風に当たった後、部屋に荷物を置いてから、食堂へ行くと言っていた。
今の時刻は12時少し過ぎである。
12時ちょっと過ぎるかもしれないと言っていたラティアの言葉通りにラティアは食堂はとやって来た。
ラティアが食堂に着くとバロン、ベルロット、ディークの三人がラティアとハレクの姿を見て、手招きし呼び寄せる。
「殿下、ラパニア国へ着いてからのルートが決まりました」
ラティアがバロン達三人の元まで歩み寄ると、窓際に席に座っていたバロンがラティアに報告する。
「わかったわ。話して貰ってもいいかしら?」
「はい。まずラパニア国に着いてから、ラパニア国とフィリアント国を繋ぐ国境付近の橋に向かいます。ですが、この国境を繋ぐ橋の付近は治安がとても悪いとされています。このルートで行くのなら、危険も少なからず伴いますが、大丈夫でしょうか?」
バロンは正直、ラパニア国とフィリアント国を繋ぐ国境付近の橋を渡ってフィリアント国にに入る事に対して、あまり乗り気ではなかった。
しかし、先程の三人での話し合いでディークの理由を聞いて、ベルロットも自分も納得し決まったことだ。
今更、決まったことを取り消す事は出来ない。
「貴方達が私のことを守ってくれると信じているから、大丈夫よ」
ベルロット、バロン、ハレクの三人はラティアが幼き頃からの付き合いである。
長年、ラティアの護衛として側に居た三人に対してのラティアの信頼度は数字では表せない程の物だ。
そして、ベルロット、バロン、ハレクの3人は自身の命に変えても、ラティアのことを守らなければならない。それが彼らの使命であるのだから。
✧✧✧
その日の夜。
ラティアは中々寝付くことが出来ず、己の騎士の一人であるバロンを連れて甲板へと足を運んだ。
「バロン、付き合わせて悪いわね」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
12時少し前ということもあり、甲板にはまだ人がいた。
ラティアは水面が見える船首まで足を運ぶ為、再び歩き出そうとしたその時、近くにいた酔っ払いの男の声がラティアの耳に入る。
「お嬢ちゃん〜、可愛いねぇ。おじさんと一緒に良いことしないかい〜?」
運悪く酔っ払いに絡まれてしまった自分と同じくらいの年齢の少女。
明らかに嫌そうな顔をしている少女に気付かないのか、酔っ払いは少女の肩を掴もうとする。
「近寄らないで下さい……!」
少女は肩を掴もうとしてきた男の手を払いのけて、酔っ払いの男を睨みつける。
酔っ払いの男は少女に拒否られたことに苛立ちを覚えたのか、暴言を吐きながら、少女を叩こうと手を上げるが。
「ちょっと、そこの酔っ払いの貴方。して良いことと悪いことがあるのよ。お分かり?」
ラティアが酔っ払い男の行動を静止しようとそう声を掛けた為、男は上げていた手を下ろし声のした方に視線を向ける。
「なんだお前〜? 偉そうに〜!」
酔っ払い男は矛先をラティアに変えたのか、ズカズカとラティアの元まで歩み寄り、ラティアの胸ぐらを掴もうとする。
「ほんと、どうしようもないわね」
ラティアはそう呟き、隣にいたバロンに目配せする。バロンは頷き、ラティアの胸ぐらを掴もうとした酔っ払い男の手を掴み、動けなくする。
バロンによって、またもや手を上げることを制止された酔っ払い男は苛立ちを声にする。
「なんなんだよぉ〜! どいつもこいつも俺の邪魔しやがって」
「邪魔したつもりはさらさらないわ。貴方がそこにいる少女に手を上げようとしていたから、止めただけよ」
酔っ払い男はラティアの理由を聞いても、納得いかないという顔をする。
自分の思い通りにならなかったことが気に食わなかったのだろう。
こういう輩は相手にすればする程、面倒な事になっていく。
ラティアは男の背後に立ち、こちらの様子を伺っている先程、男に絡まれた少女を見て声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい! 大丈夫です! 助けていただいてどうもありがとうございます」
少女は頭を軽く下げラティアにお礼の言葉を伝えた。ラティアは良かったと胸を撫で下ろし、少女の元まで歩み寄る。
「中々、寝付けなくて甲板に来たのですけれど、たまたま貴方とさっきの男との会話が聞こえてきまして」
「そうなんですね」
「ええ、もし良かったら少しだけ話し相手になって下さいませんか?」
誰かと話したい気持ちがラティアにはあった為、名前も知らない少女ではあるが誘ってしまう。
「私で良ければ是非……!」
少女は嬉しそうにそう返答する。
ラティアとミリアは夜の海を眺めながら、互いに質問する形で会話を始めた。
「差し支えなければ、お名前を教えて貰ってもいいですか?」
「あ、大丈夫ですよ。ミリアと言います。ラピティーア国の王都出身です」
「私はラティーアと言います。王都出身なんですね。私も王都出身なんですよ」
ラティアは自分がラピティーア国の第一王女だということをバレることがないように名前を弄り偽る。
ミリアはまさか目の前にいるラティアがラピティーア国の第一王女だとは思っておらず会話を続ける。
「そうなんですね。私、薬剤師をしているんですけど、他国の身分がかなり高い方から薬品を届けてほしいと頼まれて、ラパニア国の王都に行く予定なんです」
ラパニア国はラティア達の目的地ではないが、女神の宮殿が建つ最終目的地のアバール砂漠があるファリアント国まで行く為に向かっている地である。
「ラパニア国の王都ですか。私、ラピティーア国以外の他国の王都は行ったことがないのですけれど、どんな感じなんですか?」
「んー、そうですね。ラパニア国の王都はラピティーア国と違って、賑やかというより、華やかです」
「華やかですか。なるほど」
ラティアはラピティーア国の王都は賑やかなのは納得ねと心の中で呟きながら右隣に立つミリアの顔を見ながら頷き返す。
ラティアとミリアはその後も会話を続け、1時になった所で別れたのであった。