テラーノベル
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それは、何気ない午後だった。
風が優しく揺れ、セミの声が空に染みるように響いている。
川辺の木陰では、不破湊がベンチに座り、足をぶらぶらさせながら空を見上げていた。
不破湊「うーん……この前の空と、ちょっとだけ違う気がするなぁ……」
誰に聞かせるでもなく、ぽつりとつぶやく。
不破湊のその声は、周囲の空気までも柔らかくするようで、通り過ぎた風がくすぐったそうに揺れた。
そこへ、少し離れた場所から声がした。
加賀美ハヤト「不破さん。今日もここで日向ぼっこですか?」
その声に、不破湊が顔を上げる。やわらかく微笑むと、手をひらひら振って応えた。
不破湊「ハヤトくん!うん、風が気持ちいいから~」
加賀美ハヤト「……不破さんって本当に天使みたいですね」
不破湊「天使だよ~?」
加賀美ハヤト「はは、そうですね」
言葉の端に込められた冗談も、不破湊にはまるで届いていない。
けれど、彼の返答が妙に素直で、加賀美ハヤトはつい笑ってしまう。
加賀美ハヤト「その無垢さ、どこまで本気なんでしょうね」
不破湊「えっ?」
加賀美ハヤト「いや、こっちの話です」
そこへ、草をかき分けるような足音がもう一つ。
剣持刀也「おいおい、なんだこのメンツ。いつの間に僕だけハブられてんの?」
振り返れば、剣持刀也が手にペットボトルを二本持ってやって来る。
剣持刀也「はい、ふわっち。今日も暑いからさ、水分補給。ついでに社長の分も」
不破湊「わ~ありがとう、刀也くん~。冷た~い」
剣持刀也「……やっぱり、ふわっちってほっとけないな」
不破湊「ん?」
剣持刀也「いや、なんでもない。それよりチョココロネ今日持ってきてる?」
不破湊「今日はね、あんまり甘くないパン買ってきたの。なんだっけな~……クリームチーズとクルミのパン?」
剣持刀也「マジで?僕それ好き」
そんなやりとりの中、不破湊はニコニコと笑って、ベンチの端をぽんぽんと叩いた。
不破湊「みんなも座って~。パン、分けるね~」
剣持刀也と加賀美ハヤトがベンチに並んで腰を下ろす。
川のせせらぎ、蝉の声、そして不破湊の声が絶妙に調和して、どこか幻想的な空間がそこにあった。
しばらくして、甲斐田晴と三枝明那もやってきた。
三枝明那「おっ、全員集合じゃん。パーティーしてるの?」
不破湊「明那くん、晴くん、来てくれた~!今日も全員そろってるね~、嬉しい!」
甲斐田晴「……うん。来たくなったから」
その短い一言に、不破湊はにこっと笑った。
その笑顔が、まるで陽だまりみたいで───
見ている者の胸を、そっと締めつけた。
剣持刀也「……やっぱり、やばいわ」
三枝明那「わかる。やべぇ」
加賀美ハヤト「罪だな、これは」
甲斐田晴(……笑顔ひとつで、こんなに苦しくなるなんて)
5人で囲むパンの時間は、不思議と時間がゆっくり過ぎていった。
不破湊が空を見上げて、小さくつぶやく。
不破湊「みんなとこうしてるとね、心がぽかぽかするんだ~」
甲斐田晴「……それ、ずるいよ」
不破湊「え?なにが~?」
三枝明那「いや、もう何も言わないで……今の言葉、めっちゃ刺さったわ……」
不破湊「???」
不破湊の無垢な視線が、ふわっと全員に向けられる。
その瞬間、全員の鼓動が、なぜか跳ねた。
気のせいじゃない。
この空間にいる誰もが、心を奪われていた。
誰もが、視線の先にいる天使に、少しずつ惹かれていく。
あまりにも自然に。
あまりにも、抗えずに。
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