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じゃむじゃむあっぽー🍏
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第4話
階段での一件から数日後。
あの日のことを問い詰めるべきか迷ったまま、俺は吸い寄せられるように、また放課後の保健室のドアを引いていた。
ガラガラ、と音を立てて入ると、そこにはすでにベッドの上に座って、何かを嬉しそうに眺めている涼架の姿があった。体調は悪くなさそうで、ひとまずホッとする。
「あ、若井くん!ちょうどいいところに!」
俺の姿を見るなり、涼架はパッとタレ目を輝かせて、ベッドから勢いよく飛び出してきた。
「おい、急に動くなよ。…..なんだよ、そんなに嬉しそうに」
「 見て見て!これ、今日購買で見つけてさ。若井くんに絶対見せなきゃって思って買っちゃった!」
そう言って、涼架が俺の目の前に突き出してきたのは、一つの小さな消しゴムだった。
「消しゴム?…..あ」
よく見ると、その消しゴムの紙カバーには、イラストが描かれていた。すっと切れ上がった鋭い目つきをした、黒猫のキャラクターだ。
どこか不機嫌そうだけど、丸っこくて愛嬌がある。
「見て、これ!若井くんにすっごく似てるでしょ?」
涼架は消しゴムと俺の顔を交互に見比べながら、ふにゃふにゃと嬉しそうに笑っている。
その無邪気な様子に、俺は少し気恥ずかしくなって、わざとふんと鼻を鳴らした。
「…..どこがだよ。全然似てねえし」
「えー?似てるよ。このすっとした目元とか、ちょっとツンとした雰囲気とか、そっくり!」
「…やっぱり、吊り目だよな、これ」
自分の口から、ぽろりと苦い言葉が零れ落ちていた。
自分で言っていて、心がすっと冷えていくのが分かる。やっぱり、涼架から見ても、俺の目はこういう「キツい猫」みたいに見えているんだ。
可愛くデフォルメされてはいるけれど、要するに「目つきが悪い」ということに変わりはない。
自分で認めてしまったコンプレックスに、俺は思わず視線を床へ落とした。
すると。
「えっ….!?ち、違うの!違うんだよ若井くん!」
涼架が突然、弾かれたように慌てだした。両手をぶんぶんと振って、俺の顔を覗き込んでくる。
「何が違うんだよ」
「吊り目だからダメなんてこと、絶対にないよ!どうしてそんなこと言うの!?」
いつもふわふわしている涼架が、見たこともないくらい必死な顔をして、俺のブレザーの袖をぎゅっと掴んだ。
きゅるんとしたタレ目が、潤んだように真っ直ぐ俺を捉える。
「この目はね、キリッとしてて、凛としてて、すっごくカッコいいんだよ!僕は、若井くんのその目が本当に素敵だなって思って….だから、この猫ちゃんを見たとき、あ、大好きな若井くんの目だ!って思って嬉しくなっちゃったの。変な意味じゃなくて、本当に、本当にカッコいいんだから!」
一気にまくしたてた涼架は、はあ、と小さく息を切らせながら、顔を真っ赤にしていた。
「….涼架」
心臓が、耳の下あたりでドクドクと暴れ出す。
『大好きな若井くんの目』
そんなの、反則だ。天然で言っているのは分かっているけれど、俺のコンプレックスを、こいつはじられないくらいの熱量で、全肯定してくれた。
「…..お前、本当に慌てすぎ」
「だって、若井くんが悲しそうな顔するから…..」
涼架は少しシュンとしながら、掴んでいた俺の袖を離した。
俺はそんな彼の頭を、衝動的にくしゃりと撫でてしまいたい衝動を必死に抑えながら、言った。
「….じゃあさ、これ。大切にとけよ」
「え?」
「これなら、お前の言う『カッコいい目』を、いつでも持っていられるだろ」
ぶっきらぼうに言うと、涼架は一瞬きょとんとした後、すぐにいつもの、世界を溶かすような優しいタレ目で笑った。
「うん!もちろん、大切にするよ!」
涼架の手元に残った、鋭い目をした黒猫のカバー。
あの日、涼架が言っていた言葉が頭をよぎる。
『消しゴムのカバーの中に好きな人の名前を書いて、使い切ると恋が叶う』
まだ何も書かれていない、涼架の真っ白な消しゴム。
夕暮れの保健室で、俺は、ただ隣で笑う涼架を見つめていた。
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