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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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***


次の日、榊を迎えにいつものマンション前にハイヤーを停めて、わざわざ車の外で待った。昨日の礼を、直接言うために――。


「橋本さん、おはようございます!」

「おはよ。昨日はありがとな」


微笑みながら駆け寄ってきた榊に、橋本は右手をあげて挨拶しつつ、お礼の言葉をしっかり告げた。


「もしかしてクリスマスプレゼントは、そのネクタイピンだったんですか?」


目ざとく気づいた榊の視線に、ちょっとだけ照れてしまう。


「まぁな……。雅輝がこれを渡すタイミングを、なかなか掴めなかったところに気づいてもらえて、すげぇ助かったって言ってた」

「その石の色、橋本さんの愛車の青色と同じなんですね。宮本さんって、いいセンスしてる」


ニヤニヤして、自分をおちょくる榊から逃げるように、さっさと運転席に腰を下ろした。


「その言葉、アイツに伝えておくな」


橋本を追いかけるように、後部座席に乗り込んだ榊に言うと、「ついでにお幸せにという言葉も、付け加えてください」なんて、わざわざオマケまでつける始末。


「了解! きちんと伝えるよ」


言いながらシートベルトをしっかり締めて、ギアをドライブにいれる。ウインカーを点灯後、車がいないかしっかり確認してから、アクセルを柔らかく踏み込み出発した。


「橋本さんってば、てっきり指輪を貰ってると思いました」

「俺もな―、あのビロードのケースを見た時点でそう思ったんだが、その前にちょっとした事件があってさ」

「事件?」

「ソムリエ野郎が、雅輝をナンパしてきた」

「それって、大事件じゃないですか!!」


ちょうど信号が赤になる手前で、榊が大声をあげたので、橋本は驚きながらブレーキを踏んだ。いつものような振動を感じさせないブレーキングができず、上半身が前のめりになるものだった。


「橋本さん、よく喧嘩になりませんでしたね。俺ならブチ切れてますよ」

「ブレーキ、驚かせて済まない。喧嘩になる前に呆れちまってさ」


後ろを振り返りながら告げると、気難しい顔をした榊が首を傾げながら、橋本の視線を受けつつ口を開く。


「恋人が目の前でナンパされてるっていうのに、呆れる意味がさっぱりわかりません」

「だってよソイツ、雅輝のヤツがネコだと思って、誘いをかけたんだぞ」


「あ~……宮本さんのあの雰囲気だと、そうとられても仕方ないと思いますけど。でもそこはきちんと、牽制したんですよね?」


話が長くなりそうだったので、さっさと前を向いて、信号がいつ変わってもいいように、ハンドルを握りしめた。


「牽制っていうか、正しい事実を伝えてやった。コイツはタチだって。そしたらすげぇ驚いた顔してた。いやはや、滑稽だったなぁ」


忍び笑いする橋本に、榊は深いため息をついた。


「恭介なんだよ、その態度。俺は間違ったことしてないぞ」

「そうなんですけど年上の恋人として、もっと宮本さんを守ってあげるような言葉が、橋本さんにはなかったのかなぁって」

「俺が守る以前に、雅輝が恋人らしく堂々と対処してくれたから、俺の出番はなかったというわけ」

「いやそこは橋本さんが、ビシッと言ってやるところだと思いますよ」


やり取りしてる最中に、信号が青に変わった。額に手を当てて、うんうん唸る榊をルームミラーで確認後、アクセルをゆっくり踏み込む。


「俺さ、嬉しかったんだ。何かあっても、今まではオロオロしていたアイツが、「陽さんとは兄弟以上の関係ですので、お引き取りください」なんて、きっぱり断ってくれたのが、すげぇ進歩だなぁって」

「兄弟?」

「ソムリエ野郎が言ったんだ、ご兄弟かと思ったんだと。全然似てねぇのにな」


通い慣れた道すがら、昨日の出来事をアレコレ語る橋本に、車窓を横目で見ながら榊は穏やかな笑みを浮かべた。


「あのさ、恭介……」

「はい?」

「おまえがつけてる結婚指輪って、ふたりで選んだものなのか?」


ふたたび話題が指輪のこととなり、榊は目を見開きながら前を見据えた。


「実はサプライズで、和臣が用意したものなんです。もしかして橋本さん、指輪の購入を考えているんですか?」

「なんつーか、自然な流れで買うことが決まってさ。近いうちに雅輝と見に行く約束をしたんだが、宝飾品関係はとんと疎くてな」

「橋本さんが宮本さんと結婚。お似合いのカップルだなぁと思っていたのが、ついこの間なのに、ずいぶんと早い展開ですね」


意味深に瞳を細めた榊の視線が、ルームミラーからビシバシ刺さってきたが、華麗にスルーしながら返事をする。


「早くしないと若い雅輝が、誰かに目移りするかもしれないだろ。とっとと、首輪をつけておこうと思ってさ」

「宮本さんが、目移りするわけないですって。あんなに橋本さんにぞっこんなのに!」

「あんなにって、なんだよ……」


軽快な会話に比例して、赤信号に当たることなく、ハイヤーは順調に進んだ。右ウインカーを点灯して右折したら、目と鼻の先に榊の勤める証券会社が見える。

残り時間が僅かだからこそ、榊がたたみかけるような早口で言った。


「ちなみに俺は、そこまで宝飾品には詳しくないのですが、橋本さんがプレゼントされたそれは、とってもセンスのいいものだというのがわかります。なので、宮本さんにお任せしたらいいんじゃないですか?」


橋本がスムーズにハンドルを切り、会社前にハイヤーを停車させたら、優しく肩を叩かれた。


「恭介?」

「橋本さんが宮本さんをしっかり愛していたら、なんの心配もいらないですよ。想った分だけ、相手もしっかり想い返してくれるものですから。それじゃあいってきます!」


勢いよくハイヤーから降りた榊の背中に、橋本は慌てて声をかけた。


「アドバイスありがとな、頑張れよ!」


のちに、このアドバイスが痛いほど胸に染みることが、橋本と宮本に起ころうとは、夢にも思わなかったのである。


※タイトルはまだ決まってないけど、指輪を買いに行く話を連載しようと思います。

とりあえず決まってるのは、学生時代に橋本と肉体関係のあった人物が登場し、ふたりの仲を揺るがすという感じなのですが、いや本当にどこまで突っ込もうかと(ナニを!?)

お楽しみに!

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