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「ごめんなさい」
謝罪をする……それで許されるとは思ってはいけない。
傷付いた心は簡単に癒せるのもではなく、寧ろ謝ることで相手を侮辱していると捉えられ、怒りを買うかもしれない。
やられた人の気持ちが分かる私なら、母に謝られたからと言って心の底から許せないのと同じ。
そうは思っていても目の前で涙を溜め、抑えていても分かる戸惑いと憤りの感情を宿した瞳で睨まれるのは辛い。
辛いが受け止めること、そしてこれは私のケジメではなく、私が傷付けた相手である詩織に対してもう何もしないという宣言。
だから許しを乞う謝罪や、私の区切りとして自己満足になってはいけない。
罪を償うということは相手に対して誠意を見せるのはもちろんだが、私自身も変わりその姿を相手に見せなければ意味がない。
その為には相手を気遣い、同時に自分にも気遣いが必要になると麻琴に言われた。
自分を必要以上に追い込んで病んでしまっては、相手を嫌な気持ちを与えることになってしまうから気を付けるように釘を刺された。
場合によっては誠心誠意謝り続けるより、距離を取って疎遠になった方が相手の為になるとも言われた。
詩織は涙を溜めた目で私を見たまま何かを言おうとしたのか、小さく口を動かすが声は聞こえなかった。
罵られるかと思い体を強ばらせたが、詩織は何も言わずに背を向け去ってしまう。
追いかけようとも思ったが、それは私の気持ちの押しつけになるかもと思い留まる。
「罪は償うより、犯さない方が簡単かも……か」
詩織の為にと思いつつも、どこか許されたいと思う自分もいることを感じてしまう。
表では必死に償ってるつもりで、やってるんだと自分に言い聞かせる一方、終わりの見えない償いに自分勝手に区切りをつけようとしている私がいる。
「ホント敵わないなぁ」
下を向いて自分の心の内を考察しながら、こんな気持ちになることまで見抜いて予言していた麻琴のことを思い出し、その凄さを感じ笑いが込み上げてしまう。
「そう言えば……」
麻琴を知る切っ掛けとなった詩織が持っていたラバーストラップの存在をふと思い出す。
麻琴の話題を切っ掛けに話掛けれないだろうかと思い付くが、すぐに麻琴と肌を合わせたあの日のことを思い出し顔が熱くなる。
詩織が麻琴のファンなら、私が今麻琴と連絡を取り合っていることを知れたら逆効果成りかねないと思い、麻琴の話題に触れるのは止めておこうと思い留まる。
思い起こせば麻琴に出会うのはあの時に決まっていたのかもしれない。人の縁とはどこで繋がっているか分からないものだと思いながら自分の手のひらを見つめる。
償いと言えば詩織から自分勝手だと言われるだろうが、それでも私が人に温もりを伝えれるのならやってみようと思う。
どこまでも自分勝手な私だが、なんでもいいから新しい自分に向かって歩こう。そう思えるのは麻琴のお陰であるのは間違いないだろう。
私は顔を起こし、ゆっくり一歩足を踏み出す。
それが未来へ繋がる大切な一歩になると信じて。