テラーノベル
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正源が鉦を鳴らして読経を始めると、数分家族三人は神妙な顔つきで聞き入った。母親にうながされてあの男の子が線香入れの前に立った。
抹香を一つまみ手に取ると、一旦その指先を自分の額に当て、それから線香入れに投じた。
まだ六歳か七歳だろうに、堂に入ったものだと、正源は横目で見ながら内心感嘆した。やはり大金持ちの家の子どもは違うな、と思った。
父親と母親も形ばかりの焼香を済ませ、切り上げ時と悟った正源は経を読みながら袈裟の袂から、引導の紙を取り出し、スツールから降りてロボットの額に紙を置いた。
それからスツールにまた腰を下ろし、鉦を三回立て続けに鳴らして、最後の音声を張り上げた。
「南無阿弥陀仏!」
家族の方に向き直って一礼し厳かに告げる。
「これにてご供養とさせていただきます」
三人は一斉に深々と頭を下げた。主人である男が言った。
「ありがとうございました。では、ご住職様、あちらでお話を」
正源は再び応接間に通され、中に入ると既に新しい冷たい飲み物のグラスが二つ用意されていた。
向かい合ってソファに腰かけると、主人の男が分厚い封筒をテーブルの上を両手で滑らせて差し出した。
「ではお布施でございます。お納め下さい」
正源は右掌を縦に構えて一礼し、封筒を手元にたぐり寄せた。
「頂戴いたします」
封筒を鞄にしまいながら、ふとした好奇心で正源は訊いてみた。
「つかぬ事をおうかがいしますが、あのロボットはまだ数年しか使っていないとおっしゃっていたような。ああいう機械はそんなに寿命が短いものなのですか?」
男は飲み物を口に運びながら思案顔になって答えた。
「いや、日本の気候に合わないようでして」
正源も飲み物を口に運んだ。炭酸入りの透明な液体だが、はっきりと何かの柑橘類の味がした。何か分からなかったが、貧乏寺の住職には滅多にお目にかかれない物だという事だけは分かった。
「センサーの感度や人工知能の性能で言えば、北欧製が一番なんですがね。日本のこの高温多湿の気候に精密な部品がやられてしまうようなんですよ。特に夏場に戸外で使う事が多かったもので」
「なるほど、それはそれで大変ですね」
会話がひと段落したところで、正源はその家を辞した。門を出て、その家の使用人から教えてもらった幹線道路までの道を歩きながら、正源はため息交じりに独り言をつぶやいた。
「何か月か前の、身元不明の仏さんたちの合同供養とはえらい違いだな。人間よりロボットの方がよっぽど丁重に葬られている感じだ」
コメント
1件
うわあ、これは重いなあ…。ロボットの葬式、しかもセンサーが日本の気候にやられたって理由で数年でお別れか。人間よりよっぽど丁重に扱われてるっていう終盤の正源のぼやきが、じわじわ効いてくる。この世界、人間と機械の線引きがどこにあるのか、もっと読みたくなったよ。