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畑に種を蒔き終えたセリオは、大きく息を吐いた。
魔族の作物とはいえ、農作業の基本は人間界と変わらない。
とはいえ、長時間の作業で体が少し重い。
「ひとまず、館に戻るか……」
額の汗を拭いながら館へ向かう。
昼間でも薄暗い魔界の空を見上げると、どこか懐かしさを感じた。
かつて人間だった頃、こうして畑仕事をする未来を想像したことはなかった。
館に入ると、ほんのり冷えた空気が心地よい。
リゼリアの研究所ほどではないが、この館も魔術によって温度が調整されているらしい。
セリオは寝室へ向かい、椅子に腰を下ろした。
「ふう……」
背もたれに体を預けると、疲れがどっと押し寄せる。
ヴァルゼオとの戦いの傷はほぼ癒えたが、まだ完全ではない。
魔界での生活にも慣れてきたが、油断はできない。
「さて、少し休むか……」
そう呟いた瞬間——
ゴォン……
館の中庭に設置された転移門が光を放つ音がした。
誰かが転移してきたのだ。
セリオは軽く息をつきながら、立ち上がる。
警戒しつつ中庭へ向かうと、小柄な人影が転移門の前に立っていた。
「父さん!」
元気な声が響き、黒髪の少年——カイが駆け寄ってくる。
「……カイか」
セリオは軽く眉を上げた。
リゼリアが作った転移門は、研究所と館を繋ぐものだったはずだ。
その門を使ってカイが遊びに来たらしい。
「リゼリアは研究所にいるのか?」
「うん、母さんは研究で忙しそうだったよ。でも、僕は暇だから遊びに来た!」
カイは無邪気な笑みを浮かべている。
セリオはふと、自分にもこんな時期があったのだろうかと考えた。
「そうか……まあ、好きにしろ」
「やった! ねえねえ、父さん、何してたの?」
「畑仕事だ」
「畑? 父さんは農業ができるの?」
「試しにやってみている。今のところ順調だが、まだ収穫は先だな」
カイは興味津々といった様子で目を輝かせる。
「ねえ、僕も手伝っていい?」
「お前がやりたいならな」
「わーい!」
カイは飛び跳ねるように喜んだ。
セリオはそんな息子の姿を見ながら、ふと口元が緩むのを感じた。
魔界での生活はまだ始まったばかりだが——
こういう日常も、悪くないかもしれない。