コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ジョージは古い
一人掛けの椅子に座って
落ち着きなく身じろぎしていた
ため息をついて横を見る
味気ない病院の
ベッドに横たわっている
病床のロベルトを
見守り続けて3日になる
やきもきしてつま先で床を叩くのが
こういうものだった
こともすっかり忘れていた
ずいぶん前から
何事にも距離を置き
あらゆることに無関心で
生きてきたからだ
そうもう何年ものあいだ
黄昏時の薄明りが消えていくと
個別病棟の部屋はくすんだ灰色に
染められていた
そろそろ灯りをつけないと
痩せて皺だらけの
イタリア人のロベルトの顔は
突き出た鼻が古代の
彫刻のように超絶としているが
顔色は豚の腹のように白い
「・・・・そわそわするんじゃない」
穏やかな口調でロベルトが言った
「大丈夫だ・・・
まだ死なない
といってももう近いだろうが・・・ 」
「そんなこと言うもんじゃない」
ジョージがきつく諌めた
ロベルトはジョージが
話し出すのを静かに待っていた
しかしジョージは
ロベルトにもう胸の内を
明かすことを
上手くできなくなっていた
そうなってからもう何年も経つ
真実を語る方法を忘れてしまった
「イライラしているな」
ロベルトは探るように言った
「落ち着きがないぞ」
ジョージは肩をすくめた
「あんたを心配しているだけだ」
「わたしは元気だ」
ロベルトがきっぱりと言った
「大したことはない大げさだ」
ジョージは無言で
ロベルトを見つめた
数時間前医者を脅した末に
腎臓癌に犯されている
ロベルトの体は良く持って
余命三週間という
診断を聞きだした後では
ごまかされてやる気になれない
「新しい病院を探す
ここよりももっと
最新医療を施してる所だ
そこならもっとあんたに
色々世話してやれる」
「もう世話はしてもらっている」
ロベルトの声は穏やかだ
「わたしはここに残る
ここで死ぬのも悪くはないさ
ジョージ 」
「だから簡単に死ぬなんぞ言うな!」
ジョージは声を荒げた
「いいからおちつけ 」
痩せた肩をこわばらせた
「水を買ってきてくれないか
喉が渇いた 」
ジョージはゆっくり息を吐き出し
どうにか心を落ち着けて
病棟を後にした
少し席をはずして
自制心を取り戻さなければならない
長く薄暗い廊下を歩き
煌々と光る自動販売機の
ボタンを押した
モヤモヤとした考えが
体を覆った
母親のイタリア人のアンナは
ジョージを妊娠後に仕方なく
父親の貞夫と結婚した
しかし
結婚生活は長く続かなかった
夫の貞夫は農夫で勤勉に働くが
田舎者で退屈な男だったので
そして島根の牛を
相手にするような
習慣に慣れていない母は
自分の美貌を人生で楽しむために
2歳のジョージと父親を捨てて
その当時の愛人と
連れだって家を出て行った
残された貞夫は村中の
笑い者という屈辱に
耐えられず
アルコール中毒の道をたどった
あれはとても寒い日・・・
吹き付ける北風に
凍えても暖房など
なにもない小さなほったて小屋で
父の帰りをひたすら待っていた日
ジョージは熱を出していた
体は熱く意識は朦朧だ
でももうすぐ
父親が帰ってきたら
自分を助けてくれる
そう信じて
ジョージは寒さと戦っていた
ずいぶん経って
夜も深夜になろうとしていた時
ジョージは悟った
一向に帰ってくる気配がない
父親も自分を捨てたのだと・・・
薄れゆく意識の中
自分は両親に
見放された孤児なんだと思った
そしてこのまま死ぬのだと
寒さで手と足の感覚が無くなり
空腹と熱で意識も
朦朧としてきた頃
一人の大柄な白人男性が
家に入ってきた
ジョージは不信に思いながらも
指一つ動かせなかった
大きな腕に抱えられ
何もない地獄の
家から救い出された
栄養失調でかなりの
衰弱の治療を病院で行った後
大柄な白人男性の家に
連れて行かれた
白人男性は明るくこう言った
「やぁ!俺はロベルト
君の母さんの弟だ!
もっとも君の母さんは
麻薬のやりすぎで
死んでしまったのを
知ってるかい? 」
ジョージは激しく首を振った
「俺もつい最近知ったんだ
そして君の存在もね
そしてもう一つ悲しい知らせだ
君の父さんも
先日アルコール中毒で
脳卒中で死んでしまったんだ 」
ジョージは絶望したが
心の中では予期していた事に
不思議と聞いても
心は落ち着いていた
ロベルトは続けた
「君は一人ぼっちになったんだよ
でも僕も一人でね 」
白人男性は手を差し伸べて
こう言った
「お互い一人もん同士
仲良くやろうや! 」
差し出された手は・・・・
とても大きく
なぜかとても暖かそうだったので・・・
ジョージは無意識にその手を取った
こうして奇妙な大柄白人との
生活が始まった
ロベルトとの生活は初めて
ジョージに平安と
穏やかさを与えた
ジョージは小学校に
通わせてもらえていなかった為
ロベルトが
すかさず島の学校に
入学手続きを申し込んだのは
ジョージがなんと8歳の頃だった
まったく教育を
受けていないジョージに
ロベルトは熱心な教師だった
ロベルトは熱帯地方の
植物学者だった
珍しい植物を採取してきては
図鑑などに書き込む仕事をしていた
「身入りは少ないが」
庭のノコギリソウを
切りながらロベルトが言う
「人とかかわらずに済む仕事だ 」
ノコギリソウをジョージに渡して
笑った
麦わら帽子の影の顔から
白い歯だけは浮かんでいる
ロベルトは色は白いが
一日中外にいるせいで
日焼けして肌は赤黒く硬かった
決して裕福ではなかったが
もともと孤独だった二人の
出会いは運命的に思え
二人で寄り添って生きた
ロベルトとの幸福な生活も
大事だったが
次第にジョージは
体の成長と共に
獰猛な一面も伸ばして言った
地元の島で腕力で自分の
権利を主張することを覚え
町をうろついては盗みや
スリを繰り返していた
もちろんロベルトには秘密にしてた
地元のごろつき仲間と
夜遊びを繰り返している頃
ロベルトは自分が出版した
植物図鑑が売れ出し
学会の発表だかなんだかで
頻繁に東京に
行くようになっていた
始めはジョージも月に一回
ロベルトが東京の大学で
薬草学の教鞭をふるうために
上京するのに同行していたが
月に1度の出稼ぎなので
大人の付き合いや
なんやらでジョージはホテルで
待ちぼうけをくらうので
それなら地元に残って
友達と遊びたいし
一人で留守番も出来ると
ロベルトを説得した
地元のごろつき仲間と
夜遊びを繰り返している頃
ロベルトは自分が出版した
植物図鑑が売れ出し
学会の発表だかなんだかで
頻繁に東京に
行くようになっていた
始めはジョージも月に一回
ロベルトが東京の大学で
薬草学の教鞭をふるうために
上京するのに同行していたが
月に1度の出稼ぎなので
大人の付き合いや
なんやらでジョージはホテルで
待ちぼうけをくらうので
それなら地元に残って
友達と遊びたいし
一人で留守番も出来ると
ロベルトを説得した
ロベルトがいつものごとく
学会の出稼ぎから戻ってきた時だ
家路に急ぐ道すがら
いつもならここからでも
我が家の明かりが
見えるはずなのに
真っ暗だった
ジョージは帰っていないのか?
と不信に思った
ロベルトは足早に玄関に向かった
ジョージはいた
玄関に丸くなってうずくまっている
鍵を開けようとして
力尽きたのだろう
鍵がジョージの横に
投げ出されていた
ひどく怪我をしてる
ロベルトはジョージを抱き上げ
家に連れて入り
怪我の手当てをした
腹にも背中にも
殴られた跡がある
切れた額と口から
血を流していて
片方の目は腫れ上がり
まぶたがほとんど閉じている
まさにボコボコだ
ロベルトは清潔な布と
軟膏を持ってきて
ジョージの手当てをした
腫れて痣になった所は
自家製のアロエの軟膏シップを張り
包帯を巻いた
擦り傷・切り傷は丁寧に消毒し
バンドエイドを貼ってやった
瞼の変形はどうしようも
なかった
数日たって
腫れは引くだろうが
目に障害が残る
ほどかもしれないと思うと
不安になった
「縫わなくてもいいと思うが・・・
明日病院に行こう 」
ロベルトは言った
「どうしてこんなことに?
誰にやられた? 」
ジョージは頑くなに
口を閉ざした
ロベルトはため息をついて言った
「やれやれ
まるで口を閉じた
アサリみたいだな
しゃべるつもりはないならいいが
こっちの身にもなってくれ
学会であれこれ矛盾を突きまわされて
疲れて帰ってきたら
ベッドで寝息を
立てているはずのお前は
玄関で血だるまになっている
寿命が縮まったぜ 」
「・・・・ごめん・・・・ 」
素直にあやまった
それからロベルトは
自分のパジャマをジョージに着せ
ベットに運んだ
ロベルトの大きな
パジャマがありがたかった
今は服が擦れただけで
あちこち体が痛んだ
さらに温かいスープを飲まされ
今は腹の底に温かい
じんわりしたものが
留まり睡眠を誘っていた
ロベルトのベッドで
寝かされていたので
当然風呂に入って
寝仕度をしたロベルトと
同じベッドで寝る
はめになってしまった
ロベルトは大人の男の匂いと
植物の匂いがした
自分のベッドで
寝ようと思っても
ジョージは体中痛くて動けなかった
そしてこんな寒い日に
狭いと文句を言う
ロベルトは信じられないほど
温かだった
「ロベルト・・・・ 」
薄暗い月明かりの中
ジョージは不安になって言った
「うん? 」
「僕の事・・・嫌いになった? 」
暫く沈黙が続いた
ジョージはこの上なく不安になった
もう自分はロベルトに嫌われ
一緒に住めなくなって
しまうのだろうか?
また一人になって
しまうのだろうか?
その恐怖が体全身に伝わり
小さく震えた
ロベルトが腕を回してきたので
ジョージは頭をもたげて
腕枕をしてもらう形になった
「いや・・・・・
嫌いにはなっていない
だがジョージ俺たちは
親子じゃない
血がつながっているとはいえ
俺達はお互いのことは
何も責任が無いんだ
お前が別の誰かと
暮したいと言えは
俺は止めるすべもない
親子でもない
友達でもない
だからこそ・・・・ 」
ロベルトとジョージは
お互い見つめ合った
「お互いを
「信頼」するということで
結び合えると俺は思っている
ジョージ・・・・
正直でいると約束してくれ 」
ロベルトはそう言った
ジョージはもう
黙っていられなかった
「車の中だったから・・・ 」
思い出すような口調だった
「町の仲間のボスに
「ゆづき」って奴がいてね
その彼女のマユにゆづきの車の中に
引きづりこまれたんだ
ゆづき達が出かけてる間に・・・」
ロベルトが目を丸くして聞いた
「なんと!
町のろくでなしじゃないかっ!
ああ・・
怒ってないよ大丈夫だ
続けて 」
「そんで・・・
彼女がキスしようって
言ってきたんだ
でも彼女はゆづきの女だし
僕はいやだって言ったんだ
だってまゆはいつも
僕を見てクスクス笑うし
時々いぢわるもしてくるんだ・・・
だけど断ったら
ゆづきにチクルっていうし・・・
その・・
僕に無理やりやられたって
なので言う通りにしたんだ 」
彼女は肉と焼いた
玉ねぎの味がした
夕食はハンバーグ
だったに違いない
フンフン鼻を鳴らしながら
舌を入れてきた
気持ち悪かった
なのに自分のモノは
半分勃起しかけていた
「それに・・・
あろうことか彼女は・・・・
僕のズボンをずらし・・・
オチンチンを咥えたんだ
信じられなかった
そして僕にも同じ事を
しろって言ったんだ 」
びっくりしたことに
彼女はジョージの顔に
馬乗りになってきた
そしてジョージの髪を掴んで
腰を揺らした
ジョージは息が出来なく
必死になって抵抗した
さらに興奮した彼女は
車のライトをつけた
繋がっている所が見たいと言った
その頃には
ジョージも抵抗する
気力がなくなっていた
「気味が悪かった・・・・ 」
ロベルトは何も言わなかった
でも話し出してしまえば一気に
終わりまで話さなければならなかった
ジョージは止まらなかった
しゃべり続けた
「彼女は僕の上に
乗って暴れ回ったんだ
どうしてあんなことが
出来るのかな?
嫌でしかたがないのに
あんなことはしたくないのに
でも・・・
それでも・・・
オチンチンは気持ち良くて
たまらないんだ・・・ 」
ライトをつけて
いたのがいけなかった
彼女が三度目の絶頂の
叫びをあげた時
車のドアが勢いよく開いた
途端にジョージは
髪の毛を掴んで
引きずり出され
目の前にいたゆづきとその手下に
ボコボコにされた
ジョージはボコボコにされながらも
必死で自分の一物を
ズボンに隠した
自分のモノは彼女の愛液で
ヌルヌルしてた
激怒したゆづきが
ナイフを取りだし
ジョージの一物を
切りつけにかかった時に
女のまゆがヒステリーを起こし
ゆづきをひっかいた
その隙になんとか
ジョージは逃げ出した
ロベルトは乾いた笑い声を立てた
「なんと・・・
11歳でその修羅場を
潜り抜けるとはな
お前を一目見た時から
お前の人生で
女性問題は避けて
通れないだろうと思っていたが
それはお前がずっと大人に
なってからの
事だと思っていたよ 」
それから静かに言った
「お前の姉さんの・・・・
アンナはそれは絶世の美女だった
子供心に姉さんの
美しさにうっとりしたもんだよ
性格は最悪だったけどね 」
「そうなの? 」
ジョージは尋ねた
初めて母の事を教えてもらった
「DNAって不思議だな
俺はお前の父さんも知ってるが
姉さんが子に自分の
特徴をそっくりそのまま
残したんだって・・・
お前を見た時思ったよ
と言うことはだ
ジョージお前は優れた容姿を持っていて
これからもその外見につられて女は
寄って来るってことだ 」
「そんなの・・・・
嫌だよ・・・・ 」
ジョージは口ごもった・・・・
母は麻薬中毒で死んでしまった
自分もそうなるのではないかと
ジョージは不安になった
「そうだな
愛のないSEXはするもんじゃない 」
「愛? 愛ってなんだ? 」
純粋な目で聞いてくる
この腕の中にいる美しい少年を
ロベルトは哀れに思った
可愛そうにこの子はこの歳まで
誰からも愛を注いでもらえなかった
「そうだな・・・・・
たとえば
もし俺が今日のお前みたいに
怪我をして
倒れたとしたらどうする? 」
ジョージがすかさず
答えた
「そんなの大変じゃないか!
手当てして・・・
え~と・・・
そうだな
寝かせて
飯くわせて
とりあえず!面倒みるよ! 」
ロベルトは笑った
「それはどうもありがとう
それから俺が泣いたり
悲しんだら どうだ? 」
ジョージはしかめっ面をして
考えた
「そうだな・・・・
それは僕も悲しいな・・・
ロベルトが喜びそうな事を
してやるよ! 」
ロベルトは優しく
ジョージの頭をなでて言った
「ああ・・・・
そうだ
それが愛というものなんだよ
人間なら誰もが持っている
相手を思いやる心だ
たとえば
優しくしてやったりとか
喜ばせてやったりとか
労り・・・・
尽す心・・・・
誠実
真心・・・
すべて相手に対して
与えるものが愛だ
だが奪おうとすればおかしくなる 」
ジョージは考え込んで言った
「・・・難しいぞ 」
「ああ そうだな
俺も今だにちゃんと出来ていない」
声がまだ笑っている
「悩むことはない
愛は自分の心にいる
必要な時にちゃんとそれを発揮できる
さぁ もう少し眠るといい
朝になったら起こしてやる 」
ジョージはおとなしく丸くなり
数分もすると寝息をたてはじめた
ロベルトはため息をついて
体を休めた
「ロベルト・・・・ 」
不意にジョージが言った
「なんだ?まだ何かあるのか?」
寝言なのかどうかも
分からない声で小さく言った
「愛しているぞ・・・・ 」
驚いたが
不意に愛しさがこみあげてきた
「俺もだよ
甥っ子・・・・・ 」
ロベルトはジョージの
おでこにキスをした
ジョージにはこれが
初めての愛されたキスだった
他の同じ年の子供なら
当然のように両親から
受けているキス
愛され・・・・
守られて
育つ・・・
それがこんなに心地よいもので
大切にしたいものだとは・・・・
ロベルトといつまでも
こうして暮らしたい
この歳のジョージに
初めて芽生えた感情だった・・・・
ジョージは悪の手下から
抜け出したかった
でもそれがとてつもなく
難しいことだと
悟った時は遅かった
幸いジョージは現実に
無力な少年だった
時期は長くはなかった
ジョージの成長は早く
恐ろしくハンサムな顔に
獰猛そうな顔つきが相まって
ゆづきの縄張りには
収まりきれなくなり
とうとう17歳の頃には
上層幹部の目に止まり
ヘロ〇ン密売組織に
加担するまでになっていた
そのうちロベルトが
言っていたように
自分の容姿が女には
特別な感情を抱かせることを
自覚しだした
女はきまって
自分を見てクスクス笑い
猫のようなしなを作って
アノ目で見てくる
SEXしたがってる目だ
ある一定の技を使って
まゆを始め
力のある女をSEXで
骨抜きにして
思いのままに操る
それこそ手当たりしだい
女に手を出した
中には怖い
組長の女にも手を出した
あやうく何度も殺されかけたが
向こうが離してくれないのだから
ジョージにはなすすべもなかった
愛のあるSEXとは
程遠いものだった
そうこうしてるうちに
ロベルトに体の異変が起こった
ある夏の暑い日
ロベルトが庭に血を吐いた
しかも大量の
病院の何度も行う精密検査の上
「肝臓癌」だと診断された
しかもかなり進行している
肝臓と骨への移転などに関する
説明を耳に傾けて
戦っても無駄だとロベルトは笑った
何もしなければ余命一年
ジョージは
あがらって欲しかった
育ての親がいなくなれば
自分は本当に
天涯孤独の身となる
そのことを考えるだけで
全身冷や汗が出る
ジョージは何より
一人になるのを恐れた
自分のために生きて欲しかった
ロベルトの愛情は
幼いころから
疑ったことはなかった
昔から陽気な明るい性格の
ロベルトの気の利いた
軽い冗談にどれほど
恵まれていなくても救われた
ロベルトさえいてくれればよかった
ロベルトはジョージの聖域だった
どんなにこの手を汚しても
ロベルトの元に帰ると
自分が清められる気がした
熱心なカトリックのロベルトは
いつも聖書を読んでくれた
不可解な教えをロベルトの
ように信仰しようとは
思わなかったが
たぶん自分は煉獄に
落ちるのだろうと思った
だが一つだけ
神に誇れるものがある
それがロベルトだった
自分はロベルトを心から愛した
それだけは言える
愛がまだどういうものかは
わかっていないけど・・・・
ロベルトに対する自分の
思いこそは
本物と思えた
そうしてジョージは
癌の最先端医療施設に
ロベルトを入院させ
その高額な医療費を稼ぐために
上層幹部のつてを色々伝って
慎二に出会い
ホストになった・・・・
ホストはまさに天職だった
努力をしなくても
実績はどんどん伸びて行った
「ジョージ!
話があるんだ!こいよ! 」
またかよ・・・
ジョージはゼビアスの
楽屋で長い溜息をついた
「何すか?先輩」
「お前!俺の専属の
ユウコに手を出しただろ!」
先輩ホストの大輔が
ジョージを睨んで言った
大輔はメイクをする
タイプのホストで
すっぴんは幼顔で少年のようだ
そして筋肉バカだ
プロテインばかり飲んでいる
いくらメイクを濃くしても
パーツの造りが
半分外国人の
ジョージとは容姿では
比べ物にならなかった
「向こうが勝手に
昨日俺の専属になりたいって
言ってきたんですよ
断れる訳がない 」
ジョージはけだるそうに
頭を掻いた
だいたいなんで自分より
数か月早くゼビアスに
入ったからって
先輩風を拭かされ
なきゃいけないんだ?
「お前のそういう態度が
むかつくんだよ!」
従業員室での取っ組み合いも
地元のごろつきとの喧嘩で
鍛えたジョージはお手の物だった
むしろこうやって
力で決着をつけるのは
簡単でなによりそれを好んだ
ジョージは大輔の
鼻を折り
全治2ヶ月の怪我をおわせた
代表の慎二はそれを
面白がりジョージに好きにさせた
ゼビアスの従業員の間ではすでに
ジョージは神のような美しさを
持ちながら魂は地獄の
悪魔のように残忍だと
噂されていた
「ジョージ!
今度のわたしの誕生日
タワー入れるわ! 」
「もう業者に発注してあるよ 」
ユウコにあざやかな笑みをかわし
手を握った
シャンパンタワーを
入れてもらえれば
一晩で150万の売り上げにつながる
となれば今月も
ジョージがこの店の
ナンバーワンだ
もう半年連続だった
「今日はアフター
してくれるでしょうね?」
ユウコが猫なで声で言う
「店が終わってからでも
あそこのシェフは
私達のために喜んで
料理を作ってくれるわ
贔屓にしているから
あそこの店の最上階には
すてきな部屋があるのよ
大阪の夜景が見えて・・・」
恥知らずな女
自分を食事に誘い
一発やろうと言ってるのだ
ユウコの綺麗に施された
爪が光っている
酒をガバガバ飲む女は
水気を取りすぎていて
たいがいが冷え性だ
ユウコも冷たい手先で
ジョージの体に
ベタベタ触りまくる
雌豚め・・・・
心の中で罵りながら
ジョージは冷たい手にキスをした
「待ちきれないよ 」
白い歯をきらめかせて
目を細めて
罪作りな笑みを浮かべた
一撃必殺の笑顔だ
ユウコは頬を赤らめた
ユウコとのアフターは
ジョージにとっては
思いもよらない副業に
出会えることになった
「自分でラッピングしてるの
かわいいでしょ 」
小さくキラキラした
一見女性が持ち歩いている
生理用品のように思えた袋の
中身はコカインだった
SEXでユウコを
骨抜きにした後
頬を赤らめ肩で息を切らして
ユウコはジョージに渡した
「よければお友達の分も・・・」
ユウコは気前がよかった
ジョージがねだれば
いくらでもジョージに
コカインを与えた
ジョージはそれを
後輩の従業員や客に売った
このちょっとした
こずかい稼ぎは
ジョージの思いも
よらない副業になった
これでロベルトの治療費も楽に払える
ジョージには金が
必要だった
しかしジョージ自身は
コカインはやらなかった
ジョージの母親が麻薬のやり過ぎで
死んだとロベルトから
聞いたことを思い出す
そのたびあの重苦しい気持ちが
沸いてくる
コカインを握りしめて言った
「こんなもののために
死んだのか・・・・・
愚かな女だ 」
そう女はみんな愚かな
生き物だ
自分が今後女に何か期待する
事はないだろう
ジョージはコカイ〇を
トイレに流した
ロベルトを連れてきた
レストランは
ユウコのおすすめの店の一つだった
大阪市内の大通りから
外れた道をジョージの
車で走ったあと
新緑豊かな山手に入り
目立たないながらも美しい店だ
美しいものが好きな
ロベルトの静養に
良いと思ったので連れてきた
料理もワインも上等だった
しかし
サラダのローストと
魚のグリルという
ロベルトの注文に
ジョージは不満を示した
「まだ食えるだろ 」
叱るように言い
ジョージはメニューを開き
「牛肉のタリアータ」
も注文した
ロベルトはワイングラスを
口に運んだが飲みはせず
香りを楽しんでいた
「まったく
お前は道ですれ違う
女性全員の注目を
浴びないと気が
済まないみたいだな・・」
笑って言った
レストランのウエイトレスは
ジョージをさっと品定めすると
灌漑したように
目を見開いた
そしてこれでジョージに
水のおかわりを注ぎに
来たのは3度目なのに
ジョージのグラスが
水でいっぱいになっても
まだ彼を見つめて
ボーっと立っていた
「ありがとう 」
ジョージは艶やかな
笑みで迎え撃ち
ウエイトレスがぼーっと
するのを許した
ジョージに一目惚れした
ウエイトレスは今は
過剰サービスしようと
ロベルトとジョージの
テーブルの周りをウロウロしていた
帰りの会計では
自分の連絡先を渡すに違いない
でも・・・・
無理もない・・・・
ロベルトは目の前にいる
美しい青年に成長した
ジョージを見つめた
十数年前
腹をすかせて震えていた
小さな少年は
今では見る影もなく
立派な身なりをして
散髪に金をかけ
上質の靴を履き
銀行にも金があるのだろう
こんな病弱のおいぼれの面倒を
見てくれている
ジョージはロベルトの言った事が
気に食わないらしく
ムスッとしてこちらを睨んでいる
この表情は小さい頃と変わらないと
思うと思わず笑みがこぼれた
「せっかくの一時退院なのに
もっと食え
それに女が俺をみて
ボーっとするのは
俺のせいじゃない
ここで死にかけた年寄りと
ホストの詰り合いをしたいのか?」
ジョージはロベルトを見つめた
抗癌剤の影響で
髪が薄くなっていた
しわしわで体も
とても小さくなった
ここに連れてきたのも
病院食ではなく
少しでもロベルトに
精をつけて欲しかったからだ
あの夏の日に血を吐いてから
余命1年と宣言されたのに
最新医療のおかげで
ロベルトはもう宣言された
年月よりも1年も多く
生きながらえていた
どんなに無謀な賭けでも
手術でもなんでもロベルトを
生きながらえさせるためなら
何でもする
いくらでも稼いでくる
そうジョージは叫びたかった
ロベルトが言った
「まぁ なんだそう落ち込むな 」
ジョージは顏をあげた
「お前には感謝しているよ
ここの治療費とか色々
お前には無理をさせている
抗癌剤入りの点滴は
一本いくらだい? 」
「何をバカなっ!」
ジョージはあきれた
いつものロベルトの
軽口も今日は聞く気になれない
それ以上なにか言ったら
どなってやる
目に涙が滲んできた
「ジョージ・・・」
ロベルトが説教口調で言った
「わたしが死んだらお前は・・・・」
ジョージはもどかしそうに
テーブルを叩いた
ウエイトレスがびっくりして
こちらを伺っている
かまうもんか
「あんたは死なない!
死ぬことは俺が許さない! 」
ジョージはロベルトの
言葉を遮った
「子供じみたことを言うな 」
ロベルトの声が硬くなる
「最後まで言わせてくれ
私が死んだら
家の土地所有権や
財産分与などは
全部お前に譲る
書類は私の書斎の机の
箪笥の2段目に入ってる 」
ジョージは説明のつかない
恐怖に駆られ
小さく言った
「そんなもん!いらねーよ!」
ジョージは答えた
ロベルトはフッと笑った
この美しい生き物は
恐ろしく口が悪い
直させてやれなくて残念だ
「あいかわらず
死んだ貝のように強情だな・・・・
ああ お前相手じゃ
地獄の死神も私に手を
出せないだろうな 」
しっかりとジョージを見つめた
「でもな
ジョージ聞いてくれ
愛をお前に教えて
やれなくて後悔している
僕は独り者だったし
お前に両親が愛し合っている姿も
見せてやれなかった 」
「もう・・・十分
教えてもらってる・・・ 」
いくら怒っても無駄だ
ロベルトは自分が
死ぬのが近いのを分かっている
そうだ・・・・
正直言うとジョージも
痛いほど分かっていた
ここに来てロベルトは
恐ろしく衰弱している
今すぐにでも病院に
戻らなければいけない
でもロベルトはジョージと
二人っきりの
食事を楽しんでいる
自然と涙が込み上げ
喉がつまって
舌にのっていた肉が
不意に何の味もしなくなった
ロベルトの目にも涙が光っていた
強く・・・・
優しいジョージ・・・・
心の息子・・・・
ああ・・・
お前を残して逝くことが
どんなに心残りか・・・
しかし二人とも涙をぬぐう気には
なれなかった
もう二人には
かわす言葉が無かった
ただ黙って
こうして二人で
過ごす時間がこれで
最後だと分かっていた
言葉はなくても
お互いの存在を
強く意識している
テレパシーで語っている
出逢ってくれてありがとう
いれくれてありがとう
存在してくれてありがとう
そしてこれから一人ぼっちに
なってしまう不安
ロベルトは死への不安
不安だよ
寂しいよ
悲しいよ
愛しているよ・・・・
でもお互い大人なのだから
そんなこと言えない
ただ
ただ
お互いが愛しかった
こうしてロベルトとの最後の晩餐は
赤い夕陽に照らされて
二人は何も言わず
黙って泣いた
ウェイトレスも
泣いていた
ロベルトが死んだら終わりだ
それがずっとわずかながらも
自分の人間らしさを
保っている理由は
ロベルト以外の何もない
自分が心を許せる人間は
この世にただ一人ロベルトだけだと
そのロベルトとの永遠のお別れを
感じながら張り詰めた日々を
送っていた頃だった
その頃のジョージはユウコから
もらっていたコカインを
常備するようになっていた
「ジョージ 大丈夫? 」
暗い悪夢から目を覚ました
薬をやった後は
体が寒くてしかたがない
となりで俺を
揺すっている腕がある
それがとても暖かい
ジョージはその手を離して
ほしくなかった
うすぼんやりと視界が開けてくる
目の前にはユカがいた
「ジョージ
うなされていたよ!
怖い夢見たの? 」
「ユ・・・カ・・・ 」
息が荒い
深い海の底から這い上がって来た
ばかりのようだ
体の全身が力が入らない
ああ・・・
そうか
俺はユカを家に連れてきたんだった
不思議だった
自分が女を家に
住まわせているなんて・・・
ロベルトが聞いたら何て言うだろう
しかし
ジョージはユカの事を
ロベルトにどう話していいか
分からなかった
ジョージ自身も
ユカの存在の定義を
どう位置づけしていいか
戸惑っていた
自分は女嫌いなのに
仕事以外で女と接するなんて
論外だと思っていたのに
「怖くないよ」
ユカがジョージを抱きしめた
やっぱり温かい・・・・
「よし よし
あたしがいるよ・・・ 」
抱きしめられた
腕の中は誰かと似ていると思った
そう
ロベルトだ・・・・
幼い頃
ロベルトに抱きしめられて
眠るのが好きだった
なぜならロベルトは
とても暖かだったから
ジョージはいつの間にか
ユカを自分の布団に入れ
抱いて眠るようになった
ユカはロベルト同様
火鉢を抱いているようだった
一緒に布団にもぐって
寝ると暖房いらずで
さらに朝方もっとも冷え込む時間には
二人で首まで布団に潜ると
ユカはさらに燃え上がる
「子供体温だから 」
とユカは笑った
始めはペットを飼っているような
感覚だった
ホストでもない
自分にあきたらとっとと
家に帰るだろうと思っていた
それか別の男なり自分の面倒を
見てくれるヤツが出来たら
あっさりいなくなるに違いない
ある日ジョージのオフの日
コンビニに買い物に行くと
ユカは必死でアイス片手に
トコトコ後を付いてくる
眺めていると
ユカは本当に毛並は良いのに
手入れしてもらっていない
猫のようだった
せめて・・・・
服ぐらい買ってやるか・・・
そう思った時
仕事の電話が入った
心斎橋の有名宝石店の
オーナーの奥方からだった
ジュエリーをジョージに
選んでほしいとのことだった
この奥方は旦那と上手くいっていなく
終始欲求不満だ
行きたくないが
この奥方の機嫌を
とっておけば来月のこの人の
バースデーパーティーを
貸し切りでやってくれるだろう
休日を返上しても
付き合う価値はある
この努力がすべて
自分の売り上げにつながる
「行ってくる 」
ボーっと口を開けて
身支度をした自分に
見惚れているユカを後にして
仕事に向かった
・・・・・・・・・・・・・・
「あん!あん!あん 」
大阪は有名な高級ホテルの
最上階スイートのキングサイズの
ベッドで
ジョージは
奥方相手に腰を振っていても
腹の底のみぞおちに
嫌な感じが溜まる・・・・
昔悪い事をしてそれを
ロベルトに秘密にしていた時に
似ている
なんとなく落ち着かなく
嫌な感じだ
いつもならSEXをした後
お互い愛の言葉を交わしながら
のらりくらりと過ごすのだが
この時は最上階スイ―トに
奥方を残したまま
ショージは急いで家に帰った
帰るといつものように
ユカが笑顔で迎えた
ジョージはなんとなくホッとした
家なんて寝に帰るだけの場所という
認識しかなかった
ロベルトのように
一生打ち込んでやる趣味などもない
次の戦いにそなえて
体を休めるだけの場所
良く考えると
ユカはフローリングの床に
掛け布団一枚で寝ていた
自分よりユカの方がこの家に
いるのが長いので不便だろうと
ベットを譲ってやった
譲ったと言えば聞こえがいいが
自分が帰ってきたら
一緒に寝ればいいだけの事だ
そのうちダブルのベッドを
新調してもいい
しばらく経って家の中を
見渡してみると
ユカの物が増えていた
歯ブラシ・・・・
食器・・・・
しかしユカはジョージの渡した金を
ほとんど使わない
ユカの周りで
少しづつ「生活」が見えていた
でも主張しないで控えめだ
ユカはよくジョージを観察していた
機嫌が悪く一人でいたい時は
身なりをひそめて気配を消している
そして気分がハイで
少し誰かを構いたい時は
いつの間にかひょこっと隣にいる
ユカと一緒にいろんなものを食べた
ラーメン・・・
コンビニ弁当
おかし
アイス・・・
ほとんどがジャンクフードだが
一人で食べるより数段
美味しく感じた
ユカは料理もした
といってもカレーなど
簡単なものだったが
誰かに食べ物を作ってもらったのは
ロベルト依頼だった
「何してるんだ? 」
「見ちゃダメ! 」
ある日
いつもより早く仕事が
終わって帰ってきた時
窓辺にいるユカがあわてていた
何かが
おかしい・・・・
こういう感は
職業上働くものだ
ユカが自分に秘密で何か
隠しているのが気に入らない
そうだユカもやっぱり女だ
気を抜いてはいけない
何か企んでいるのなら
暴いてやらねば
嫌がるユカを払いのけて
ズカズカ窓辺に向かった
窓を見ると
曇りガラスにハートが描かれていた
そのハートの中には
自分とユカの名前が書かれていた
「あの・・・・
ちょっとした遊びなの
暇だったから
変な意味じゃなくて・・・・ 」
しどろもどろでユカは
真っ赤になって言い訳をしてた
これを見られるのが嫌で
隠していたのか?
顏を赤くしてまで?
訳がわからない
「ごっごめんね!消すね! 」
あわてて窓の
らくがきを消そうと
するユカの手を取った
「消さなくていい 」
「え?でも 」
「このままでいい 」
なぜだか分らなかった
でもらくがきの存在が
この家を暖かく人が
住んでいるものにしていた
それからは普通に風呂に入り
ユカを腹の上にのせて寝た
ユカはじっとしていた
そして湯タンポみたいに暖かい
酒の飲み過ぎで
冷えた体には心地よい
明日もしこたま飲んで
踊らないといけない
今は暖かい場所でぐっすり眠りたい
ロベルトにユカの事を話したら
どんな反応をするだろうか?
ジョージの中で
何かが芽生え始めていた
でも必死でそれを無視していた
それを見つめようと
すると決まって
麻薬漬けで風呂場で
死んでいる女の死体が見えた
ユカもあの女と同じだ
油断するな
頭の中で誰かが言う
でも もし違ったら?
そんなわけない
あとどれぐらい
自分をごまかしきれるだろう・・・・
ロベルト・・・・
ユカ・・・・・・
抱えなきゃいけないものが
増えてしまった
見たくない・・・・
今はまだ・・・・
ジョージは眠りについた
弱点を探れ
そこにつけこめ
頭の中で繰り返し
囁かれる言葉をジョージは無視して
頭から熱いシャワーをかぶっていた
あの恐ろしい女
マダムヨーコと出会ってから
慎二のために働くのは
もう我慢がならなくなって
ゼビアスの逃亡計画を考えていた頃
最初中国人から
この話を持ち駆けられた時は
どうということもない仕事に思えた
そもそも中国のマフィアとは
かかわりたくなかった
でも今はそうも
言ってられない
そう・・・・
目的のためなら
どんなことでもする
誰とでも手を組む
たとえそれが
かつて自分をこっぴどく
痛めつけられた中国人でも
そうして今まで
やってきたのだから
過去は重くのしかかり
醜い記憶はいまだに
よどんでいる
ジョージは自分に言い聞かせた
仕事は仕事として
冷静にこなせればいいと・・・
最近の慎二はホストクラブや
ストリップ劇場の経営の他
のめりこんでいるものがあった
それは「コカインの密輸」
でも組織は最近の慎二の
暴虐ぶりには手を焼いてた
いい兆候かもしれない
上手くやればヤツを破滅
させられるかもしれない
慎二には女のたらし方を
叩き込まれた
かつての自分
ひねくれて手癖の悪い少年
「ジョージ」
とは似ても似つかない
女なら誰にでも
なんなく嘘を吐けるが
あいにく自分の胸の内が
相手ともなるとそうもいかない
ユカを見るとなぜかイライラし
そして優しい気持ちになる
「良心の呵責」
これもまたジョージには
許されないものだった
人生のおおかたこの
良心の呵責というものが
障害になっていた
これまで積み重ねてきた
職歴を思えば皮肉なもんだ
かつての幼い自分
母親は自分を置いて逃亡し
アルコール中毒の父親と二人で
生活を数年過ごせば
何なくひねくれて
手癖の悪い少年「ジョージ」
の出来上がりだ
これまで大勢の
女達を誘惑してきた
中にはかなりの美人もいたし
そうでないものも
水差しのような優雅な体つきの女も
しまりの良い女もゆるい女も
SEXは好きだが
いつも三歩さがる
心持ちを保っていた
仕事がらみで女を抱くとなれば
なおさらだ
ゼビアスに入ってから
容姿と肉体を道具として
使うように求められてきた
SEXのテクニックは
十分に身に着けていたが
熱くなることはなかった絶対に
ユカの影響だ
そもそもなぜ
彼女を手元に置きたいと
思ったのだろう
危険なのは分かっていたのに
ユカにちょっかいを
かけたのもそうだった
ドラッグをやっていた所を
発見された時
この女を骨抜きにしなければと
いつものように使命感で抱いた
最初は使命感だったのに・・・・
他の女と変わらないと
思っていたのに
「良心の呵責」
彼女の周りはいつも何か光に
包まれていた
この気持ちをどう表せばいいのか
ジョージには分からなくなっていた
それほどあまりにも嘘と
だましの世界で生きてきた
素直に人と向き合うことなど
出来なくなっていた
それでもユカはまっすぐに
自分に向かってくる
そしてそれがやってきた
初めてユカが自分の腕の中で
絶頂を迎えた時
胸が締め付けられた
心も一緒に持って
いかれる気分になった
初めての経験で気分が悪かった
女に対してこれほど
優しくしたいと思った事は無く
これほど愛を必要と
している女にも
出会ったことがなかった
あろうことか俺は
本気で女を抱いている
今までどんな女もこれほど率直に
真っ向から向き
合ったことはなかった
気付くと俺は
泣いていた
「良心の呵責」
は
そんな俺を温かい腕で
だきしめた
抱きしめて
そのまま眠った
ふわりと目を覚ました時
自分がどこにいるかわからなかった
体がやけに柔らかく
温かく感じられる
ああ・・・
そのわけに気づいた
ユカが腕の中にくるまれていた
ジョージはユカの寝顔を見つめた
眠っていると赤ちゃんのようだ
かすかなユカの
シャンプーの香りを嗅ぐ
自分と同じシャンプーを
使っているのにどうして
ユカはこんな良い匂いが
するのだろう
ジョージはぴたりと
ユカに寄り添った
たやすく消えてしまうものを
優しくつかむように
肌が敏感になっていて
ふれあった箇所の
ひとつひとつが愛撫のようだ
喉が締め付けられて
目に熱いものがこみあげてくる
いったいどうしてしまったんだ?
この気持ちを
幸福感とは呼びたくない
それは自分の愚かさを示す
証拠になってしまう
でもとても心地よく
温かな気持ちだ
踏みつぶしてしまうべきだ
美しい思いを殺すのは
簡単だったはずだろう?
脆いものなどいらない
けれどもこれほど美しく
優しい思いにあがらえる
ことなどできない
そして指先が誘惑に負けた
ジョージはユカの頬に
ふれて柔らかく温かな
肌を愛でた
ゼビアスで厚化粧を
していた頃のユカと今は程遠い
なんとユカはシミひとつなく
パールのような肌をしている
ジョージは朝日の中
初めて女を美しいと思った
喉のくぼみや首のすじをながめた
柔らかく弧を描いた眉は
毛の一本一本がペンで
書かれたように
女の美しさを際立たせている
男にはない繊細さだ
そして影が出来るほどユカの睫は
長くくるんとカールされている
唇は艶やかに
桜色をしているユカの
乳首と同じ色だ
今は小さく空いて
寝息がもれている
朝日でユカの産毛がキラキラして
全身が輝いて見える
このまま飾っておきたいぐらいだ
いつの間にかユカが
目覚めてこっちを見ていた
茶色い瞳が
じっとジョージの顔を伺っている
「ジョージ・・・ 」
「しー・・・・ 」
考える前にユカの唇に
一指し指を当てて言葉を止めた
何を言ってもこの瞬間が
壊れてしまうかもしれない
雪のひとひらや細く渦を巻く
煙みたいに儚い一瞬だ
消えてしまったらたぶん
もう二度と戻れない
まるでうたかただ
しかしわずかな間でも
あるがままの姿を受け入れて
これから一生こんな
気持ちにならないかもしれない
今までどれだけ恵まれなくても
なんとかやってきた
指でふれたユカの唇は温かだった
ユカの手をつかみ
自分の手で包み込んでから
指にキスした
二人は向かい合ったまま
何も言わず
ユカがジョージの
硬いモノをつかみ
自分の中に滑り込ませた
ユカは自分の脚をジョージの
腰にからめた
ジョージはいっぱいに満たされて
はじめは動くこともできなかった
間もなく一つに溶け合った
ぎこちなさも怒りも
欲望もなかった
ただそうすること・・・・
それがあたりまえだった
二人の間で起こっていることを
何と言えばいいのだろう
ジョージはユカで
ユカはジョージだ・・・
魂が片割れを見つけたような気分
一つに溶け合い揺れていた
二人で
ゆるやかに踊るように
腰をうごかした
お互い見つめあったまま
快感の一つ一つを共鳴しあった
まわりは朝日に照らされ
景色はキラキラしている
こんな自分でも
やりなおせるかもしれない・・・・・
二人で幸せになれるかもしれない
こんな気持ちを抱かせるなんて
ユカは残酷で
そして天使かもしれない
ユカの中に魂ごと入りたかった
ああ・・・・
ユカは熱を放って
ハチミツのように濡れている・・・
腰を深く押し沈めると
甘えたように締め付けて
押し上げてくる
ユカの吐息に耳を傾けて
これから一生こんな
気持ちにならないかもしれない
まるで幻みたいだ
この瞬間の麗しさに体が震えた
思いがけない贈り物だ
愛した女の子宮に
自分の種を残したい
自分の子孫を残したい
原始的な欲求に
本能にあがらえない
なんてことだ
愛してるなんて・・・・
この 俺が・・・・
女を愛しいと思うなんて・・・
朝日の中
不思議と射精した時
ロベルトの事を思い出した