「え~と・・・
たしかここに・・・・ 」
麻美は母の部屋で
箪笥の引き出しをあさっていた
今しがた麻美の母は自分が経営する
スナック勤めに出かけたばかりだ
母は夜通し店で飲んで朝方
酒臭い息で帰ってきて
昼過ぎまで泥のように眠る
もうそんな生活をずっと続けている
小さい頃は
自分と一緒にいて欲しくてよく
母親に泣きついたものだった
でも決まって麻美の機嫌をとり
さっさと行ってしまう
それは麻美が高学年になって喘息の
病気が出ても母の態度は
変わらなかった
今は母を恋しがる歳でもなく
麻美は麻美なりに寂しさを紛らわす
術を身に着けるほど大きくなった
一段目の引き出しを漁っても
何もなかった
二段目に移る
「あった!」
そう麻美の母は決まって何かあった
時のために現金を必ずこの引き出しに
隠してあるのだ
麻美は現金の入った封筒を
取りだし数を数えた
「1・・・2・・・3・・
4・・5・・ 」
諭吉を5枚握りしめ
残りを箪笥の奥にしまいこむ
これだけあれば今から考えている
計画に足りるだろうか
いや・・・
もっと持って行った方がいいだろう
もう少しくすねようと
麻美は箪笥に手を出した
「何してるの? 」
その言葉に麻美は文字通り飛び上がった
あわてて箪笥にお金を戻そうとして
指を挟んだ
麻美は悲鳴を上げた
麻美の母親が入口に立っていた
怪訝な顔でこちらを伺ってる
「お小遣いは十分足りてると思うわよ?
そんな大金いったい何に使うの? 」
麻美は金を即座にポケットにしまった
「ええっと・・・・
参考書を買うの! 」
「どんな参考書?
ママが買ってきてあげる
それか一緒に行きましょうか? 」
「そんなっ!
ママはお店が忙しいでしょ?
自分のことは自分で面倒見れるわ!」
なだめるように言った
母は大きくため息をついた
「そのお金はお店のための大切なお金よ
学校も行かずに!夜遊びばかりして!
あなたが何をしてるかママが
知らないとでも? 」
麻美はすべての言葉を飲み込んだ
言っても意味がない
分かってもらえない・・・
「あたし 忙しいの!
じぁあね!ママ!
お金!しばらく借りるわよ! 」
麻美はすばやく母の前を
通り過ぎようとした
しかしものすごい力で腕を掴まれた
「待ちなさい!
どこに行くって言うのよ!
警察が貴方を探してるのよ!! 」
その言葉にハッとした
いつもの威圧感
どうして自分はこの人の前に出ると
3歳児の頃に戻ってしまうような
気になってしまうのだろう
母に歯向かうには不屈の精神がいった
今まさにそれを振るう時だ
もうこの人に管理されて生きるのは
たくさんだ
「貴方が暴走族とかかわってるの
知ってるのよ!悪い事をしてるのも!
どうして自分の事しか考えられないの!
貴方がしてる事が
店の評判にでもなったら・・・ 」
「自分の事しか考えられないのは
ママの方よ! 」
麻美は母を睨みつけた
長年の怒りが爆発する
こんな時にまで店の事しか
考えられないなんて
ずっと寂しかった!
ママが水商売してるから
からかわれたこともあった
普通のママでいて欲しかった
傷つけてやりたい!それが実の母親でも
自分の痛みをわかってもらいたい!
強い口調で言った
「ママ!
あたし男ができたの!
このお金は男に貢ぐためのお金よ!
そうよ!暴走族の男だしその男と
沢山いやらしいこともしてるわ!
ママみたいにね! 」
母の顔に驚愕の表情が
浮かんだ
一度寂しくて店に顔を出した時があった
母は厚化粧で客の男と踊っていた
赤いランプの下母は男にしなだれかかり
首筋を舐め回されて笑っていた
母の声は崩れ・・・・
すすり泣きに変わった
「どうしてそんな子になっちゃったの?
苦労して育てたのに・・・
いったい・・・
どれだけあたしを苦しめたら
気が済むの?
いつ終わりが来るの? 」
そんな風にすぐ被害者ぶって
自分を弱く見せる
母が男にすがる時のパターンだ
そんな母が今は反吐が出るほど嫌いだった
もうこの女は必要ない・・・・
「ママは・・・
いつも自分は悪くないのよね
もう帰らない・・・・
こんな家! 」
母は非難の目で麻美を睨んだ
「こんな子が自分の娘だなんて
信じられない!」
その言葉は鉄のドアが
叩きつけられたように重く響いた
「あたしもよ!残念だわ 」
その言葉を境に
麻美は家を飛び出した
麻美は目に涙をためて
よろめきながら走った
母は止めずにさめざめ泣いていた
泣いても店には出勤するに違いない
そう・・・・
そんな程度のものなんだ
あたしの存在なんて・・・
父親の存在は覚えていない
ただ父親みたいに優しくしてくれる
母の店の客は知っている
母の男はかなりの頻度で変わっていった
男が変わる度母は泣き崩れ
ボロボロになっていった
ママの生きがいはいつだって男だった
あたしはただ小さく可愛く
収まっていればよかった
ママにとって自分は人生の
生きがいにはなれなかった
その事が麻美にとっては口惜しくて
受け入れがたい真実だった
でももう認めるしかない
麻美の小走りは
今は全力疾走に変わっていた
ホルターネックのカットソーに
短パンでスパイクヒールを履いて
全力疾走は少しこたえる
でも走らずにいられない
角を曲がった所で真っ黒い見慣れた
CBR400Fが停車していた
そのいかついバイクに
またがってる男がいた
うんざりとした表情の目は一重で
釣りあがっている
鼻は一度見たら忘れられそうも
ないほど長く
燃えるような金髪が逆立っている
その佇まいを見るだけで
麻美は息がつまり
あわてて涙をぬぐう
ああ・・・
いやになる
猛は本当にドラマティックな
登場の仕方を心得ている
わざとかどうかかはともかく
効果は抜群だ
猛の姿を見ただけで心が苦しい・・・
あいかわらずあたしは自分の
持て余してるパワーを
恋愛でしか発散できない・・・
でもこの情熱にはあがらえない
猛だけは他の男と違う・・・・
心が猛を欲してる
猛と少しでも長く一緒にいたい
それ以外のことはふっとんでしまう
猛の目に面白がるような表情が瞬いた
「おっせ~んだよ!チビ! 」
言葉にとがったナイフみたいに
キレがある
その声にぞくぞくする
猛の存在感は圧倒的だ
まわりの空気に電気が通ってるみたい
今にも気を失いそう
一目見ただけでこんなになるなんて・・・
ションベン女からチビに呼び名が
変わっただけでも
ずいぶん昇格したんじゃない?
自分を褒めてやりたいぐらいだ
せめてこのホルターネックが
小さな胸を少しでも強調出来たら
今しがた母と喧嘩したのに
そんなことしか考えられない
自分にあきれてしまう
「そんなに待たせてないと思うけど」
軋んだ声が出た
急に息がつまった
猛が麻美の顔を伺っている・・・・
麻美は途端に落ち着きなく
手に汗をかいた
麻美は不適切な喉の震えを飲み込んだ
「・・・何かあったんか? 」
猛は顏を曇らせた
色あせたジーンズと白の
シャツが引き立てる
体は力強くがっしりしてる
目線はとがったナイフみたいに
切れがある
猛は危うい男の性的魅力を
具現化したような存在だ
「何も!
ただおなかが空いてるだけ!
誰かさんが急がせるから 」
麻美は弱々しい声で説明した
二人は見つめ合った
フンと鼻を鳴らし
乗れと合図する
「飯行くぞ! 」
麻美はバイクにまたがり
そのバネのような体に腕を回した
長い腕・・・
Tシャツを膨らませている
二の腕の筋肉も
後ろから撫で回さずにいるには
意思の力を強く持たなければ
いけなかった
小さな胸を猛の背中に押し付けた
もっともこんな事をしたぐらいで
猛は簡単に誘惑できない
今までの自分のテクニックを総動員した
フェラチオでさえも
落とせなかったぐらいだ
今の自分ではお手上げだ
大人しく妹分でいるしかない
向かい風が麻美の目の端ににじんだ
涙を吹き飛ばした
不意に母の事を想った
今は猛に夢中になってる
自分もやはりあの女の娘なんだろうか
その思いも二人が風に誘われて
つっきる頃には消えていた
幾度となくあらわれるこの夢には
なじみ深くさえ思わせられる
ユカが部屋の窓枠にすわって
こちらを見ている
抱きしめたいのに
キスしたいのに
硬く起立した自分の一物で
突きあげたいのに
あろうことかユカは髪の毛一本でさえ
触らせてくれない
「戻ってきてくれ!」
ジョージは叫んだ
長い茶色い髪をなびかせて
微笑んでいる
頬にはえくぼが刻まれている
夢でも俺を苦しめるのは止めてくれ!
この一叫びで
ジョージは夢の世界から戻ってきた
しかし耐え難い夢から覚めた所で
耐え難い現実が待ち受けているのに
すぎなかった
また
やりきれない一日が始まる
これほどみじめな気分でなければ
笑い出してる所だ
夕べコカインを少し多く
やりすぎた事を後悔していた
ズキズキと脈打つこめかみを抑えて
ユカに対する言い訳を考え始めた
自分の中からユカの存在を消すため
何十人の女を抱いてきた
だが
あまりうまくいっていない
毎夜どんな女と寝ていようとも
朝方に目を覚ませば
あの眼差しが脳裏によみがえった
横で伸びている
女の腰のくびれを見ても
これがユカだったらと錯覚しかねる
もう遅いかもしれない
でももし少しでも自分に
希望があるのなら・・・・
ジョージはコップに水道水を汲み
喉に流し込んだ
一週間前
とうとうロベルトが息をひきとった
穏やかに眠るように逝った・・・・
ジョージはひっそりと葬儀をし
ロベルトの身辺を片付け
学会などで世話になった
知人には電報を打った・・・
心の中に記憶がよみがえってきた
黄昏時のロベルトの屋敷の庭の蛍・・・
二人で飲んだ紅茶
哲学
聖書
お説教を食らった時は
顏をしかめながらも
気にかけてもらえることを
密かに喜んだ
薬草とハーブ
ロベルトが愛したものだ
彼が見せてくれた世界
ジョージがハマっていた底なしの
沼の外の世界はとても美しかった
しかしはかなく蜃気楼のようだ
ジョージは両手で顔を覆い
肩を揺らして泣き始めた
ロベルトと出会った8歳の頃に
戻ったみたいだ
あの頃はじめて信頼というものを
教えてもらった
優しくされるのがどういう気分なのか
味あわせてもらった
そもそも優しさを知ったのは
あの時が初めてだった
それまで本当の意味では知らなかった
ジョージの父親は冷たい人間では
なかったが母の裏切りに
打ちひしがれていた
酒でボロボロになり
信頼どころではなかった
絶望が大きすぎて息子に
優しくするなどとうてい
無理な話だった
それでもジョージは
必死に父親を愛したが
その当時でさえ父の心が酒で
壊れていることはわかっていた
人に優しくするには強さと勇気が必要だ
しっかりとした心が
それはロベルトとユカから学んだ
ユカはこれまで出会った誰よりも
人を信頼できるという優しさと
強さを持っていた
本人が気付いているかどうかは
わからないがめちゃくちゃな
ジョージでも受け入れてくれた
ユカの優しさは本物だ
ジョージがふれられるもの
この手でつかめるものだった
ともに生きていきたい・・・
次第に漂っていた思考は
はっきりしてきた・・・
本物の人生を送る最後の
望みかもしれない
ユカと二人
どこかでやり直そう・・・・
家族
そうだ家族が必要だ
俺は子供はゴロゴロ欲しいし
産ませられる自信もある
ジョージがもう一度涙をぬぐった時
心に硬い決心がついた
ロベルトが背中を押してくれた
ジョージは傍にあった
TシャツとGパンをさっと身に着け
家の玄関を開けた
スーツ姿ではなく私服でゼビアスの
ドアをくぐり抜けるのは
これが初めてかもしれない
そしてこれで最後になる
ゼビアスのドアを開けようとした時に
その時誰かに呼び止められた
「ジョージ君!」
女が誰かは思い出せなかった
視界の隅に女の横に
そびえ立つように
佇んでいる男をとらえた
「誰だ? てめぇ 」
ジョージは二人を睨んだ
二つの考えが頭の中で火柱を立てた
もうゼビアスを辞めるのだから
どの女でせよ媚びを売るのは止める
もう一つは
今から大事な用を済ますには
たとえ誰であろうと怪しまれるような
事があってはならない
後者にしたがった
「え~っと・・・
どこかで俺と会ったかな?
よかったら店で少し飲む? 」
輝かんばかりの笑顔で
魅力を振りまいた
麻美は驚いた
久しぶりにジョージと会ったが
ハンサムで王子の様な
笑顔は相変わらずだ
でもさっき一瞬見せた
凍りつくような目線の睨みは
いったいなんだったんだろう?
「あたし!麻美だよ!ほら
ユカちゃんと一緒にいつも
飲みに来てたじゃん! 」
ジョージはやっと
思い出したかのように微笑んだ!
「ああ!ほんとだ!
久しぶりだね
暫く見ない間にずいぶん
可愛くなってたから
わからなかった 」
ジョージは麻美の肩に手を回して
久しぶりの再会を喜ぶフリをした
たしかこの女の担当は・・・・
「さわんじゃね~よ!
やさ男! 」
野生の動物のような
叫びと共に麻美の隣の男が
ジョージに掴みかかり
腹這いのまま地面に打ち付けた
片腕を後ろにねじり
筋肉の量でジョージを圧倒させる
「やめて!猛! 」
麻美は叫んだ
埃と反吐だらけのコンクリートに顏を
押し付けられて
ジョージは息をしようともがいた
毅が吠えた
「ユカはどこだ?」
猛にさらに高く腕をねじりあげられた
ジョージは
喘ぎながら声を絞り出した
「・・・お前・・・
ユカのなんなんだ? 」
「ユカは俺の女だ」
ドスッ
くそっこれはきく
猛がジョージの脇腹に一発
お見舞いしながら言った
ほぉ・・
おもしろい
野蛮な喜びがジョージの体を貫く
自分と同じくらい危ない人間と
ルール無用の殴り合い
今のジョージにはSEXよりいい
ジョージは素早く体を半回転させ
右足で猛の脚をすくい仰向けに転がした
意表を突かれながらも
猛は素早く体制を整えた
ジョージはラグビー選手のように
猛の腹につっこんだ
本能のままに体当たりを食らわせ
殴りつけ猛の攻撃をかわす
怒りに顏をゆがめた様は
まるで戦士のようだ
ジョージは連続で
とび蹴りを食らわせて
猛をあとずさりさせ
車が激しく行きかってる
大通りに猛を追いつめた
猛はバランスをくずし
無防備に股を開いた
「やめて!ジョージ君!
やめて! 二人とも! 」
叫び声と共に
冷水を浴びせられた
もう少しで蹴りを入れて
こいつの玉をつぶす所だったのに
振り返ると
麻美が泣きながら水が入った
火災用のブリキのバケツを持っていた
水をぶちまけたのは麻美だった
目を見開いて震えている
水は臭く
タバコの吸い殻が服についた
猛はいかめしい顏つきで
地面に尻もちをつき
首をまわし痛むところを
撫でさすっていた
髪から水がしたたり落ちてる
こっちも戦意喪失していた
「なんなんだ?
お前ら 」
荒い息を整え
麻美と猛をにらんだ!
「聞いて!!
あたし達
ユカちゃんを助けたいの!
お願い!
ユカちゃんの居場所知ってるでしょ?」
ジョージは二人に警戒の視線を投げた
「あいにく俺もユカの
居場所は知らない 」
「ユカは最後にコイツと会った時
犯されたんや!
そんなことも知らんのか
この間抜け! 」
猛がジョージを押しやって
よろめかせた
ジョージにショックの旋律が走った
あの慎二のやりそうな事だ
ああ・・・
そうだ なんとなく気が付いていた
「詳しく話せ! 」
麻美につかみかかった
麻美は悲鳴をあげた
その間に猛が割り込む
また殴り合いになるのは
目に見えている
一触即発な空気の中
麻美は早口でユカと最後に
起こった出来事を話した
麻美は息を荒げ
すべてを話しきった頃には
ジョージは両手で顔を覆い
しゃがみこんだ
麻美は信じられない思いで
目の前のジョージを見ていた
まるで初めて見る生き物の様・・・
猛より野蛮で手が付けられない
次の行動がまったく読めない
それほど麻美の知っている
「ホストのプリンスジョージ」と
今の彼はかけ離れていた
しばらく悲願に打ちのめされていた後
ジョージが顏を上げた
「ユカの居場所は知らないが
心当たりがある・・・
今からそれを突き止めに行く
来たければ来い
だが一つだけ言っておく 」
ジョージは猛の首に腕を回して
力のかぎり締め付けて
叫んだ
「ユカは俺の女だっっ!」
首を絞められた毅が
喘ぎながら
ジョージを背負い投げた
目の前の看板に
ジョージがつっこんだ
しかし
素早く体制を整えジョージは
毅に飛びかかった
さらなる取っ組み合いが始まった
麻美はふたたび
水の入ったバケツを手に取った
田村慎二は購入したての
ダイヤモンドの指輪をライトに照らし
恍惚としていた
このダイヤはとても貴重で
手に入れるまで何ヵ月も
かかった
このスーツもだ
イタリア産の生地をわざわざ輸入して
慎二の体にぴったり合うように
特注で作らせた
背中のシルエットが気に入っている
一流の男は
一流の物を身に着けるにふさわしい
こういうものをすんなり買えるまで
ここまで来るのに苦労した
おかげで金はくさるほど
有り余っている
新しい事業はとんでもなく
上手くいってる
慎二はテーブルにコカインと
数カラットはあるダイヤモンドが
ちりばめられたネックレスを広め
悦に入っていた
今日はこのネックレスを付けさせた
女と一流のホテルでしけこむか
湯船に札束を浮かせてもいい
どの女にしようかと
携帯をいじっていると
大きな音をたてて無分別に
事務所のドアが開いた
「何の騒ぎだ? 」
慎二は怒鳴った
ドアからジョージが進み出て
怒りに顏を歪ませている
「なんでスーツを着ていない?
店は終わったぞ! 」
「あんたに聞きたい事がる」
ジョージの後ろから
見知らぬ男と女が続いた
慎二は腕を前に組み
ジョージを睨んだ
「手短にすませてもらおう
これから出かけるんでね
給料の交渉なら明日にしてくれ!」
「あんたユカは面接に
来なかったと言ったな」
ジョージは言った
「な・・・なんの話だ? 」
慎二は目をぱちくりした
「あっああ!
前にお前の客に新しいレストランの
ウエイトレスをしてほしいと
言ってた件か?
あれはもう募集を締め切ったんだ
人数が足りたもんでね
んんんん! 」
猛が慎二の喉をつかみ壁に
押し付けていた
窒息させるほどの力ではないが
吐かせるだけの力はこめて
「募集?
あたし達を犯そうとしたくせに?
何がウエイトレスよ!
あたしを忘れたの?
ユカちゃんと一緒にストリップ劇場まで
面接に行ったのよ!あの臭い店にね! 」
麻美が慎二ににじり寄った
猛はさらに喉を締め上げ
慎二は風船がしぼむような
音を漏らした
「このダイヤや薬を買う金は?
どこから来ている? 」
ジョージはテーブルの
ダイヤを見つめながら訪ねた
「あたしあの時ユカちゃんの
叫び声を聞いたんだから
犯されそうになったって
警察に行ってもいいのよ 」
麻美がつめよった
慎二は口をパクパクさせたが
声は出てこなかった
「俺もお前のコカイン密輸や
脱税を警察にたれこんでもいいぜ 」
「な・・・
何も知らないっ
何の事を言ってるんだ
それに警察なんかに知れたら
この店もおしまいだぞ!
お前の仕事もなくなる!! 」
「ああ・・・忘れてた 」
ジョージは慎二の頬に
右ストレートを打ち込んだ
猛が口笛を吹いた
「今のは退職届けだ!」
慎二は咳き込んだ
猛からはまだ喉を締め付けられている
涙が流れ落ちている
「強姦!コカイン!脱税!
ったく・・・ろくなヤツじゃねぇな
吐けよ!ユカをどこにやった!
俺はブチ切れてるんだ
お前を殺したくてしかたがない! 」
猛は言った
「ミスヨーコにユカを売ったのか?
ミスヨーコの売春宿はどこだ! 」
ジョージが訪ねた
「売春宿?」
「売春宿?」
猛と麻美が聞き返した
「おっ・・・俺は・・・
無理だと言ったんだ・・・・
でも無理やりミスヨーコが連れて行った
前金もなしだっ!
お・・・俺は悪くない!! 」
慎二があわてて
しゃべりだした
「お前のことだ
その後たんまり謝礼を求めたんだろ!
お前がおとなしく渡したわけがない!」
ジョージが詰め寄った
「吐けよ!おら! 」
猛の腕に力がこもった
慎二がグエッと息を漏らした
「お・・
俺は行った事がないから
場所は知らない・・・
か・・会員制なんだ!
HPにアクセスがあるだろう・・・」
「名前は?」
ジョージは慎二のデスクの
パソコンを開いた
お気に入りのファイルに
「風俗」とあった
まったく反吐が出る
ジョージが楊貴館のサイトを見つけ
アクセスした
「こんな所にユカちゃんが・・・・
あんたは最低のクソよ!!
パスワードを教えなさいよっ 」
麻美が言った
慎二はつっかえながら言った
「せ・・・SEX・・・1・・1・・4・・@ ・・ 」
3人はあきれて顏を見合わせた
本当に反吐が出る
パッとパソコンの画面が
明るくなった
そこに楊貴館の住所が書かれていた
「・・・こんな所に・・・・ 」
ジョージは唖然とした
「どうした?
どこだって書かれている?」
猛は今は両手で慎二の首を絞めている
慎二はなんとか猛の腕を払おうと
首を振り続けている
「こんな・・・地の果てに・・・ 」
ジョージは驚愕した
「こ・・・・こんな事をして
ただで済むと思うなよっ・・・
ジョージ・・・・
あっ あんなに面倒をみてやったのに・・・」
嗚咽で体が揺れている
慎二が言った
「黙れっ! 」
ドンっ
慎二の背はまたも壁に叩きつけられた
猛が再び力を込めた
ジョージはため息をつき
疲れた声で言った
「そいつからはもう
何も出てこないだろう・・・ 」
ジョージは慎二の腹に一撃みまった
慎二が小便を漏らした
ピカピカの靴の先に
黄色い水たまりができる
ジョージは疲れた声で言った
「行くぞ」
ジョージはため息をつき
シルビアのギアを入れて
ゼビアスから急発進させた
「はぁ・・・
今のは気が滅入ったわ・・・」
麻美が後部座席からつぶやいた
「そんで今から
ユカ救出大作戦ってか? 」
猛が助手席で楽しそうに言った
「なんでお前らが俺の車に
乗ってるんだ? 」
ジョージは怒気を含んだ目を
二人に向けた
「いいじゃない!
あたし達も連れてって!
大勢の方が何かと便利よ 」
「それにお前しか場所は知らない」
猛と麻美が言った
ジョージは怒る気にもなれず
考えにふけっていた
今頃・・・・
ユカは何をしてるんだろう・・・
あのミスヨーコのことだ・・・
ユカにひどい事をしていなければ
いいが・・・・
以前演歌歌手のパーティーで
ミスヨーコと出会った時
あのクスクス笑いの意味を
捕え違えていた
てっきりSEXの誘いだと
思い込んでいた
あの笑いにはもっと
深い意味があったんだ
彼女は俺とユカの事を
知っているに違いない
あの女はユカと俺を番で
自分の店に欲しいと言ったんだ・・・
くそっ!ビッチの大親玉め・・・・
しかしサイトを見た限りでは
あそこは男性客相手の店だ・・・
ジョージは赤信号で停車した
隣で猛を麻美が息巻いて
しゃべっているが耳には入ってこない
俺がもっと早く行動を
起こしていれば・・・
でもロベルトが・・・・
いや・・・それは言い訳だ・・・
本当は怖かった
ユカが自分を裏切って
男と逃げていたら・・・・
現実に向き合えなかった
俺が臆病だから・・・
でもそんなことはもうどうでもいい
事態は深刻だ
何てことだ
ユカは人身売買にあって
娼婦館に売られた・・・・
信じられない
男と逃げてくれてた方がましだった
ジョージが長い事沈黙していた
そして車を自宅のマンションの
前に付けた
「ユカは秋田県の地の
果てに連れ去られた
お前らは帰れ 」
ジョージは静かな声で締めくくった
「それで?俺らを追い出した後
お前はどうするんだよ? 」
猛は首を振ってジョージに聞いた
ジョージは運転席から前方を
まっすぐに見据えて言った
「決まってるだろ!ユカを助け出す!」
:*゚..:。:.
.:*゚:.。
【秋田県 男鹿半島 某キャンプ場】
「まったく!重いったら!」
麻美は両手一杯に薪を持って
大股で歩いた
大阪から長いハイウェイを降りた後
丘綾地帯に入り果樹園を
通り抜けて湖水地方に
さらに東へ東へ車を走らせた
丸一日かけて車を走らせ
やっと夜になる頃
このキャンプ場にたどり着いた
ジョージが言うにはここで一泊
するのだそうだ
まったくジョージはいつの間にこんな
ルートを調べていたのだろう
山腹に掲げられた
標識を見るとここから
20キロの所に海岸沿いの丘がある
この高地の奥に行った港町に
ユカちゃんがいる
「楊貴館」
があるという
麻美ははじめて地元を離れて
こんな遠くまで来ていた
ここから山頂を見上げて
みても何も見えない
麻美はため息をつき
ジョージたちがいる
キャンプ場に戻った
オートキャンプ場の
駐車場に停車している
ジョージの銀色に光るシルビアは
キャンプ場にはふさわしくないような
気がした
隣に猛のCBR400がいかつく
停車している
「猛は?」
麻美は貰ってきた薪をバラバラ
落としながら
ジョージに聞いた
「知るか!俺はヤツの子守じゃない」
ジョージはまだ勝手についてきた
自分達を怒っている
大阪と違いここでの気温は
夏といえどとても冷える
麻美は買ってもらったばかりの
ダウンジャンバーを着こんだ
シルビアのトランクを開ける
そこには
ここに来るまでに
大きなショッピングモールで
買い物をした紙袋が山ほど
積みこまれていた
「これで服やら
必要なものを買ってこい
今から1時間後にここで会おう!」
先ほどのショッピングモールで
ジョージが麻美にクレジットカードを
渡して言った
「必要なものって・・・? 」
察しが悪い麻美を蔑むように
ジョージが説明した
「ユカを助けた時に
何も着ていない場合もある
だから・・・
一通りそろえてくれ・・・ 」
麻美はぞくっとした
そうだ・・・・
今からユカちゃんを助けに
行く所は風俗なんだ・・・
当然ユカちゃんはそういう扱いを
受けている・・・
ジョージも分かっている
もしこれが自分だったら・・・・・
あの時上手く逃げられた
自分は幸運だった
でもユカちゃんを
置いてきてしまった
麻美はそれを考えると
恐怖で震えた・・・・
罪を償うように買い物をした
洋服の棚を物色して
ゆかの体形に合いそうな
紺のスキニ―ジーンズを2本買った
それに薄いピンクの綿の
ボタンダウンシャツと
長袖のトレーナー
夜は冷え込むから
緑のジャンバーも
それから下着
シンプルで着心地の
よさそうな上下の
ブラジャーとパンティのセットも
2セットを
買い物かごに押し込んだ
それから綿の靴下に
ハイカットのスニーカー
サイズは知ってる22㎝だ!
それから?
何がいる?
着のみ着のままの女性が
少なくとも普通の自尊心が
癒されるのには何が必要?
麻美は携帯用の洗面用具
化粧品やタオルなど
今から小旅行に
行ってもおかしくない
ぐらい一通りそろえて
最後に大きな赤い旅行バッグを買った
すべてゆかちゃんの
ため
これに後で袋から荷ほどきして
詰めればいい
不意に気付いたら猛が
後ろにいた
「お前も服を買え!
その恰好じゃ目立つ
ヤツに言われた 」
不機嫌な猛が麻美を
上から下まで眺めて言った
麻美は目立たないような
青と白の格子柄の
フランネルのシャツに
緑のジーンズに登山用のブーツと
今からいかにもキャンプに
行く格好を選んだ
ずっと派手な男の人の視線を
惹きつけるような服装を心がけていた
でもこの東北の土地では
いかにもよそ者で浮いているし
スパイクヒールは何より
足が疲れる
ここではビッチは似つかわしくない
猛は文句ひとつ言わず
麻美の洋服代を払った
麻美はとても驚いた
一通りトイレで着替えて
鏡を見ると化粧もはげて
すっぴんに
地味な服装・・・・
とたんに幼さが気になった
でも猛は麻美のそんな恰好を見て
「そっちの方がいい」
と一言つっけんどんに言った
・・・・・・・・・・・・・・・・
ジョージはダッチオーブンに
温かいシチューをこしらえて
火にかけかき混ぜていた
料理できるんだ・・・・
麻美は感心した
猛が近くのベンチで
先ほどのショッピングモールで買った
幅広の万能ナイフを磨いている
さらに車の鍵をこじ開ける
ピッキング道具など色々広げて
肩にかけるホルスターに
一つ一つしまいこんでいる
猛なりに準備しているんだ・・・
麻美はそう思った
ジョージも着替えていた
紺色のトレーナに黒のジーンズ
麻美と同じホーキンズの
登山ブーツ・・・
髪は手入れされておらず
ボサボサだが艶やかな
金髪は相変わらず健在だ
麻美はシチューを椀に入れ
食べるととてもおいしかった
料理をするジョージに
意外性を感じた
「あっと・・・ごめん
ジョージ君そこの水取ってくれる? 」
何気なくジョージに頼んだ
するとジョージは無視を決め込んだ
・・・・・・・・
なんとも・・・・・
そこ意地の悪い・・・・
麻美は目を見張った
夕べ出会ってから
ジョージは信じられないぐらい
無作法な態度をとり続け
心にまとった鎧を外そうとしない
ゼビアスに居た頃の
ホストのジョージは
王子だった
常に優しさを絶やさず
女性の味方だった
礼儀をわきまえ
笑顔は弾けんばかりで歯が白く輝く
女の子はみんな好きで
優しくされるのが
当たり前だと思っていた
そしてみんな彼に夢中だった
それがみんな彼の仮面だった事に
驚かされた
なんという二重人格
ホストのジョージは
完璧さゆえに
どこか作り物感が強く
麻美は綺麗なジョージに
ユカちゃんほど夢中になれなかった
でも今の彼の方が麻美は魅力的に
思えた
態度もひどくて
無愛想で意地が悪くても
そこに人間らしいエネルギーが
発していて
野性的な魅力を発散させている
この荒くれ者の正体を
ゆかチャンは知っているのだろうか・・・・
ううん
知っているに違いない
だってずっと彼と
暮らしていたんだもん
あの事さえなかったら・・・・
麻美は突然罪悪感に襲われた
それを察したかのように
ジョージが言った
「もう一度・・・・
話してくれ
最後にユカと会って一緒にストリップ
劇場に行った時の事・・・ 」
ジョージは傍に会った
樫の木を殴りつけた
麻美がそれにビクついた
すべてを聞いてしまった後
どこに怒りをぶつけたらいいか
ジョージは分からなかった
そして一番自分にハラが立った
「ご・・・ごめんなさい・・・」
麻美が涙声で言った
「コイツにあたっても
しかたがないだろう
コイツもある意味被害者なんだぞ!」
猛はシチューの紙皿に
タバコの灰を落として言った
ジョージはコイツもにも腹を立てた
「聞いた風な口を効くな!
ヤンキー! 」
ジョージが吼える
「ああっ?なんだとスケコマシ!」
「初めて会った日から
黙って聞いてりゃ
お前俺に名前があるの忘れたのか?」
「知らねぇな! 」
猛が肩をすくめて言った
「なら思い出させてやろうか?」
二人がたき火を囲んで
にじり寄った
「もういいかげんにしてよ!! 」
麻美がそっけなく言った
「ここにいる全員がユカちゃんに
対して罪悪感があるのは
わかったでしょ!
もう寝ましょうよ!
明日に備えて!! 」
猛は無言で
備え付けのテントに入っていった
麻美がそれを追った
ジョージは自分は車の中
で寝るつもりだったが
とんだお荷物がついてきた
コイツらの寝床なんか
知ったことじゃない
毅に服を買ってもらった
からと今度は麻美が
テントと寝袋の
レンタル料を払っていた
コイツらはつきあっているのか?
一瞬思った
麻美は猛に惚れていることは
間違いないが
だが猛はやはり・・・・
口には出さないが
ユカに夢中のような気がした
なんとなくそれを考えると
もう一度猛をたたき起こして
気がすむまで殴り倒したい
衝動にかられた
ジョージは自分と知り合う前のユカの
ことなど気にも留めなかった
ましてや昔の男関係のことなど・・・
気に留める必要などなかった
だってユカは常に自分の
傍にいたから
あの時まで・・・・・
自分は人の事は言えない癖に
なんてことだ俺は
とんでもない間違いを
起こしたかもしれない・・・
ジョージはため息をつき
自分のシルビアの
運転席に体をすべりこませ
リクライングを倒し
仰向けになった
上を見上げるとサンルーフから
満天の夜空が輝いていた
ユカもどこかでこの夜空を
見上げているのだろうか・・・・・
うとうとすると
決まって夢をみた
ユカが白いワンピース姿で
こちらを見て笑っている
その感覚はいまにも両手に残っている
彼女の髪の匂いも漂ってくる気がする
幻臭・・・・
目はすでに暗闇に慣れていた
すでにカチカチになっている一物を
握りファスナーを開き解き放した
彼女の唇の記憶・・・・・
腰をひねり潤った体を
突いた時の快感・・・
ジョージは大きく息を吸い
心と体の両方でユカを恋焦がれた
後部座席にあるテッシュケースから
数枚引き抜き先端にあてがい
クライマックスを迎える準備をした
出来ることなら長引かせたがったが
一緒に夢まで流れる事が怖かった
記憶をたどって一気にイッた
喉の奥でうなった
体ががくっとなり
心臓が早鐘を打つ
ぶっきらぼうに
後始末をした後
まだ半分硬いものを荒々しく
デニムに収め
眠りについた
どうか彼女が無事で
ありますように・・・・・
会えますように・・・・・
いつの間にか祈りながら
寝るのが癖になっていた
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