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相手 → 月島蛍
あなた → 君
地雷 🔙👋🏻
卒業
体育館の中は、花の匂いと紙のざらついた音で満ちていた。
卒業式。
ざわめく声の中で、私はマネージャーとして最後の仕事をしていた。
壇上では名前が呼ばれて、拍手が響く。
その音がどこか遠くに感じるのは、
“終わり”って、きっと静かにやってくるからだと思った。
式が終わって、体育館を出ると、風が春の匂いを運んできた。
グラウンドの方から、後輩たちの笑い声。
「写真撮ろー!」って声が飛び交う中、
私はひとりで倉庫の前にいた。
「……ここにいたんだ。」
その声。
振り向くと、そこには制服の襟を正した月島くんが立っていた。
「部の集合写真、行かなくていいの?」
「行くよ。あとで。」
「らしくないね。」
「最後くらい、静かにしときたい気分。」
ツッキーが少し笑って、隣に並ぶ。
沈黙が、また優しく流れた。
「……もう終わりか。」
彼が小さくつぶやく。
「終わりっていうより、次、じゃない?」
そう言うと、彼は少しだけ目を細めた。
「君、そういうとこほんと前向きだよね。」
「だって、ツッキーならどこ行っても大丈夫でしょ。」
「……根拠ない励ましは嫌いだけど。」
そう言いながらも、少しだけ笑って、
ポケットから一枚の写真を差し出した。
それは、練習後にみんなで撮った何気ない集合写真。
中央に、笑ってないツッキーと、隣でピースしてる私。
「……お前、これ欲しいでしょ。」
「え、いいの?」
「どうせ、俺はデータあるし。」
「ありがとう。」
写真を受け取ると、風が二人の間を抜けた。
「……また会えるよね?」
そう言うと、ツッキーは少しだけ目を伏せて、
「さぁね。でも――」
と、小さく笑って続けた。
「きっとまた、どっかで風が吹いたら思い出すよ。」
春の光が、彼の横顔を照らした。
まぶしくて、少し切なくて。
その姿を目に焼き付けながら、私は小さくうなずいた。