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文化祭の翌朝。
教室に入った京介は、いつも通りに振る舞おうとしていた。
けれど視線の先に匠海が見えた瞬間、心臓が跳ねる。
「おはよう」
匠海が軽く手を挙げる。
「……お、おはよ」
京介は慌てて目を逸らす。
(ああもう……意識したら余計に喋れねぇじゃん……!)
周囲のクラスメイトが囁く。
「お? また仲直りしたっぽい?」
「やっぱあの二人、距離近いよね」
京介は顔を赤くして机に突っ伏した。
「……ちげーし……」
放課後、京介はポスターの片付けで生徒会室に呼ばれた。
部屋に入ると、匠海が一人で机に向かっている。
「悪い、遅くなった」
「ええよ。助かるわ」
二人きりの空間に、空気がぴんと張り詰める。
京介は資料を片付けながら、ふと呟いた。
「……なぁ匠海。お前、ほんとに……待っててくれんのか」
匠海は顔を上げ、真っ直ぐに京介を見た。
「当たり前や。京介が俺を見てくれるまで、何年でも待つ」
京介の耳まで真っ赤になる。
「……バカ。そんなこと言われたら……余計に意識すんだろ」
匠海は小さく笑った。
「それでええやん」
数日後。京介はふと思い立ち、匠海を屋上に呼び出した。
「お前に……聞きたいことがあんだ」
匠海が首を傾げる。
京介は柵に寄りかかりながら、ぽつりと聞いた。
「……お前さ、なんでそんなに俺なんか……好きになったんだ」
匠海は少し考えてから答える。
「最初は声やった。お前の歌声に惹かれて……そこから、毒舌やのに仲間想いなとことか、真っ直ぐなとことか……全部、俺には眩しかった」
京介の胸がドクンと高鳴る。
「……そんなの……言われたら、俺……」
思わず口をつぐむ。
匠海は一歩近づき、京介の横顔をじっと見つめた。
「……言うてみ」
京介は顔を覆いながら、震える声で。
「……お前のこと、嫌いになんて……できねぇよ」
匠海の表情が、柔らかくほどける。
それからの日々。
京介は以前よりも自然に匠海の隣にいるようになった。
昼休み、一緒に弁当を食べたり、放課後に資料を手伝ったり。
「なぁ京介、この問題分からん。教えて」
「……仕方ねぇな。バカ会長」
「”バカ”言うなや」
「はは、図星かよ」
周囲の友達が「ほんと仲いいよなぁ」と笑うたびに、京介は耳まで赤くなった。
(……まだちゃんと答え出せてねぇけど……匠海の隣は、居心地いい)
ある晩、二人でコンビニ帰りに歩いていた。
街灯に照らされる匠海の横顔を見ながら、京介はふと口を開いた。
「なぁ……俺、まだはっきり『好き』って言えるほど、自信ねぇ」
匠海は驚かず、ただ優しく微笑む。
「分かっとる。京介のペースでええ」
「でも……お前と一緒にいたいって気持ちは……本物だ」
匠海の瞳が少し潤んで、嬉しそうに細められる。
「……それ、今の俺には十分や」
二人は夜風に吹かれながら、肩を並べて歩いた。