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夜明け前。 薄明かりがまだ地を照らす前の遊郭の路地で、炭治郎はひとり息を潜めていた。 前に訪れた場所。けれど、どこか空気が違う。 ひどく冷たい。まるで夜そのものが凍っているかのようだった。
「……この感じ……鬼の匂いがする……!」
刀の柄を握りしめ、暗闇を見据える。 次の瞬間、白い吐息のような冷気が路地を満たし、 音もなく“彼”が現れた。
「へぇ……耳飾りの子か。無惨様が言ってたよ。」
氷の花びらが舞う中、童磨はにこやかに笑った。 炭治郎はその顔を知らない。ただ、直感で理解した。 恐ろしく強い。
「お前……誰だ……!」
「名乗るほどのことでもないけどね。童磨。上弦の弐、だよ。」
(……じょうげんの、に……!) 脳裏が一瞬で凍りついた。 それは“あの無限列車”よりも深い絶望だった。
炭治郎は踏み込む。 「水の呼吸──参ノ型・流流舞い!!」
刃が氷を裂く。 しかし童磨は一歩も動かず、扇で受け止め、 そのまま微笑んだ。
「綺麗だねぇ。けど、弱い。」
白い息とともに、童磨の足元から氷の花が咲く。 一瞬で地面が凍結し、炭治郎の足が止まった。
「血鬼術──蓮華氷縄。」
氷の蔦が生き物のように伸び、炭治郎の腕と胸を締めつける。 「くっ……!」 抜け出そうとしても、息をするたび締まる。
「そのまま眠ってなよ。すぐ楽になる。」
炭治郎の視界が霞みかけたその時、 突風のような斬撃が氷を砕いた。
「──水の呼吸・肆ノ型・打ち潮!」
氷片が飛び散る。 半々羽織が揺れ、冷気の中に冨岡義勇が立っていた。
「炭治郎!」 「義勇さん!」
義勇は童磨を見据える。 「……上弦の弐、か。」
「そう。知ってるんだ、嬉しいなぁ。」 童磨は唇の端を上げる。
「君は水柱かな?」 「お前が“上弦の弐”……。」
二人の間の空気が張り詰めた。 義勇は呼吸を整え、刀を構える。
「水の呼吸──漆ノ型・雫波紋突き・曲!」
刃が閃く。 だが童磨は扇をひらりと動かし、氷の結晶を舞わせた。 氷片が光を反射して義勇の頬を裂く。
「速いなぁ。けど、冷たい風の方が綺麗だ。」
童磨の声が冷たく響く。 血鬼術の氷花が再び咲き乱れ、炭治郎の足元から氷の縄が伸び上がる。
「炭治郎、下がれ!」 「はいっ──うわっ!?」
氷の縄が瞬時に炭治郎を絡め取った。 肩から腰まで一気に締め上げられ、刀が落ちる。
「くっ……離せっ!!」
童磨が微笑む。 「面白い子だね。無惨様が気になるわけだ。」
その瞬間、地面から底なしの闇が開いた。 風が吸い込まれ、空間が歪む。「そう。夜明けの前に、いい遊び場があるんだ。」
義勇が斬り込むも、童磨は氷壁を立てて視界を遮る。 氷が砕けたときには、もうそこに二人の姿はなかった。
静寂。 砕けた氷が月明かりに反射し、地面に散る。
義勇は拳を震わせながら、ただ呟いた。 「……炭治郎……必ず……助ける。」