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【tyhr】
第3話
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
『嫌だ』
彼の言葉が、僕の頭の中で無限に響いている。覚悟していた言葉でも、直接彼の声で言われると、耐えられるものではなかった。
彼は僕と友達に戻る気など無いのだ。
そりゃそうだよ。自分のことを恋愛的に見ている年上の男と、これからも宜しくやっていくなど、年下に容認させることではない。
僕はなんて哀れなんだ。
犯される夢というトラウマを抱えて生きてきて、ろくに恋愛などできなかった。
そんな僕の人生の転機となった彼にさえも、好意を断ち切られて ………。
その恋は実らず、友情を失うことになった。
「僕は、なんて哀れなんだ………」
僕は、ぽつりと、自分を嘲るように呟いた。
「どうしちゃったんすかぁ?もちさん」
僕の顔をぺちぺちと叩くのは、グループの同僚である不破という男だった。
「顔が死んでるwテストで悪い点でもとっちゃった?」
「テストは抜け出してきたよ」
「ふーん」
話を聞き出そうとしている反面、彼は興味無さげに反応を返す。
彼はあまり他人に興味が無く、かといって他人を粗末に扱うような人間ではない。
彼は僕に何の用事があるのだろうか。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「あぇ?もちさん?と、甲斐田??」
「え、ふわっち?」
ちょうど30分前くらい。僕と甲斐田くんが道端で話をしているところに、彼が通りかかった。
「二人っきりで何してんすか?平日に」
「甲斐田くんと偶然会ったの」
「あー、そうなん?」
あまり深く聞いてこず、というか、興味が薄そうな様子だった。
彼はスラックスのポケットに手を突っ込んだまま、足取り軽くこちらへ向かってきた。
「俺は姫の付き添いの男とトラブっちゃって昼から出禁くらっちゃったっす」
「なにしてんのふわっち…」
「あ、てかー、そうそう!」
「不破さん?」
彼は何か思い出したのか、先程とは変わった活気のある声色で話し始めた。
「俺、もちさんに用あるんすよ〜」
「何?なんかあったの」
「いや、まあとりあえず」
「え、なに……」
突然腕を掴まれて、彼にカフェに行こうと促されるが、僕は甲斐田くんと話したいことが沢山あるもので、ただでは離れたくない。
「ふわっち…。それ緊急?僕 甲斐田くんと」
「もちさん、良いですよ。僕は何も気にしないので……」
気にしないって…。そんな、そんな悲しそうな顔して、何言ってるんだよ……。
「さあ、もちさん行こう♪」
「う、うん…。ごめんね、甲斐田くん、また、話そう」
「はい…。じゃあ」
それだけ言って、彼はその場から逃げ出すように立ち去って行った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「もちさん。実は、別に用とか無いんすよ」
────そして今に至る。
「はぁ。殴るぞ」
「きゃあ」
静かでお洒落な雰囲気のカフェに似合わず、物騒な言葉が僕の口から飛んでしまう。最近できたばかりの人気なカフェらしい。
若者の間で流行っているスイーツやパフェが売っていて、巷では話題になっていた。そういえば、クラスの女子がそんな話をしていたなと、注文したプリンを口に運びながら思い出す。彼の前には水一杯だけ置かれていた。
「なにか頼まないの?」
「ちょっとね、胃袋に酒がタプタプで」
「はあ、こんな大人にはなりたくないや」
「もちさん、そのプリン俺が払いますよ」
「カッコイイ大人だ…」
平日だからか、店内はあまり混んでおらず、彼との些細な会話も少し大きく聞こえる。
「てかさぁ、せっかく甲斐田くんと話してたのになんで僕なんか呼ぶの」
「ん〜、うん。そのことなんよ」
「え、なにが?」
彼は頷いた。僕になにか言いたいようだ。
思わずスプーンを持っている手が止まった。
「もちさん、甲斐田となんかあったやろ?」
「えっ!」
「あ、当たり?w」
「なんで!?」
この男、他人に興味無いんじゃないのか??
「ふわっち、周りとか見てるんだ……」
「もちさん?」
「実はなぁ、甲斐田から色々と聞かされてたんすよ。随分前から」
「そうなの?」
そんな事は初耳だった。甲斐田くんがふわっちに、僕のことを話していたのか。
「なになに。気になるそれ」
「あーっと、言っていいんかなぁこれ」
「いいよ、もう。僕甲斐田くんに告白されたし」
「えぇ!!?」
彼の驚いた声が店内に響いて、コップの水も僅かに揺らめいた。意外だっただろうか?
甲斐田くんには悪いが、まあ、そのうち隠さなくてもいいようになるから。
「ほら、教えてよふわっち」
「了解」
プリンの最後の一口を飲み込んで、彼を急かすように話を待った。
「一か月くらい前の話なんやけど、甲斐田とオフで会った日があったんすよ」
「へぇ。オフで?仲良いね」
「そこ?まあまあ、嫉妬せんとってぇ」
「してないから」
「はは笑。で、甲斐田がもちさんについて相談したいっておもろい顔で言うから聞いてやったんすよ」
「おもろい顔ってなに」
「うん。真剣な表情?してた」
甲斐田くん、君の兄貴は大丈夫か。
「話によると、もちさんのことが好きなのかそうじゃないのか分からんって」
「え、なにそれ。ふわっちなんて言ったの?」
「えーと、「お前はタチがいい?ネコなの?タチっぽいけどな!」って言ったっす」
甲斐田くん、君は兄貴を変えるべきだ!
「…甲斐田くんはなんて?」
「あー……」
どうやら、この話の核心らしい。
彼は気まずそうに、目線を外して話した。
「なんか、甲斐田は昔見た夢がトラウマらしいっすわ」
「え、夢?じゃあ、そのトラウマのせいで、僕のことが好きなのか曖昧ってこと?」
「んー。そうなんじゃないすか?」
「ふぅん……」
夢。トラウマになるほどの。
「まあでも、結局甲斐田はもちさんに告白したんすよねぇ。ハッピーエンドやん!」
「あ、それがさ。なんか誤解されてるっぽい 」
「ええ?」
「僕、返事しようとしたんだけど、すれ違ってるのかな」
「どこまで伝えたんすか?」
「返事させて欲しいって言って、そしたら甲斐田くんが、「友達のままでいて欲しい」って言うから「嫌だ」って言って…」
「ん、いや、まてまてまて」
話の途中で、彼は手を突き出して困惑の表情を見せた。
「なに?」
「それは、付き合うのOKと伝える前に「嫌だ」と言ったのかい?」
「そうだけど」
「はあ……、もちさんさぁ……」
「なになに。なんだよ!」
「NO.1ホストが口説き方教えましょうか」
「いいわ!!」
「なるほどな。もちさんがこんなに恋愛下手だったとは…」
「ホストに言われるのはお門違いだな」
これからも変わらず友達でいて欲しいという意味で言った言葉に、僕は『友達』ではなく『恋人』になるから「嫌だ」と言ったのだが、振られる前提で言った甲斐田くんには付き合うことも「嫌だ」し、変わらず友達でいることも「嫌だ」という風に受け取られたのだと、彼は考察した。
「うーん、ややこしくなってるな」
「でももちさんは、甲斐田と付き合うのはOKなんすよね」
「そうだよ。もちろん」
「じゃあまずいな!」
「なにがまずいの?」
「甲斐田は何においても考えすぎてズブズブ沈んでいくからな〜」
「それは……」
やっぱり、彼は他人に興味が無いだけで、人のことはよく見ているのだ。 甲斐田くんは、その通りとてつもないネガティブ人間だ。今頃悪いことばかり考えて、落ち込んでいるに違いない。
「今からでも間に合うけど、どうします?」
「行くよ、伝えに」
「もちさん、俺応援してるよ!」
「話聞いてくれてありがとう、ふわっち」
「ええってことよ!」
会計を済ませて、カフェの入口で彼に別れを告げる。まだ夕方前くらいの時間だったので、これから彼の家に行っても十分だろう。
「ふわっち、それじゃあね」
学校の鞄を持って歩き始める。テスト当日で教材があまり入っていない鞄は軽かった。
「もちさーん!タチかネコか教えてねー!」
後ろから聞こえた声には知らないふりをして彼の家へと向かった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
4話へ続く