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好きだ。
涼ちゃんが、好きだ。どうしようもないくらい好きだ。気付いたら目で追っていた。俺は今まで何人か彼女が居たけど、今思えば告白されたから付き合うような感じだった。恋を知っているつもりで、自分が好きになる感情は分からなかった。そういう話は適当に彼女で誤魔化せていたので特に気にしてはいなかった。
そこに、涼ちゃんが現れた。
肩の辺りまで伸ばした金髪、柔らかな笑顔、男にしては細い手足。たまに天然なとこも、かと思えば決めるところでは決めるのもかっこよくて大好きだった。普段はあんなに可愛いのに。嗚呼、可愛すぎて変な虫が寄らないだろうか。ま、大丈夫か。如何なる人でも手を出そうものなら俺が全力で守るから。
愛しいものは、壊れる前にこの手で壊しておかないと。
そうすれば、『俺のもの』としていつまでもキープされ続けるから。
まずは練習だ。いきなり壊すなんて流石にどう抵抗されるか分かったもんじゃない。適当に夜道を歩いて、適当に身長が似ている人を狙えばいい。警察やらマスコミやらに見つかると面倒くさいので、フードを被ったり変装したりして気がつけば4人。そろそろ世間がうるさくなってくるかな。
数日経ったとある日、夜道でスマホのGPSアプリを開く。夏が始まってすぐ、コンビニ位の距離ならよく使うであろうお気に入りといっていた厚底サンダルにチップを付けておいたのだ。今日も出てこない。そろそろカバンにも付けてみようかな。財布は流石にバレちゃうかな。道端でそんな妄想に浸っていると、なんとGPSが動き出した。速度的に徒歩だろう。やっとだ。
急いで矢印が指している場所に向かうと、Tシャツに短パン、あのサンダルで髪を下ろした格好の君が歩いていた。流石に無防備過ぎないだろうか。最近は家を出る時にマスクとキャップが欠かせないのに、涼ちゃんはサウナハットに似た流行りのものしか被っていなかった。
焦りを覚えながら、コンビニまでついて行き出てくるのをひたすら待つ。今日はこんなに暑いのに蝉が鳴いてないから、足音でバレてしまいそう。恐怖で満たされた顔の君を想像すると、それはそれでありだと口角が上がる。
程なくして涼ちゃんが出てくる。ビニール袋を前後に揺らしながら、ゆったりと歩いている後ろをついて行く。ひた、ひた、ひたとボロボロのサンダルがリズムを刻む。
あと20m
あと15m
あと10m
あれ、涼ちゃんなんか早歩き?もしかしてバレたかも。ペース合わせてマンションに押し入ろうかな。あ、止まった。
「っ…!?!」
こちらを見て、飛び出しそうなくらい目をかっぴらく。心臓がどくりと跳ねた。恋とやらの感覚をビリビリと感じる。なんて可愛いんだ。早くこの手で壊さないと、でも君は誰に襲われたか知らないままになるんだよね。ネタばらしだけしておこうかな。
「…涼ちゃん、俺だよ」
フードを外すと、一瞬ほっとしたような顔になるが、すぐまた訝しげに見つめてくる。なにか質問される前に、適当に話題を振る。
「それ、アイス?」
「…あ、うん」
ほぼ反射のように頷く。怖がらせ過ぎたかも。一旦退散して、また後日計画を改めよう。そう思って来た道を戻ろうとすると腕を掴まれた。振り返って君を見ると、ひっと化け物でも見たかのような反応をされる。
なんだよ、俺も今普通に緊張して、全部君のためにここまで練習を重ねてきたのに。感情がぐちゃぐちゃになって、逃げ出しそうな君を捕まえる。
「っ、!?わ、若井…?」
手が震えてる。これ、俺が君をこうさせてるのか。かつてないほど興奮が押し寄せる。なんでもないよ、こっちの話と呟いたが、聞こえてないかもしれない。別に構わないけど。
記憶、消しておこう。取り敢えず、今はまだ。
親しみがあるはずの俺ですらこんなに怯えさせられるんだから、焦らなくても大丈夫。
今は、まだ。
◻︎◻︎◻︎
君のうなじの当たりを一直線に切るように弾く。よく漫画とかである、意識が無くなるやつ。ふらっと倒れ込んだ君を支え用意していたカプセルを飲ませる。そのままお姫様抱っこで鍵を探す。涼ちゃんの部屋まで入り、サンダルを脱がせ、下ろして立たせる。
「涼ちゃん、起きて」
そう軽く頬に触れると顔を顰めながら瞼を開いた。ぼーっと焦点が合わない瞳で家を見回している。カプセルの効果で俺の事を認識は出来ないだろう。袋を手に持たせ軽くキスをして素早く家から出た。アイスが溶けて不審に思われたら、それまでだ。
またいずれ、今度はちゃんと丁寧に壊すからね。
コメント
2件
ひぇ〜歪んだ愛だ〜💦 でも、狂った💙さんも、これまた魅力的で、ステキです🤭💓