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いつもは清掃に入るリビングだけれど、中園の4人がここに揃うのを初めて見た……と思ったのは、私だけでなく広瀬さんもだと思う。
「ちょっと……私はあちらで…」
リビングのソファーに腰かけるのは違うと思ったので、私はポケットの取れかけたエプロンを外しながら別の部屋へ行こうと思った。
「そうよね、家族会議に使用人がいるのはおかし…」
「真奈美さんには使用人としてではなく、あなた方が迷惑をお掛けした相手として座ってもらおうと思う。まだまだ言い足りないこともあるだろう」
遥香の言葉を即座に否定したご主人様だけれど、その声はどこか遠くに聞こえる。
もう私はどうでもいいと感じていた。
自分の目標は達成したのだから。
「真奈美さん……?」
篤久様が立ち上がると、ボーっと突っ立っていた私を自分の隣に座らせる。
「燃え尽き症候群」
「ああ、そんな感じかもしれない。少しゆっくり休む時間が彼女には必要だ」
そんな男性の声と
「好き勝手をして休むなんて、どんなご身分だか」
「そうよね……私と遥香はこんなに酷いことを言われ続けているのに」
「あ、スマホを取って来て」
という女性の声の全てが遠くに聞こえる。
「すみません。まずは桑名さんのケガを……」
「広瀬さん……私、川辺です。川辺真奈美です…こちらへ配属の可能性があると思って、母方の姓を使って転職しましたけれど……この人たちは何も覚えていなかった…川辺で来たって、何も気づかれなかったんですよね」
「川辺さん……真奈美さん……」
震える声で私をそう呼んだ広瀬さんが、私の両手を握りしめ
「…痛むところ……は?」
と体を震わせた。
「大丈夫です」
「大丈夫なわけがない。あんな硬い大理石の上を引きずられて来たんだ。上半身は引っ張り上げられていただろうけど、足を診てあげて。あと、湿布ください。手首が赤くなっている」
隣の篤久様が私に、そして広瀬さんに言うと、広瀬さんはコクコクと頷いてから私の手を放した。
「失礼します。カメラマンの木本様に、ご昼食を何かご用意しましょうか?」
田中さんがリビングの入り口から声を掛ける。
「そうですね、もうとっくに昼は過ぎていますから、お願いします。私たちも出先で食べると思われていたと思うので、何もまだ用意はされていないでしょう?裏のカツサンドとフルーツサンドを、皆さんの分も届けてもらってください」
「え……私たちの分もですか?」
「はい、ずいぶんと遅い休憩になりますが、ゆっくりと食べてください。真奈美さんも今日はもう仕事が出来ないですし、清掃など残っても構いません」
「ありがとうございます。では、すぐに注文して参ります」
篤久様がそう伝える間、運転手さんが入って来てご主人様に何か耳打ちしたようだ。
「ぃ……っ……」
「我慢してね。ここ、擦り傷だわ。打ち身もあるから、傷はガードして上から冷やすしかないけど…かなり変色しそう」
気づいていなかったけれど、足の甲に傷があったようで、不意に消毒されてボーっとしたところから現実に戻って来る。
「手、貸して」
篤久様が手首に湿布をしてくれるようで、自分で出来ると言おうとしたけれど…最後に甘えておこうか、と思って言われるままに手を預けた。
「さてと……話は簡単だ。私は二人がこれまでにしたこと、許せないことがある」
「もう分かっているわ。ねぇ、ママ?」
「えぇ……」
「出て行くとも言っていたからね。離婚と同時に娘の籍もそちらでということで構わないですね?」
「……はい。お金は…」
「まだそんな話をしていません。二人とも、籍について構わないですか?」
「…はい……」
ご主人様に“はい”“はい”と答えた奥様はもう目が虚ろで、生きた心地がしないのだろう。
それでも“お金”と口にするところに、この人の本質を見る。
「いいわ。ここにいたって酷い目に遭わされるもの」
遥香は、まだご主人様にそんな口の利き方をする元気があるんだ……どうでもいいけど。
コメント
8件
私達がこんな酷い目にといっても非常識な行動に対しての批判だよね 話が通じない母娘を早く切ってしまいましょう
この期に及んでも謝罪すらない… こんな奴らのせいで真奈美ちゃん一家は、ずーっと辛い思いしてきたのに… 心からの謝罪をする時が来るのかな… 篤久様、どうか、真奈美ちゃんを幸せにしてあげて下さい😭🍀
まだ使用人扱いするなんて😠自分達の状況を何もわかってない!! そう簡単にお金がもらえると思うな!! 籍を抜いてそれから🤩 ご主人様、期待してます〰🤩 篤久様は真奈美ちゃんをお願いします🙏