テラーノベル
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足元で動いていた広瀬さんが立ち上がったので
「ぁ……ありがとうございました」
どれだけ手当てをしてもらったか分からないけれど、湿布だらけの気がしつつお礼を言う。
「3時間くらいで湿布の交換をしましょう。すぐに冷やしていない分、今からでは遅いだろうけど、川辺さんは若いから丁寧に手当てすればそれだけ体がちゃんと反応してくれると期待してね!」
最後はおどけた様子で言った広瀬さんは、ワンピースに隠れた私の膝をポンポンと……でも撫でるようにした。
そこにも湿布が包帯でとめてある……
「失礼します」
一旦下がった広瀬さんと入れ替わりに、田中さんが冷たい麦茶を持って来てくれた。
さらに
「これがブーブーと玄関の外で鳴っていますが…」
運転手さんが遥香のスマホを持って来た。
鳴っているってことは壊れていないんだ……ケースがいいのか、スマホが強いのか…すごいな。
感心しながらお茶をコクコク…コクコク…一気に飲み干した。
遥香と池田に対峙してから、ここまで何も飲んでいなかったからね。
「ああっ!ケースも画面も割れているの…?最悪……ほんと今日は散々だわ」
割れた画面の反応が鈍いのが、何度も同じ動作で画面をタップやスワイプを試みている遥香の隣で、死んだ魚のような目をした奥様が
「あの……このあとどうすれば……?」
と口にした。
それは、誰かに聞いているのか、それとも自問しているのか分からない口調だ。
不思議と誰も返事をしないのは、無視?
いや……違うよね?
ここで無視していたら、皆が座っている意味がないもの。
まあ、私は辞めて出て行くと伝えるタイミングを待っているだけなのよ……まだご主人様がお話をされそうだから……でもお茶を飲んでいるな……
「失礼します。西郷先生がお見えになりました」
「ありがとう、ここへお通ししてください」
田中さんに即答した篤久様と、お茶を置いたご主人様は西郷先生を待っていたのか……私は広瀬さんから名前を聞いただけの弁護士先生。
聞いていたのは、複数の弁護士先生が会社の顧問弁護士で、西郷先生という方は顧問弁護士でもありご主人様とご友人でもあるということ。
だから私は、複数の弁護士先生の名前は知らないけれど、西郷先生という名前だけは覚えている。
「失礼します。中園、待たせたね。篤久くん、お疲れ様」
と現れた西郷先生は、白いポロシャツにチノパンという爽やかな装いに、重々しいビジネスバッグを持っている。
「西郷先生、先日の会議、お疲れ様でした。今日は私用になりますがお願いします」
立ち上がって丁寧にお辞儀をした篤久様と、何も言わず軽く手を上げてから自分の隣をポンと叩いたご主人様。
西郷先生との関係が見えるようだ。
「悪いね、急に」
「急なようで、急ってことでもなかったから問題なし」
隣に座ってから話したミドルエイジの最高峰たち…うん、ミドルエイジの最高峰っていう言い方がピッタリの二人に見えるな。
「えーっと、こちらの女性お三方には初めてお会いしますので……」
バッグから何かを出した西郷先生は
「弁護士の西郷と申します。バッジはつけていませんが、偽弁護士ではありませんのでご安心ください。こちら弁護士会発行のものです」
と、写真付き身分証明書を私たちに見せた。
「早速ですが、えーっと、こちら離婚届。はい、中園、書いて」
と、西郷先生は離婚届とペンをご主人様の前に置く。
「それから、子の戸籍変更手続きですが、離婚の記載がある戸籍謄本を取得してから、家庭裁判所に子の氏の変更許可審判を申し立てとなります。変更許可審判は即日審判が可能なことが多いので速やかに完了します。ここまでは僕の仕事でやり切りますから、お二人は何もされなくても無事に中園から消えることができますので、ご安心ください。あ、中園終わった?ん、妻の方に書いてください」
えーっと……めちゃくちゃ段取り良すぎない?
今日のお見合いまでに、ご主人様の指示があったね……これは。
コメント
5件
やっと一息付けて読める幸せ(*´∀`*)
この手際の良さ✨準備万端だったのね!! 出来るオトコが揃ってる〰拝みます〰✨ これできっぱり縁切りだよ👋
(♡﹃♡*)ジュルリ…白のポロシャツにチノパンの西郷先生✨重々しいビジネスバッグもカッコよくお持ちなってキメてらっしゃるわよね〜。お髪は?少しロマンスグレー🩶かしら? 篤志様はいつから離婚アーンド子の戸籍変更の手続きの準備をしていたのかしら? 昨日今日じゃないよね?真奈美ちゃんが来てからすでに動き出していたのかな。篤久様が調査した後からかな? あれらが執着してる『お金』は別の先生みたいだよね!次はどんなミドルエイジの最高峰クラスの先生♡がいらっしゃるのかな( ´థ౪థ)グヘヘ♡