テラーノベル
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🎧短編「いつもと違うだけ」
昼。
珍しく、ちゃんとした時間。
琉夏「……で、なんで外」
駅前で立ちながら聞く。
冬星「弦買う」
琉夏「それスタジオでよくね」
冬星「ついで」
短いやり取り。
でも。
今日は、ちょっと違う。
(……なんでだよ)
理由は、分かってる。
昨日のこと。
“付き合う?”
頭の奥に、まだ残ってる。
(いや、関係ねえだろ)
自分に言い聞かせる。
歩き出す。
並んで。
いつも通り。
……のはずなのに。
ショーウィンドウに映る自分たちが、少し気になる。
(なんだこれ)
距離も、歩幅も、変わってない。
でも。
なんか、“それっぽい”。
視線を逸らす。
冬星「どうした」
琉夏「別に」
即答。
(見てんじゃねえよ)
楽器屋。
弦を選ぶ冬星の横で、適当に眺める。
琉夏「それいつもと同じだろ」
冬星「だから?」
琉夏「冒険しろよ」
冬星「しない」
いつも通りの会話。
でも。
距離が近い。
棚の前で、肩が軽く触れる。
一瞬。
(……は)
すぐに離れる。
何もなかった顔をする。
でも。
ちょっとだけ意識が残る。
店を出る。
冬星「飯」
琉夏「急だな」
冬星「腹減った」
琉夏「まあ俺も」
流れで入る。
適当なカフェ。
席に案内される。
「こちらへどうぞ」
向かい合わせ。
座る。
メニューを見る。
そのとき。
「ご注文決まったらお呼びくださいね、彼氏さん」
一瞬。
時間が止まる。
琉夏「……は?」
思わず顔を上げる。
店員は、もういない。
沈黙。
琉夏「今の」
冬星「言ってた」
冷静すぎる。
琉夏「違うだろ」
すぐに否定する。
冬星「まあ」
曖昧な返事。
(“まあ”ってなんだよ)
少しだけ沈黙。
琉夏「……違うからな」
念押しみたいに言う。
冬星「分かってる」
短い返事。
でも。
少しだけ間を置いて。
冬星「でも、そう見えるんじゃない」
昨日と同じ言葉。
(……は)
また、引っかかる。
メニューを見るふりをする。
でも、全然入ってこない。
(……なんなんだよ)
注文する。
食べる。
会話は、いつも通り。
でも。
どこかぎこちない。
店を出る。
外の空気。
少しだけ落ち着く。
並んで歩く。
沈黙。
琉夏「……さっきのさ」
ぽつりと出る。
冬星「なに」
琉夏「彼氏ってやつ」
少しだけ間。
琉夏「嫌じゃなかったのかよ」
自分でも、ちょっと意外な質問。
冬星は、少しだけ考えてから。
冬星「別に」
やっぱりそれか、と思う。
でも。
冬星「お前なら」
一瞬。
止まる。
琉夏「……は?」
聞き返す。
冬星は、少しだけ視線を逸らして。
冬星「なんでもない」
それ以上は言わない。
(なんだそれ)
でも。
追いかけるほどでもない。
そのまま、歩く。
距離は、変わらない。
でも。
さっきより、少しだけ。
意識してる。
“違う”って言いながら。
“そう見える”ことを、完全には否定できない。
そのまま、時間が流れていく。
これは、デートじゃない。
ただの“ついで”。
でも。
いつもと、少しだけ違う。
それだけで。
十分すぎた。
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