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スーパーに着いて竜之介くんがカートに買い物カゴを乗せる為に凜の手を離すと、私と繋いでいた手を振りほどいた凜がお菓子売り場へ行こうとするので慌てて腕を掴んで引き止める。
「凜、勝手に行っちゃ駄目っていつも言ってるでしょ? お菓子は最後だよ?」
「やーだ! おかしみる!」
「凜、そういう風に我儘言う子にはお菓子買わないよ?」
「やだ!」
「だったら、ママの言う事聞いて?」
「やだぁ、おかしのところいきたい!」
「――なあ、凜は買い物上手に出来るか?」
「かいもの?」
「俺、普段あんまりスーパーに来ないから、買い物下手なんだよ。でも凜はいつもママと一緒にスーパー来てるから、買い物上手いだろ?」
「うん」
「じゃあさ、ここに座って、一緒に見て回ろう。そんで俺に買い物教えてくれないか? それが終わったら、一緒にお菓子、選ぼう?」
お菓子を見たいと駄々をこねる凜相手に、竜之介くんは上手くカートに座るよう誘導してくれた。
「いーよ! おにーちゃんといっしょにかいものする! おかしはさいごにする!」
「そっか、ありがとな、凜」
竜之介くん相手だと凜は凄く聞き分けの良い子になる。というより、多分竜之介くんが凜の扱い方が上手いだけなのかもしれない。
「竜之介くんって、兄弟いたりする?」
「兄貴が一人いるけど?」
「下にはいないの?」
「いないけど、それがどうかした?」
「竜之介くんって凜の扱いが上手いから、弟か妹がいるのかと思って」
てっきり弟か妹がいるから子供の扱いが上手いと思っていただけに、お兄さんしかいない事に衝撃を受けた。
「寧ろ子供と接する機会はほとんど無いよ。だから凜と接するのは貴重な体験って感じだけど、多分叱るよりもお願いしたりする方が子供には効果的なんじゃないかって思って接してるだけだし」
「そういう接し方が出来るの、凄いよ。私なんて余裕なくて怒ってばっかりだもん……」
「俺は親じゃないから厳しく怒ったりは出来ないだけだよ。怒れるのは凜の親である亜子さんだからこそだしさ」
「そうかな……。ただ最近私の言う事だけ特別聞き分けが悪い気がして……」
「それって反抗期だったり?」
「うーん、そうかも……」
「あんまり気負わないで、困った時は俺に相談してよ、出来る事はやるつもりだからさ」
「うん、ありがとう竜之介くん」
困ったら頼れる人がいると思うと、それだけで気が楽になるし、それが竜之介くんというのが何よりも安心する。
カートの椅子に座った凜は竜之介くんと楽しそうに会話をしながら過ごしてくれていて、これまでで一番買い物がスムーズに出来て感動した。
そして帰宅してからも、部屋着に着替えて部屋を訪れた竜之介くんが凜の相手をしてくれていたおかげで気持ちにも時間にも余裕が持てて、終始楽しい気持ちで夕飯を作り終える事が出来た。
(買い物中も帰宅してからも、いつもは凜に振り回されてばかりで心に余裕が持てなかったけど、余裕があるって良いなぁ)
仕方ない事とは言え、怒った後はいつも自己嫌悪に陥って、ついつい笑顔が消えてしまう時もあったけど、今日はずっと笑顔のままでいられるのも全て彼のおかげ。
「カレー美味いな、凜」
「うん! ママのカレーおいしー!」
「ありがとう、沢山あるから、良かったらおかわりしてね」
こうして笑顔でご飯を食べられるのは、やっぱり嬉しい。
こんな風に、何気無い日々が続けばいいと思っていたのだけど、それを脅かす事件が起きる事を、この時の私は知る由もなかった。