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「で、前に話した時はちょっと冗談っぽいノリで踊っているとこ見たいな。とか、踊ろうよとか喋ってましたけど実際踊る?」
周央は宇佐美に問いかけた。
「え、周央さんガチろうとしてます?」
「いやね、ンゴもあの時半分冗談で言ってたよ。言ってけど、家に帰ってからもしかしてあれだけ豪華なところに呼ばれる人達なら社交ダンスは教養の一環でまぁ踊れますけどみたいな感じの人だらけなのでは?って考えちゃって」
「学校で私とンゴちゃんと話したの。踊れなくて会場で浮いちゃったらヤダよねって」
途中から会話に入って補足してきた東堂の言葉で宇佐美は納得する。
「あー、確かに。ああいう場だったらあり得ますね」
「そう。だからさ、最低限の動きだけは皆できるようにしておかない?」
急遽始まった社交ダンスの練習会。しかし、先生などを呼べるつてはないため社交ダンスの専門チャンネルの動画を見ながら動きを覚えることになった。
多少の経験があった宇佐美は動画を一度通しで見て2回目からは足の運び方から思い出していく。立ち上がって実際にステップを踏んでいく。
確か、基本の動きは単調で簡単。女性をリードするように進めていくから…。
「えー、もう出来てるじゃん宇佐美さん」
「噓、教えてリト君」
「まだ足の動きだけだよ」
「教えて。俺全然分かんなかったから」
東堂の声で佐伯がそばへと寄ってきた。そんなに自信はないのだけれども、まぁ一緒に確認していけばいいか。
そう思って2人で動画を確認しながら曖昧な部分は実演してこうじゃないかとすり合わせをしていく。
「こう?」
「えっとね…それの前に1回下がる動きがあるじゃん。だからそれを戻す感じ」
日々共にヒーロー活動をしているから知っていたが、やっぱり佐伯はこういう動きを覚えるのが早い。何度か繰り返すうちにすっかり基本の動きができるようになった。
「すげえ、もうできんじゃん」
「へへ、まだぎこちないと思うけどね」
「だけどすごいよ」
素直に褒めれば佐伯は頭を掻いた。満更でもなさそうだ。確かに佐伯がいうように体に硬さを感じる動きはあるが、練習するうちにとれていくだろう。
「待って!おいてかないで!!」
後ろから周央の焦った声が聞えた。あわあわしている周央に東堂が落ち着かせるように声をかける。
「大丈夫、誰もおいてかないから」
「でも、もう佐伯さんも出来てるっぽいし」
「ゆっくりやっていけばンゴちゃんも出来るから」
最初は自信のなさそうな東堂だったがこの数十分のうちにしっかり動きを覚えたらしい。さすがダンス経験者といったところか。周りの上達に取り残されたのではと焦る周央の隣で動きを繰り返して見せている。
「おいてかないですよ周央さん」
「うわーん、最初からまあまあ出来てる人から言われると煽りにしか聞こえないよぉ」
宇佐美の言葉に泣きまねをしながら言い返す周央に吹き出し笑いした。焦りつつもなんやかんや楽しそうに東堂から動きを教わっている。
その光景が微笑ましかった。
「どうかな」
「うん。いい感じだと思います」
「初心者だらけでもなんやかんや形になるもんだね」
取りあえず専門チャンネルで紹介されていた初級編の3つのステップを1時間で覚えることが出来た。試しにそれぞれペアを組んで踊ってみるとこれが案外形になる。
1回目、思っていたより互いの距離が近くてぎこちなさがあり過ぎて仕切り直した。初回を踏まえた2回目、 思っていたよりもいい感じだった。それは他の3人も感じたことだったらしく達成感があった。
「こはちゃん、ンゴちゃんは不安だから学校でも教えて」
「いいよ」
「リト君、僕もあとで教えて欲しい」
「分かった」
佐伯は十分出来ていたけれども不安なのだろう。空いている日を確認して後々連絡をすることにした。
ふと、彼の方を見る。
「何?」
踊っている最中、彼からの視線を感じた。お互いにチェックしあっていたから感じて当然なのだけれども、ただ見ているだけではない”何か”違うものがあった。
以前から時折”何か”を彼から感じていた。今日はそれが顕著だったから思わず彼を真正面からまじまじと見てしまった。
今の彼からはそれを感じない。
「服の襟立ってる」
「え」
「ほら」
そばに寄って両手で直す、ふりをした。
「ありがとう」
些細な嘘に気が付かなかったらしい。彼はにこ、と笑って視線を別に移した。
“何か”は一体、なんなのか。
宇佐美は静かに首をひねった。