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🎧短編「分かってるくせに」
──対バンのボーカル視点
正直、最初は軽いノリだった。
「あの二人、付き合ってんの?」
よくあるやつ。
場の空気をちょっと崩す、雑な一言。
でも。
あのときの反応。
ちょっと、引っかかった。
琉夏「違う」
冬星「違う」
即答。
ここまでは普通。
でも。
そのあと。
「……じゃあなに?」
あれは、半分冗談で聞いた。
でも。
二人とも、一瞬止まった。
あの“間”。
あれで、なんとなく察した。
(あー、これ面倒なやつだ)
名前つけてないだけのやつ。
それから、ちょっと観察してる。
ライブの日。
楽屋。
相変わらず、二人でいる。
会話は少ない。
でも。
視線とか、タイミングとか。
全部、揃いすぎてる。
(いやもうそれ付き合ってるだろ)
って思うのに。
違う顔してる。
あるとき。
軽く聞いてみた。
「なあ、あの話どうなったの?」
琉夏「なにが」
とぼける。
「ほら、“付き合う?”ってやつ」
一瞬。
空気が、止まる。
(お、来た)
琉夏「……なんで知ってんだよ」
ちょっとだけ嫌そうな顔。
(当たりか)
冬星「別にどうもなってない」
横から、淡々と返す。
「え、もったいな」
軽く言ってみる。
「そんな距離で何もないとか」
半分煽り。
でも。
琉夏「うるせえ」
返しが、ちょっとだけ弱い。
(あーこれ)
図星つかれてるやつだ。
冬星は、特に反応しない。
でも。
ほんの少しだけ。
視線が揺れる。
(そっちはそっちで自覚あるな)
面白い。
どっちも、分かってる。
でも。
踏み込まない。
理由はたぶん、同じ。
“今が壊れるのが嫌”
だから、言わない。
でも。
言わなくても成立してる。
それが、厄介。
ライブ中。
二人の音。
あれはもう、説明いらない。
信頼とか、そういうレベルじゃない。
もっと、生活に近い。
(あれで何もないは無理あるだろ)
終わったあと。
二人で帰ってくの、見かけた。
並んで。
普通に。
でも。
距離が、妙に自然。
一瞬だけ、思う。
(あれ、もう付き合ってるってことでよくね?)
でも、違う。
あいつらは、たぶん。
“付き合う”って言葉を、使わない。
使わなくても。
成立してるから。
……まあ。
どっちでもいいけど。
そのうちどっちかが、耐えきれなくなるだろ。
そのとき、どうなるか。
ちょっとだけ、楽しみだ。
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