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旧彗朔

37 - 第5章 ミュータント 2話 戦争のトリガー

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2025年05月12日

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_堕天使 side


月「なぁー、道に落ちてたんやけどこれ何?」

『なんかきらきらしてるんだよね、宝石みたい』


がちゃり、と大きな音を立て、扉を開ける。私と横にいる相棒_月ノちゃんの目線の奥にいるのは、銀髪の青年。そんな彼が回転椅子でくるりと振り返り、私たちを軽く睨む。


羅「あぁ…?持って来い、よく見えねぇ」


睨んだのではなく、目を細めていただけみたい。ごめんね羅生くん、と心の中で小さく謝り、右手に持った小さな結晶のような物質を彼の前に持っていく。手を差し伸べられたので、彼の白い手の上に、青白く煌々と輝く結晶を乗せる。


羅「”純結晶”、だな」


数秒の沈黙が流れ、


月「『なにそれ?』」


と声が被った。


月「めあ、なんか知ってる?」

『ううん、全然知らない』


と会話をしていれば、その瞬間に羅生くんが顔を顰め、後ろからホワイトボードを引っ張ってくる。若干のため息が聞こえた気がするが、まぁ気のせいだろう…。


羅「純結晶ってのはあれだ、…そういえばお前ら、純化って知ってか?」

月「『知らない』」

羅「世間知らずすぎるだろ」

羅「よく今まで闇社会で生きてこれたな」


きゅぽん、とマーカーペンの蓋が開けられる音が響く。呆れと軽蔑の色が入った瞳は見ないことにし、近場の椅子に腰掛ける。月ノちゃんはというと、私の座った椅子の背もたれに腕を乗せ、前のめりになりながら話を聞いている。それだと私の重心がずれるからやめてほしいな、と心のなかで小さくお願いしてみる。


羅「…まー、あれだ、能力が覚醒して強くなることを”純化”」

羅「んでそれに器…、つまり体が耐えることが出来ず、能力が結晶化したものが”純結晶”だ」

羅「ちなみにこの場合死体は残る」

羅「結晶の色は能力を大雑把に分けたときに分類される色で変わるとされてるんだが…、」

羅「青白い結晶は見たことねぇな…、変色とかしてなかったか?」


こんこん、とマーカーペンの蓋がホワイトボードを叩いた。私達のために、一呼吸を置きながら話してくれる羅生くんの問いに目を合わせる。変色は特にしていなかったけど、形は変わっていたような…。というか羅生くん、今、死体は残るって言ってたけど周りに特に何もなかったなぁ…。それが鍵になってくるのだろうか、出来るだけ分かりやすく説明すると、羅生くんは首を傾げる。


羅「…おかしいな、オレは”純結晶”を結構見てきたつもりなんだが、完全に初耳だ」

羅「表の人間のやつかもな」


首に手を当て、首のストレッチをする彼を片目にしながら月ノちゃんと目を合わせる。”表の人間”というワードに興味を示したのか、彼女が少し目を輝かせるので説明を促す。


羅「能力が表社会にも、裏社会にもどっちにも存在してるのは知ってるだろ?」

羅「そいつらは”純化”した時、自分の能力を制御できずに呆気なく死ぬ」

羅「ときに雨音、宮歌。日本人の三大死因は知ってるか?」

『がんと心疾患、脳血管疾患…みたいなやつでしょ?』

月「流石に知っとるわ」

羅「それは全部偽装だ」

羅「”純化”したやつを病気と偽って火葬する」

羅「この世に充満している能力が人の命を奪うなんて知られたら大問題だろ?」


世知辛いな、医者は。と一言付け足し、ホワイトボードを奥へ直そうとする彼に声を掛ける。


『ねぇ、”純結晶”ってさ、能力として使えるの?』


くるりと振り向いた彼ははぁ、とため息をつき、薬品棚を開けた。


羅「使えねぇことはない」

羅「ただやめとけよ、そんな罰当たりなことは」


薬品棚には赤、黄、橙、緑、水、紫、黒、白…、、など様々な色の結晶が詰め込まれていた。どれもこれも切断したような痕は見られず、自然体のまま保管されている様子。これは死体と同じようなものなのかな、と思った。


月「ふーん…、そういうもん?」

羅「そういうもん」

『じゃあこれ要らないから羅生くんにあげるね』

羅「オレも要らないが」

羅「…おい待て、話を聞け、お前ら、おい」


と声をかけてくる羅生くんは無視して、椅子から立ち上がる。いこ、月ノちゃん。と手を差し伸べればすぐに取り返してくるんだから可愛い子だ、本当に。

…まさかこの頃は思いもしない。

たった1つの結晶が戦争のトリガーとなることを。

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