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あの日の夜_俺は死の間際にいた。
大きなお屋敷で暮らしていた俺は、執事やメイドの嫉妬や妬みに遭い嵌められ無実の罪で屋敷を追い出されてしまった。
最高権力者であった家主のはずだったのに、偽りの罪が流布されたことによりヘイトは俺に向かれ、街を歩めば指を刺され石を投げられる日々。
所持金の全ては水の泡に、頼れる人もいなかった俺はホームレススレスレの生活を送っていた。
幾日も雨水だけをすすり、辛うじて生を繋ぎ止めていた大雨の日。
us「…ははっ」
us「こんなんで終わりかよ」
しかしそれも限界が来て、いよいよかという時の事。
大きくなる足音に気づかず、抵抗を手放したようにゆっくりと瞼を閉じていく。
?「……ん?」
静かな視線だけが、こちらに向けられていた。
体力も残されず死を待つだけの存在に、何を伝えることがあるのだろう。
?「ははっ…見てよ、この光景」
「はっ」
?「こんな大雨の中で野良犬に出会うなんて、滑稽だと思わない?」
?「最近の畜生はいい暮らしをしてるんだね」
?「あの服装…あたかも屋敷の主人だったかのような上っ面をしてる」
先程まで程遠かった声は、正面から堂々と気配のような音が迫ってくる。
雨の音は鬱陶しく図々しく、彼の声を聞くのに耳を澄まさないといけない。
「いえ、恐らく仮装ではないでしょうか」
「屋敷の主人であれば、路地裏で過ごす理由がありませんから」
「ただ単に、着るものが選べない貧乏人でございましょう」
?「…へぇ?それは興味深いね」
彼は1歩踏み出し、壁際にいた俺の前で足を振り上げた。
_ドンッ。
乾いた音が鼓動の代わりに響く。
片方の靴底が壁に当たり、逃げ道を塞いでいるのだけは感じていた。
?「どうせ死ぬくらいなら、最後に滑稽な瞳を俺に見せて?」
?「希望を失った黒い目を見るのがフェチなもんでさ」
瞼の裏に溜まっていた闇がゆっくりと解けていくのを感じる。
光が差し込み、俺は静かに目を開いた。
us「…」
その瞬間、思わず息を飲んでしまった。
視線は自然と彼に吸い寄せられ、言葉にできない美しさが空気ごと俺を包み込んだ。
疎ましい世の中で、こんなにも美しく秀麗な人間が存在していたなんて。
彼が微笑むと、まるで時間の流れまでが柔らかく揺れるかのようだった。
彼はそっと膝を折り、地面に身を寄せる。
自分の頬にそっと触れるその手を見つめながら、心の奥で揺れる感情を押し込めるのに必死だった。
?「ふふ…可愛いね」
?「誰かにこうされて欲しかったの?」
感情を抑えることに限界を感じて、気が付けばその場で涙がぽろりと零れ落ちた。
その暖かさに、長い間抱えていた心の傷が少しずつ溶けていく。
悲しみではなく、やっとの思いで手にした安堵の涙だった。
「gt様、野良の物はあまり触れない方がよろしいかと」
?「まぁまぁそう言わないの」
?「この子はもう俺の所有物なんだから」
?「今からそんな調子だと、この先が思いやられるよ」
「…え?も、もしかして連れて帰られるのですか?」
?「なに?俺の決定が不服?」
「あぁいえ不服など…!滅相もございません」
?「そうだよな?」
?「まぁ大丈夫さ、ちょっとした遊び道具にするだけだから」
?「飽きたら捨てるし、それでいいでしょ?」
「…かしこまりました」
?「て、ゆーわけだから」
彼の大きな青い瞳が俺を離さない。
?「今この時をもって…君は俺の物になった」
?「飼われる代わりに、拾ってくださいご主人様って言ってごらん」
?「あぁ勿論、肯定以外の答えなんてないから」
?「…返事は?」
us「…」
雨に濡れ、前髪で隠れていた瞳を彼に近づける。
us「………拾ってください…ご主人様」
泣き面でそう言うと、彼は何も言わずただ口角だけを不敵に持ち上げた。
その笑みが、これから起こる出来事を予告しているかのようだった。
【第1話 ~完~】