「やっぱり美味しいよ、これを飲んでやっとあぁ、一仕事終わったんだなって思えるんだ」
「ふふっ、そんなに?」
「あぁ」
兄は何年経っても自分への扱いは変わらない
1日で、兄に褒められた回数はいくらかなど、いつしか数えるのを忘れてしまった。
でもその一つ一つの言葉が、純粋に嬉しい。
四年生あたりになると少ししつこい?と感じる時期もあったが
こうして自分の好きな仕事ができて、それを誇りに思えているのは
間違いなく兄の存在が大きい。
「…」
さて、怒りがおさまった後は
またあの感情が浮き出てくる。
さっきは後ろからハグをされても怒りと悲しみで誤魔化されていたが
今は目も見れない…
カップに鼻を近づけ、香りを楽しんでいるはずの兄を見る。
「…」
「えっ」
「…どうしたニュート?突然驚いて」
「な、なんでもないよ…兄さんは?」
「僕?お前の紅茶を楽しんでる」
「そっか…」
思い切り目が合った。
その目は笑っていなかった
何か疑念を持つような…焦りがこもっているような
そんな目と合ってしまった自分は、何故か胸の鼓動がおさまらない。
「今日の夕飯はどうしようか?」
彼はそう問いかけながら、空になったティーカップを静かにソーサーの上に置いた。
「え?あぁ…一昨日野菜が安かったから買ってきたよ、にんじんとか…じゃがいもとか」
「それならシチューが食べたいな」
「わかった」
「ん?一緒に作るだろう?」
「いいよ、兄さん疲れてるでしょ」
「そんなもの、ニュートの顔を見たら吹っ飛んだ」
「…///そう…」
いつも何かと理由をつけて、できるだけ僕と一緒にいようとする。
でも今この状態では、それが本当に厄介だ。
「とはいえまだ3時か…流石に早すぎるから、後でだな」
「そうだね」
「あぁそうだ、僕の出張が終わったらデートに行く約束だったな、どこに行きたい?」
話題が変わる。
そういえばこんなこと話したな…
「…前話してたキャンプ…かな、でも久しぶりに本屋さんにも行きたい…ビリーウィグの繁殖方法とかまだわかってないから、参考になるものがあるかもしれない…」
指を組み話す兄を見ると、やっぱり目が合う。
どうやら、ずっと見られているようだ。
色もおしゃれで、向かい合って話せるからいいねと言って、二人で決めて買ったダイニングテーブル
今だけは、これを買ってしまったことを後悔している。
「どこでもいいぞ、ニュートが行きたいところならどこでも行こう」
「そう言って…僕がなかなか決められないのを知ってて、もうプラン考えてくれてるんでしょ?」
「ん、一応だけどな」
「…楽しみ」
「結局僕のプランを選ぶのか?」
「うん、だって兄さんが選ぶものは、全部僕が喜ぶところだから、僕自身が話したかすら覚えてない場所だって、兄さんは覚えてて、ちゃんと連れて行ってくれる」
「当然だろう?恋人の為なんだから」
「…」
一体兄はどう生きていたら、息を吐くのと同じように甘い言葉が出せるのだろう。
同じ両親のもとに生まれて、同じ環境で育ってきたはずなのに。
やっぱり兄は、自分にとってあまりにも
もったいない存在だと思ってしまう。
どうにかして兄から離れたかったニュートは、あることを思い出す。
「…あ…干してた洗濯物、取ってくるね」
そして立ち上がって兄を横切ろうとした瞬間。
ぎゅっ
突然右腕を掴まれて足が止まる。
「っ…兄さん…?」
「もしかして…僕が何か嫌なことをしたか?」
「え…?」
「目も合わせてくれないし、僕ばかり喋ってるじゃないか、返事もどこかそっけない気がする…何かあるなら教えてくれ、お願いだニュート」
自分の腕を掴む兄は
いかにも不安そうに、眉を顰めていた。
「…あ…」
とうとう悟られてしまったのだ。
自分が兄から、距離を置こうとしているのを。
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