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#二次創作
よんがつ
126
#夢小説
しらすのお部屋
568
つばさ
206
永夢は呼吸を整えながら、小さく笑った。
「……ポッピー、本当に久しぶりだね」
永夢は少し嬉しそうに笑った。
ポッピーはその笑顔を見つめる。
「……どうして」
「どうして教えてくれなかったの?」
永夢は少しだけ目を伏せる。
「わざとなんだ」
「え……?」
「ポッピー、日向審議官のお仕事だったでしょ」
「すごく大事な任務だって聞いてた」
「だから……余計な心配はさせたくなかった」
「僕が飛彩さんたちにお願いしたんだ」
ポッピーは目を丸くする。
「……でも!」
頬をぷくっと膨らませる。
「言ってくれてもよかったじゃん!」
「私、もっと早く永夢の力になれたのに!」
「私だけ何も知らないなんて、ひどいよ!」
永夢は困ったように笑う。
「うん……」
「ポッピーなら、きっとそう言うと思ってた」
「だからこそ、任務に集中してほしかったんだ」
「僕のことより、その仕事をちゃんと終えてほしかった」
「……」
ポッピーは何も言えなくなる。
その言葉が、永夢らしすぎたから。
永夢は照れくさそうに笑う。
「でも、帰ってきてくれて嬉しいよ」
「ありがとう、ポッピー」
ポッピーは永夢を見つめる。
帽子の下に髪はない。
頬は少しこけ、身体も以前より細くなっていた。
それでも、その瞳だけは何も変わっていない。
永夢のやつれた姿を見つめる。
「頑張ったんだね」
永夢は照れくさそうに笑った。
「まだまだだよ」
「早く元に戻らないと」
そう言うと、椅子に手をつき、ゆっくり立ち上がる。
「よし……続き――」
「だーめ」
ポッピーは永夢の前に立つと、人差し指をそっと永夢の口元へ近づけた 。
「今日はここまで」
「でも……まだ歩けるよ」
「だーめ」
ポッピーは優しく微笑む。
「無理したら、ペナルティ!だよ」
いつもの明るくて優しい声だった。
けれど、その言葉に迷いはない。
永夢は少しだけ困ったように笑う。
「……分かった」
そう言って、もう一度椅子へ腰を下ろした。
部屋の外。
その様子を少しだけ見守っていた貴利矢が、小さく笑う。
「やけに素直じゃん」
肩をすくめる。
「……ほんと、適任だったな」
そう呟くと、踵を返した。
「俺の出る幕なかったかー」
どこか嬉しそうに声をあげる。
「さて、行くか」
今度は自分たちの番だ。
パラドを取り戻すために。
貴利矢は静かに病院を後にした。
病院を出た飛彩は、一人タクシーを走らせていた。
向かった先は、ネクストゲノム研究所跡地。
パラドが誕生した場所。
レウコイドがパラドを利用する以上、何か痕跡を残すとすれば、ここも可能性の一つだった。
崩れかけた建物の中へ足を踏み入れる。
静まり返った廊下。
瓦礫の隙間から差し込む光だけが、薄暗い室内を照らしていた。
飛彩は周囲を見渡しながら、ゆっくりと奥へ進む。
「……ここで、全てが始まった。」
バグスター。
ゲーム病。
そして、宝生永夢。
あの頃の小児科医は、患者を救うことしか見えていない、甘い研修医だった。
何度も衝突した。
考え方も、やり方も、理解できなかった。
だが――。
患者を救いたいという、その一心だけは誰よりも強かった。
どれだけ傷付こうと、どれだけ絶望しようと、決して諦めなかった。
その姿に、いつしか自分も影響を受けていたのかもしれない。
「……フッ。」
ほんのわずかに口元が緩む。
だが、すぐに表情を引き締めた。
今はそんなことを考えている場合ではない。
飛彩は研究所の中を隅々まで見て回っていた。
崩れた棚の裏。
割れたガラス片の周囲。
壁の亀裂や床の傷跡まで、一つひとつ見逃さない。
レウコイドが痕跡を残している可能性は低い。
それでも、何かあるはずだと信じて探し続ける。
「……。」
飛彩は静かに周囲を見渡す。
「何も、ないか……。」
そう呟き、踵を返しかけた、その時だった。
視界の端に、微かな違和感が走る。
壁の一角。
ひび割れに紛れるように、何かが刻まれている。
飛彩は足を止め、ゆっくりと近付いた。
指先で埃を払う。
現れたのは、鋭く引っ掻くように刻まれた三文字。
『RAB』
無理やり削ったような、不揃いな文字だった。
飛彩の表情が僅かに変わる。
「……これは。」
ただの落書きではない。
誰かが、意図を持って残した痕跡。
飛彩はその文字をじっと見つめた。
ビルの屋上。
フェンス越しに吹き抜ける風が、大我の白衣を揺らした。
向かいには、幻夢コーポレーションがそびえ立っている。
その景色を見つめ、大我は静かに目を細めた。
「こんなとこ来て、何か分かるの?」
後ろからニコが声を掛ける。
「さぁな。」
ぶっきらぼうに返し、視線を逸らす。
ここは――永夢がパラドを消滅させた場所。
実際にその場にいたわけではない。
だが、後から話は聞いた。
命の大切さを教えるため、自らの手でパラドを消滅させる。
想像以上の荒療治だ。
まあ、あいつならやりかねないが。
それでも。
あいつはパラドを仲間にした。
「……大したやつだ。」
小さく漏らしたその言葉は、風に溶けて消えた。
「何か言った?」
ニコが首をかしげる。
「いや。」
ぶっきらぼうに返し、大我は再び視線を巡らせる。
しばらく沈黙が続く。
やがて、ニコがぽつりと口を開いた。
「永夢、ちゃんと休んでるかな。」
「ああ。あいつなら、ポッピーピポパポが止めてる。」
ニコは小さく笑う。
「よかった。」
大我も視線を落としたまま、小さく口を開く。
「……昔の俺は。」
「自分がどうなろうと構わなかった。」
「あの悲劇が起きてから、自分の命なんて、二の次だった。」
一拍置く。
「だが。」
「あいつは違った。」
「患者も救う。」
「仲間も救う。」
「……そして、自分も生きると言った。」
「ドクターには、生き抜く責任があるってな。」
その言葉を、本当の意味で理解したのは。
「……あいつのおかげだ。」
思わず口をついて出た本音だった。
「……え?」
ニコが目を丸くする。
大我はハッと我に返った。
「……忘れろ。」
「えー?」
ニコの口元がにやりと吊り上がる。
「今の録音しとけばよかった~!」
「帰ったらみんなに言いふらしてあげよっかな~。 『大我が永夢に感謝してた!』って。」
「おい。」
「『あいつのおかげだ』だって!」
「やめろ。」
「おい、ニコ。」
「CRのみんなに――」
「バカ、やめろ!!」
大我は思わずニコの頭を軽く小突く。
「あいたっ!」
「痛いじゃん!何すんの!!」
「お前が言いふらそうとするからだろ」
「……ったく。」
ニコは頭を押さえながらも、くすくす笑っている。
その笑い声に、大我も思わずため息をついた。
「……遊びは終わりだ。」
表情が少しだけ引き締まる。
「手がかりを探すぞ。」
「はいはい。」
「りょーかい。」
ニコも笑みを引っ込めると、大我の隣に並び、再び屋上へ視線を向けた。
ニコも頷くと、二人はそれぞれ屋上を捜索し始めた。
フェンスの周囲。
室外機の裏。
排水溝の隅。
コンクリートの亀裂まで、一つひとつ丁寧に目を向ける。
しかし、それらしいものは何もない。
「やっぱり外れかな……。」
ニコが小さく呟く。
「まだだ。」
大我は短く返し、そのまま歩みを進める。
視線を巡らせていた、その時だった。
「……。」
足が止まる。
屋上の端。
人がほとんど近寄らない場所のコンクリートに、何本もの傷が走っていた。
最初は、ただのひび割れかと思った。
だが、違う。
傷は不自然なほど一直線で、何度もなぞるように刻まれている。
大我はゆっくりとしゃがみ込み、指先で表面の埃を払った。
現れたのは――。
『XLY』
「……おい。」
その声に、ニコが駆け寄る。
「何?」
「これを見ろ。」
「……え?」
ニコもしゃがみ込み、文字を見つめる。
「落書き……じゃないよね。」
「ああ。」
大我は傷跡を指でなぞる。
深く、荒々しい。
まるで、何かに追われるように刻まれた跡だった。
「誰かが、意図的に残した。」
ニコも真剣な表情になる。
「でも、『XLY』って……どういう意味?」
「分からねぇ。」
大我は静かに立ち上がる。
「だが、こんな場所に偶然残るようなもんじゃねぇ。」
もう一度、文字へ視線を落とす。
「戻るぞ。」
「うん。」
二人はその場を後にした。
ここは――。
パラドが、自らの消滅を受け入れた場所。
ゲムデウスを攻略するため。
人類を守るため。
貴利矢は静かに目を閉じた。
かつて自分も、人類を救うために命を懸けた。
一度失った命。
バグスターとして新たに与えられた命。
その意味を問い続け、最後に辿り着いた答えが―― 人の命を守ることだった。
黎斗と共に完成させたゲムデウスワクチン。
あの時、自分は迷わなかった。
そして。
人の命をゲーム感覚で弄んでいたお前も。
人の命を守るために、自らの消滅を選んだ。
「……そうか。」
小さく笑みがこぼれる。
「お前も、同じだったんだな。」
貴利矢はゆっくりと目を開く。
「だったら。」
「今度は自分たちがお前を助ける番だ。」
そう呟くと、気持ちを切り替えるように周囲へ視線を巡らせた。
「……さて。」
「昔話はこのくらいにしとくか。」
軽く肩を回し、歩き出す。
その時だった。
石畳の一角に、不自然な擦り傷が目に留まる。
「……ん?」
足を止め、しゃがみ込む。
落ち葉を払うと、そこには石で何度も擦り付けたような三文字が刻まれていた。
『ABX』
貴利矢の表情が変わる。
「……これ。」
「まさか……。」
刻まれた三文字を、じっと見つめる。
何の文字列だ。
略号か。
暗号か。
少なくとも、特定の言葉を表しているようには見えない。
「……調べる必要がある、か。」
貴利矢はその文字列を写真に収めると、静かに立ち上がった。
「あいつらにも共有しねぇとな。」
踵を返し、公園を後にする。
向かう先は――CRだった。
コメント
1件
つばささん、第34話読みました。永夢とポッピーの再会シーン、すごく温かかったです。永夢が「わざと」ポッピーに隠してたって設定、彼の優しさが滲んでてグッときました。そして飛彩・大我・貴利矢がそれぞれ別々の場所で「RAB」「XLY」「ABX」という謎の文字を見つける展開、伏線が一本に繋がる予感でワクワクします。各キャラが過去の場所を巡りながら永夢との思い出を振り返る構成も、読んでいてじんわり来ました。次が気になります!