テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
1,849
7,310
当作品は
◾︎ nmmn
◾︎ BL
◾︎ rbru
を含みます。
nmmnが苦手な方、タグ等上記の意味を理解しかねる方、見覚えがない方は閲覧をお控えいただきますようお願い申し上げます。
また、
◾︎ 話はすべて筆者の妄想・フィクションであること。
◾︎ ご本人様及び関係者、同名の団体、事務所その他とは一切関係・関連がないこと。
◾︎ ご本人様及び関係者の方に対して決してご迷惑をおかけするようなことがないこと。
◾︎ コピペやスクショ、転載等は禁止であること。
◾︎ デリケートなジャンルのため、状況によって名称・名前・表現等を書き換えている場合があること。
◾︎ 閲覧は自己責任であること。
◾︎ 全ての配信、ボイス等を履修できているわけではないため矛盾が生じる可能性があること。
これらを全て了承でき、自衛できる方のみ本編の閲覧をお願い致します。
××┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈××
星導以外が転生する話。一度亡くなるので死ネタではあります。
結婚の話も出る。
直接的な表現は無いですがほんの少しだけ行為の話題が出ます。
✦︎友情出演:ri、kgt (お名前だけヒーローの皆さん)
約13000字。書きすぎました。
××┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈××
最初に出会ったのは東の4人。
今でも活動している鑑定の出張依頼として東の街へ出向いた際、ふと聞き覚えのある声が複数聞こえ、声の元を探すと少し栄えたゲームセンターの出入口。そこで男子高校生4人が楽しそうに話していた。1人はなぜか慌てていて、1人はそれを見て爆笑していて、1人は大丈夫なのかと心配していて、もう1人は追い打ちをかけるように毒づいている。
見た事のあるその光景に、なぜか、転生したのかと素直に受け入れてしまった。
⎯⎯輪廻転生。
高校生になった彼らを見るまで空想上のものだと信じきっていた。
数十年…否、数百年前だろうか。未だかつて無いMECHATU-A全体での大型任務。そこで最後まで懸命に命を掛けヒーローを全うした7人。長命仲間であったはずの佐伯や小柳までもが、星導ただ1人を残して空へと旅立ってしまった。海を越えた国で共に戦っていたクライシスの3人も、寿命を全うし、遂に完全に星導ひとりになったのがもう、数え切れないほど前な気がする。
ひとりになった星導はそこから旅立ち始めた。
最期の大型任務により、敵組織はほぼ壊滅することが出来た。そのため街の平和は守られ、その流れでヒーロー業は引退。そのまま出張依頼をメインに鑑定をしながら放浪中。
そんな時に出会ったのが、転生した東の4人だったわけだ。
その次に中学生の伊波、そして叢雲を見つけることができた。が、今まで出会ってきた仲間達6人、全員が前世の記憶を所持していなかった。
手に持っていた自身のハンカチを「これ落としませんでしたか?」と、落し物を装って全員に声を掛けてみた。記憶があるのなら、きっと星導だと反応してくれるはず、そう期待してみたはいいものの、返ってくる反応は全て「落としていない」だった。
過去に縋っているのは自分だけ。そう気がついた。彼らはもう、別の人生を歩んでいる。ヴィランのいない、戦う相手のいない、一般人として守られる立場にいるのだ。
ならばもう、そっとするべきだと、二度と彼らと接触はしないようにした。けれど結局、たまに覗きに行ったり、ストーカー紛いなことをしている自覚もあるがなんせ亡くなった仲間達の生まれ変わりなのだ。許して欲しい。
なにより、残り1人の情報が欲しい。かつての同期で、仲間で、友人で。星導の生涯唯一の恋人だったアイツ。
今世も出不精なのか?だから見つけられないのか?なんて八つ当たりもしてみた。
記憶がなくたっていいのだ。ただ、彼がまた、生を授かり、この世に存在しているという事実が欲しい。…あわよくば、また、恋人になってくれないかなと。
だって、約束したのだ。
『俺が死んだら、逢いに来て。忘れないで。俺は待ってるよ、ずっと。俺の来世まで愛してくれるんだろ?』
そう、涙を流しながら微笑んだ彼と、逢いに行くと、約束した。だから、星導はこうして旅を続けている。
先は長い。地道に、片っ端から探しに行こうと肩を下ろした。
✦︎✧︎✧✦
「うわ、雨じゃん。」
最悪。と項垂れながら店の看板をCLOSEからOPENへと裏返す。
梅雨の季節に突入したため、一時的に出張を取り止めた。この季節は何かと移動に不便なので店頭で承ることが多い。出張がメインとはいえたまには店を使ってあげないと知名度も下がるしなにより、小柳が来る場所が無くなってしまうから。…店を使うのは数十年ぶりだけれど。
拠点も本部も無くなってしまった今、小柳が辿り着く場所はこのルベイエだけ。まあ、記憶があったらの話だが。
埃被った店内を掃除しようとよし、と気合を入れた刹那、登校する生徒で溢れかえった朝の時間の騒がしい空気の中に、ひとつだけ、澄んだ声が聞こえた。他の声はあまり聞き取れないのに、その声だけは水中から水面に浮き上がっているかのように透き通っている。
忘れもしない、恋焦がれ、待ち焦がれた低音。星導を呼ぶ時だけ、緩くなる滑舌がたまらなく好きだった。
「おいカゲツ!転けるぞ」
ああ、嗚呼…!どうか、どうか⎯⎯ッ!
心臓が壊れたみたいに暴れ出す。
聞き間違いじゃない。絶対に、間違えるはずがない。
震える手でドアノブに触れたまま、ゆっくりと声の元を辿った。
雨の中を走る小学生たち。傘を差しながら騒ぐ学生。 足早に通り過ぎる会社員。その中に紛れていた。
青灰のサラサラとした柔らかそうな髪。
月と夜空を宿したようなバイカラーの瞳。
面倒臭そうに肩を竦めながらも、結局は周囲の世話を焼いてしまう男。
隣では再会した時よりも成長した叢雲らしき少年が慌てて前を走っていて、その後ろには同じく成長した伊波の姿。駆け出す叢雲を見てケラケラと笑っている。
「だから言ったやん!寝坊するって!」
「いや、起きてたんだって」
「起きてて遅刻しかける方がダメだろ」
「うるせぇな」
その声を聞いた瞬間、星導の中で何百年分もの時間が崩れ落ちた。
いた。
いた。
いた。
やっと。
やっと見つけた。
探していた。
逢いたかった。
約束した!
胸の奥が熱くなる。 涙が滲む。
刹那、ふと小柳と目が合った。遠くを通りすぎる瞬間にこちらを見て、星導の姿を視認した瞬間目を大きく見開き立ち止まる。
⎯⎯なんだ?何かがおかしい。だって、今の小柳からしたらただの他人で、店の前で突っ立っている男を見たところで目を見開いて驚く理由はない。期待してしまう、そんな反応をされたら。
だって、ほら。遠くて見えにくいけれど、目から一筋、ぽろりと涙が零れた。
⎯⎯ほしるべ。
確かにそう、呟いた。
嘘、うそだ。だってそんな、そんな都合のいい話あるわけが無い。
星導の喉がひゅ、と鳴った。雨音が遠い。視界の端で学生たちが通り過ぎていく。車が水溜まりを跳ねる音も聞こえる。なのにその全てが遠くて、ただ目の前の少年だけが鮮明だった。
小柳はまるで時間が止まったみたいに立ち尽くしていた。
隣を歩いていたはずの伊波が怪訝そうに振り返る。
「小柳?」
おーいと目の前で手を振っても反応がない。どしたん?と叢雲も立ち止まった。
小柳はただ真っ直ぐ、店先に立つ男だけを見て、ぽろぽろと涙を落としている。きっと、自分でも気付いていない。
「……え。ちょっと、小柳?」
伊波の戸惑ったその声でようやく小柳が我に返った。
けれど視線は逸らせない。だって、産まれる前から逢いたかった人がいる。物心がついたその日から、ずっと星導との約束が刻まれていた。さすがに無くなっているか、と思い半ば諦めていた店は存在していたもののいつもCLOSEで、立ち寄ってすらいないようだった。だから高校は家からの通学路に店がある高校に入り、何度も何度も星導の影を追っていたのだ。
寄り添って死んだあの日。独り残してしまった番。
『逢いに来て』
そう言ったのは自分だったはずが、待ちきれなくて、自ら探していた。
小柳は一歩踏み出した。また一歩。
星導は動けない。
信じられない。
信じたい。
怖い。
もし、また記憶喪失になっていたら。
もし、また置いていくことになったら。
ずっと抱えてきた恐怖が足を縫い付ける
けれど次の瞬間、手に持っていた傘も荷物すらも投げ出して小柳が駆け出した。投げ出された荷物がびちゃりと濡れる。名前を叫んだ伊波と叢雲に目もくれず、目の前の男への距離を縮めていく。重力に従い後ろへと流れていく涙が邪魔だった。
星導の目の前へと辿り着く瞬間、流れるように星導が腕を広げた。反射的に腕の中に飛び込んだ小柳が星導の背中へと腕を回す。
久しぶりに触れた温もりに、懐かしさを感じた。
「っ、遅せぇよ、ばーかッ」
絞り出した小柳の言葉に答えるように、星導は自身の胸に埋もれている小柳の顔を上げて、涙と興奮でぐちゃぐちゃになった唇にそっと自分の唇を重ねた。
ちゅ、と軽い音を立て、すぐに離す。けれど足りないと言うように小柳から唇を重ねられ、ぺろりと唇を舐められた。要望通りに唇に隙間を開ければするりと舌が侵入し、嬉しそうに顔が蕩ける。
数百年越しのキスは、涙と雨の味がした。
「っぷぁ、っおい、長ぇよ」
「えぇ?小柳くんが強請ってきたのに」
「限度があるだろ、限度が」
むっと睨む小柳。けれどどこか、嬉しそうに見えるのは星導の願望だろうか。
未だぽろぽろと零れる涙をそっと親指で拭えば目を細める姿はさながら猫のよう。昔は何度も「狼だって」と言い返されたが、狼要素の無くなった彼はどう言い訳するのだろうか。まあ、それは追々確かめていくとしよう。
「泣きすぎじゃない?泣き虫になっちゃったの?」
「ばか、産まれた時以来だわ」
頭の側頭部を再度星導の胸に預け、ぎゅう、と更に距離を縮める。それに応えるように星導も小柳の背中に腕を回し強く抱き寄せた。
外でこんなに密着するなんて、人前ではやらないよなぁ、と思い至ったところで、見知った顔の少年たちを思い出す。小柳が先程までいた場所を見れば2人の少年が立ち尽くしていた。
やべ、と星導が呟き、その声を聞いた小柳が星導の顔を見ると何やら自身の後ろを眺めている。なんだ?とその視線を追えば、困惑している様子の友人たち。あ。とそこでようやく思い出した。
「……………はず」
「キス見られちゃった」
「…今更じゃね?」
「俺たちからしたらね?でもこのふたりからしたら初めてでしょ。」
昔は彼らに目撃されることが多々あった。拠点で口寂しくなった時。任務後に興奮した勢いで密着していた時。ところ構わず触れ合っていたわけではないが、なぜが目敏く見つけられるのだ。思い出せば出すほど小柳は羞恥心で顔を真っ赤に染めてしまった。
いくら慣れてしまっているからと言って、彼らは慣れているはずがない。なんてったって記憶が無いのだ。4人でくだらない事で笑い合っていた時間も、星導が惚気け始めて、小柳が照れて、伊波と叢雲がはいはいと流して。楽しかった時間も、苦しかった時も、全て覚えていないのだから。
忘れられるってこんな気持ちなんだ、と星導は初めて忘れられる側の気持ちを認識した。
離れ難くて未だ触れ合っていた体を離す。
…おい、今少し寂しそうな表情をしたの見逃さなかったぞ。
「ライ、カゲツ。遅刻すんぞ」
「ぇ…………あっ!」
「オオカミはどうするん」
「俺サボる。言っといて」
「貸いちね!あと今度詳しく聞くから!ばか!」
小柳に拾った荷物と傘を差し出して、叢雲の手を引き、捨て台詞を吐いて駆けて行った伊波の背中を追いながらばかってなんだよと呟いた小柳に、行かなくていいの?と問えば行ってる場合じゃないだろと星導を睨む。
「サボっちゃって、悪い子なんだー」
「うるせぇ、一日くらいいいだろ。……てかさぁ、寒くね?」
「気づいた?寒いよね」
「んで他人事なんだよ。早く、店入れろ」
「横暴だなぁ。はいどうぞ。ご来店ありがとうございます〜」
現在進行形で雨に降られびしょ濡れになった体が震え出した。
小柳を先に店に入れ、先程OPENに裏返した看板をCLOSEに戻して星導も中へと足を踏み入れた。
「どこかで見た事ない?」
「なんが?」
「さっきの男の人…だよね?。紫髪の」
「あー…?言われてみれば、ある気がする。………あ、あれやない?中学の頃ハンカチ落としてないかって聞かれたやん」
「…えっ!そうじゃん!その人じゃん!世間狭っ!…付き合ってるのかな?」
「やないとキスすんのおかしない?歳上の彼氏どこで捕まえたんかは謎やけど。」
「教えてくれるかなぁ」
「…教えてくれんと許さん」
「んは、そうだね」
✦︎✧︎✧✦
「なんも変わってねぇじゃん。」
「でしょ。小柳くんが寂しくなっちゃうかなって。」
「使ってなかっただけだろ」
「そうとも言う」
「てかそれだよ。なんで店開いてなかったん。俺何回もここ来たのに」
「出張メインにしながら旅してたんですよ。とんだ灯台もと暗しだったけど。」
徒労だった。山も越え、海も越えたというのに、探していた彼が言うには自身の店の前が通学路だと言うではないか。店を開けていたらもっと早くに出会えたかもしれないというのに。時間感覚がバグって数十年に一度くらいしか開店していなかったのが仇となった。まあ、出張で東に行ったおかげで過去の東の仲間たちも見つけることが叶ったためよしとしようか。
「お風呂入ろ。風邪引いちゃう。埃被ってたらごめんね。」
「最悪。…………すんの?」
「すんのってなにを………はぁ?ヤらないよ。お前高校生だろ」
「今更んなこと気にすんのかよ」
「当たり前だろ。お前の体は今未成年なわけ。俺が捕まってもいいの?」
「俺の事どんな姿でも愛するって言ったくせに」
「愛してるよ。愛してるけど!セックスすることだけが愛じゃないでしょ。小柳くんが成人するまでセックスはしません。」
「…マジで言ってる?」
「大マジ。ほら、さっさと入った入った!」
背中を押され、ぶすっとした顔のまま脱衣所へ追いやられる。昔なら絶対にそのまま一緒に風呂へ入っていた。むしろ、表面上は嫌がる小柳の内心を察して星導の方から当然のように小柳の手を引いて連れて行っていただろう。
なのに今は駄目らしい。
「……意味分かんねぇ」
ぼそりと呟きながら制服を脱ぐ。鏡に映る自分は高校生だった。当時より少し幼い顔立ちに背も低い。身体つきもまだ未完成だ。
そんな当たり前の事実を突き付けられて、少しだけ複雑な気持ちになった。
交代で風呂に入ってリビング。小柳が風呂に入っていた間に片付けたらしいその部屋はまあ、足を踏み入れた時よりは片付いている。
星導は小柳から数多の情報を聞き出した。
高校に入って伊波と叢雲と再会したこととか。どうやら偶然、3人とも同じクラスになったらしい。出会った瞬間から意気投合してそのままよくつるむようになったのだとか。星導が東の4人もいた、記憶はなかったけどと伝えれば少し寂しそうに「まあ、だよな…」と顔を伏せた。
「小柳くんは?今どこに住んでるの」
「今一人暮らし。その辺のボロいアパートで暮らしてる。」
「一人暮らし?親御さんは?」
「いない。施設で育ったから。ガキの頃に捨てられて、保護されて施設に入らされて、高校生になったから一人暮らししてる。成人してないから契約したのは施設の人だけど。」
「…そう。お金は?」
「バイトと施設からの支援でなんとか。」
「…一人暮らしは?楽しい?」
「んー、あんま。何もないし。ゲーム買う金ないし。」
この時代のゲームやってみたいんよなぁ、とゲーム好きの彼は呟く。
…一人暮らし。別に今の小柳になる前から何十年、いや何百年も一人暮らしをしていたはずなのに、なぜ、こうも心配になってしまうのだろうか。…きっとそれは、今の彼が未成年だから。頼れる先もなく、ひとりで全てを抱えて生きている。ああ、神様はなんて無慈悲なのだ。神なんて信じたことないけれど。
「あのさ」
「なん」
「その家引き払ってって言ったらどうする?」
「………それは」
「俺と一緒に住みませんか」
同棲。いやまだ同居。…多分。
その言葉に小柳はぱちりと瞬いた。数百年一緒にいた相手だ。本来なら断る理由なんてひとつもない。
けれど今の自分は高校生で、星導は大人で。責任を全て星導へ押し付けてしまう。だから、ほんの少しだけ、躊躇った。
「……いいの」
ぽつりと落ちた声に、星導は即答した。
「いいよ」
「金ねぇぞ」
「いらないよ。バイト代は将来のために貯めておいて。」
「家事もそんな出来ないし」
「知ってる」
「……ゲーム買っていい?」
「もちろん。今度一緒に買いに行こ、俺が全部買ってあげる。」
しばらく見つめ合った後。小柳は堪えきれなくなったようになんだよそれ、甘やかしすぎだろと吹き出した。
当たり前みたいに返されて、胸の奥が熱くなる。
施設で育ち、しばらくして一人暮らしを始めた。友達も出来たし、昔の仲間ともまた会えた。
⎯⎯けれど。
本当はずっと寂しかった。ずっとひとりだった。
前世の記憶を抱えたまま生まれてきてしまったから。誰にも話せない秘密を抱えながら生きてきたから。一人残してしまった星導のことがずっと頭から離れないくて、何度夢に見た事か。
恋人の存在は確かに記憶しているのにその恋人は傍に居ない。どこにいるのかもわからず、もしかして、小柳の記憶すらも忘れて別の奴とうつつを抜かしているのではとすら思い始めていた。
けれど、今日再会した星導の小柳を見る目はずっと昔と変わっていなかった。数百年前の小柳の事が愛おしくて堪らないという表情。疑う余地すら許されていない。
「俺さぁ、産まれた時からずっとお前しか好きになったことないわけ。」
てか産まれる前からか。と突然の言葉に星導はへぁ、と情けない音を漏らすことしか出来ない。
「俺の一生どころか、来世まで縛ったんだから、……責任、取れよな」
約束を持ちかけてきたのは小柳だと言うのに。「待ってる」と言ったのも、「逢いに来て」と言ったのも、全て小柳。こんなに横暴だというのに、なぜ嬉しく思えてしまうのだろうか。
それに、小柳だって星導の永い時を縛ったのだ。こちらも責任を取ってもらわないと困る。
「じゃあ小柳くんも責任取ってね。俺、お前のこと一瞬だって忘れたことないんだよ?」
「へぇ、記憶喪失にならんかったんか」
「偉いでしょ。」
「どこかの誰かは俺の事も俺との思い出も綺麗さっぱり忘れたけどな」
「俺覚えてないから知らなーい」
星導にはこれから、小柳が成人するまで手を出せないという苦行が待っている。無防備な彼と同じ屋根の下に住んで、我慢できるのだろうか。否、しなければならない。精神的には数百歳とはいえ、現在の肉体は十代半ば。まだ歴とした子供だ。
けれどまあ、小柳を探し続けた数百年と比べればあっという間だろう。これから彼といられる日数を考えれば、造作の無いことだった。
✦︎✧︎✧✦
「小柳!」
「ふぁ〜……はよ。」
欠伸を噛み締めながらのそりと先日の店の裏口から顔を覗かせた小柳。伊波と叢雲が小柳と出会うのはあの日以来だった。
数日休んだと思った途端、グループチャットに合流地点を変えたいと一通入った。
なんとなく連むようになって、家も近い事がわかって。なら登校も一緒に、と3人の交差する地点で 合流して通っていた。けれどその合流する場所を変えたいという。しかも伝えられた場所は件の店で、通り道に叢雲の家があるため、伊波は叢雲と二人で合流地点に向かうことにしたのだ。
「おはようございます。」
眠そうな小柳の背後から現れたのは紫髪の男。近くで見るとかなり綺麗な顔をしているなと思った。
「おはようございます…?」
「………おまえ誰?」
「ちょっとカゲツ…!」
未だ小柳から詳しく聞けていない男に警戒する叢雲を見て、こそこそと小柳に囁く。どこか浮き足立っているような気がするがきっと気のせいだろう。睨まれて嬉しそうにする男なぞ存在するはずがない。…おそらく。
「すごい小柳くん!懐かしくない!?ディティカで初めて顔合わせた時と同じなんだけど!」
「やめてやれよ、お前が怪しすぎるだけだろ。そりゃ警戒するわ」
「えっ」
「ちょっと、小柳くん?聞き捨てならないんだけど!」と騒がしい星導を華麗にスルーしながら小柳は喋り出す。
曰く、この男と共に住むことになり引っ越したと。
「…どういう関係なん」
「んー…」
「言えないん?」
「いや、言えないとかじゃなくて…」
「付き合ってるんやないん?」
「…それは」
煮え切らない小柳の様子に、叢雲が踏み込む。「言えない」ではなく、「伝えにくい」が正解なのだけれど。
前世から付き合ってて…なんて言ったって、バカにされるか突き放されるのがオチだ。
どう伝えるべきか、と小柳が悩んでいると、伏せた叢雲の瞳から雫がひとつ。
「え、カゲツ?ちょっと…」
「っ、ぼくは、オオカミと友達やと思ってた。友達って、言いたいこと言い合える関係やないん?オオカミは、ぼくたちのこと友達やと思ってないんや」
秘密を作られてしまったことが寂しかったらしい。叢雲からしたら自分たちよりもぽっと出の男を優先されてしまったのだ、面白くないと感じるのも仕方の無いことだろう。
わたわたと小柳が狼狽えているうちに、泣き出した叢雲を見て、顔を覗くようにしゃがんだ星導が涙を強引に拭う叢雲の手をそっと離した。
「初めまして。星導ショウって言います。君のお名前は?」
「…カゲツ」
「カゲツ。綺麗な名前だね。…カゲツの大切な友人を奪ってしまってごめんなさい。でもね、小柳くんは俺にとっても大切なひとなの。」
星導の言葉に、叢雲はぐしゃぐしゃになった顔のまま唇を噛んだ。
「……でも」
「うん」
「でも、ぼく、何も知らん」
震える声だった。
友達だと思っていた相手が、自分たちの知らない誰かと強く結びついている。それがとても寂しかったのだ。
「カゲツ…ごめん。言いたくない訳じゃない、どう伝えたらいいか迷っただけで…お前らのことちゃんと友達だと思ってるよ。」
「…ほんま?」
「マジのガチ。」
「……じゃあなんで教えてくれんの」
「お前らを困惑させないように言葉まとめてたんだって」
変化の訪れないやり取りに、遂に伊波が口を出した。
「もう、カゲツは一旦泣きやみな、目腫れるよ。ほら、ハンカチ。小柳は伝えようとしてくれてたんだよね?」
「ああ。」
「ならよし。もうちょっと待ってあげようよ、カゲツ。」
あっという間に場をまとめてしまった伊波に、懐かしさを感じた。昔もこうして、個人主義なディティカをまとめてくれるのはいつだって伊波だった。
「落ち着くためにも一旦学校行こ!時間やばいし。放課後来てもいいですか?」
「もちろん。お待ちしております」
「だって!早く行こ!」
「じゃあ、行ってくる。」
「行ってらっしゃい!気を付けてね、3人とも。」
そう言って、今度は傘も荷物も忘れずに、伊波と叢雲の背中を追うように歩き出した小柳。その背中を見送りながら、星導は小さく息を吐いた。
かつてヒーローとして共に戦い、命を犠牲に世界を守り抜いた仲間たち。記憶はなくとも、その魂に刻まれた本質は何も変わっていない。案外仲間思いな叢雲も、まとまりの無いチームを的確にまとめる伊波も、星導の知る「彼ら」そのものだった。
✦︎✧︎✧✦
「ただいま」
ガチャりと合鍵を使って階段を上がった先の裏口の扉を開けたのは小柳。共に住むことが決まってからすぐに合鍵を作りに行ったのだ。
「おかえりなさい。ライとカゲツも、いらっしゃい。」
奥の部屋から迎え出た星導がにこりと微笑む。小柳が先に靴を脱ぎ、伊波と叢雲を迎え入れた。
そのままリビングのダイニングテーブルへ。4人がけのテーブルに伊波と叢雲が並んで座り、その対面に小柳と星導が座る。座る時に出されたのは美味しそうな茶菓子とそれぞれの好みの飲み物。小柳が教えたのだろうか。
ふう、と一息ついた星導が「まずは俺のことを知ってもらおうかな」と自分のことについて話し出す。
「名前は星導ショウ、年齢は…20代辺りだと思ってください。お仕事はこの下の一階の店で鑑定士をしています。最近はとある理由で旅に出ていたのでこの店は使っていませんでした。なにか質問はありますか?」
「なんで旅に出てたの」
「探し物をしていて。もう見つかったので大丈夫になりました。」
「なんで年齢わからんの」
「実は記憶喪失でして。記憶喪失になった後の自分しか分からないですよね。」
もう何百億歳だけれど。そんなことを言ったら混乱させてしまうから。
驚いてはいるらしい2人はとりあえず質問は一旦大丈夫だと言うので、次は小柳が口を開き出した。
「星導とはずっと遠距離恋愛みたいな感じ。ずっと会えてなくて、あの時久しぶりに再会した。」
「…まだ高校生なのに?いつから付き合ってるの」
「…まあ、ちょっと前から」
変わらず曖昧な小柳の返事に伊波が「怪しっ」と呟いた。仕方がない。バカ正直に前世から、なんて言えるわけもないし、言えない。
先日、星導と小柳は「2人には前世の話をしない」という方向に落ち着いた。
今の彼らの人生を歩んで欲しいのだ。戦わずに生きられる今、自分の人生を精一杯、一生懸命に生きて寿命を全うして欲しい。そう、決めてしまった。
「怪しいってなんだよ」
小柳が不服そうに眉を寄せる。
「だって怪しいじゃん。ずっと会えてなかった恋人と再会しましたーって、それだけ聞いたらアニメの設定みたい!」
伊波の言葉に叢雲もうんうんと頷いた。
「しかもオオカミ、あの日からずっと機嫌ええし」
「そうか?」
「そうや」
「そうだね」
2人に即答され、小柳は口を噤む。自覚はなかった。
ただ、朝起きれば星導がいて、学校へ行けば見知った友人がいて、帰ればまた星導がいる。
それだけで胸の奥に空いていた穴が少しずつ埋まっていくような感覚があったのは事実。
まあでも、と伊波が安堵のようなものが混じった表情で両頬に手のひらをつき両肘をテーブルに置いた。
「小柳がちゃんと笑ってるからいいや」
その言葉に、小柳が目を瞬かせる。
「前までたまにさ、変な顔してたじゃん」
「変な顔ってなんだよ」
「なんか遠く見てる感じ。ひとりだけ別のこと考えてるみたいな」
「わかる。ぼーっとしとったよな」
図星だった。
朝が来る度、いついかなる時も星導のことを考えていた。
不安だったのだ。存外仲間のことが大好きな星導が、仲間が一斉に居なくなってしまったあと、まともに生きくれるのかと。もしかしたら、小柳たちの後を追って…なんて行動に出る可能性もゼロじゃない。クライシスの3人が居てくれなかったら今頃逢えていたかもわからない。
だから、呪いをかけた。呪術なんてものでは無い、ただの言葉の呪い。
『忘れないで』⎯⎯なんて。
一度記憶を綺麗さっぱり失くした彼は、忘れないように必死だった。なんとしてでも形に残すようになったのだ。写真だったり、文章だったり。きっとこの家にも大量のメモ書きや写真がいくつも残っている。
失うことが怖い彼は、きっと自分の死すらも恐れると思った。死んでしまったら、記憶が消えてしまうから。だから、呪いをかけた。そして案の定彼はこうして何百年…いや、彼からしたら何百億年も生き続けてくれている。
小柳とまた出逢うために。小柳を忘れないために。
それらを抱えたまま生きるのは、思っていたよりずっと苦しかった。
だから小柳は何も言い返せなかった。
「今は減ったよね」
伊波がぽつりと言う。
「……そうかもな」
「うん。なんか安心した」
そう言って笑う伊波に、小柳は少しだけ照れ臭くなった。
その様子を見ていた星導は静かに目を細める。
昔もそうだった。
仲間たちはいつだって小柳の変化によく気付いていた。本人が気付いていないことすら。
「なに笑ってんだよ」
視線に気付いた小柳が星導を睨む。
「いやぁ」
「なんだよって」
「嬉しいなって」
「……何が」
「変わってないから」
「誰が」、とは言わなかった。
当然だ。彼らには意味が分からない。けれど星導だけは知っている。
何百年という時を越えても。
記憶を失っても。
魂の在り方は変わらないのだと。
「変なやつ。」
「よく言われます」
「自覚あるんや」
「ないですけど。」
惚ける星導に、思わず全員が吹き出した。無理がある。
笑い声が家の中に広がる。雨音はまだ窓の外で続いている。けれど家の中は不思議なほど温かかった。
✦︎✧︎✧✦
「小柳くん、これ」
「なん⎯⎯」
伊波と叢雲が帰り2人だけの空間。自室に入った星導が再度リビングへと戻ってきた。
なんだよ、と言おうとして振り返れば星導の手元には過去の自分の宝物。キラキラと未だ輝く銀色のリング。そう、星導とお揃いの、結婚指輪。結婚することは叶わなかったから名前だけのそれだけれど、小柳はずっとそれを首に掲げて持ち歩いていた。
「それ…!」
「俺がずっと持ってたの。俺のと一緒に首に下げて、2つとも。」
銀色のチェーンと、その先で揺れる二つの指輪。
片方は星導のもの。もう片方は、小柳のもの。
輝いているにしろ、どちらも傷だらけだった。それだけ長い時間を共に過ごしてきた証拠で。それだけ長い時間、星導が肌身離さず持ち続けていた証拠だった。
小柳は震える指先で自分の指輪へ触れる。
あの日、自分が最後まで握っていたもの。死ぬ間際まで手放さなかったものだ。
「……残ってたんだ」
小柳の掠れた声に星導は笑う。
「残したんだよ、お前の形を。」
何でもないことみたいに星導は言う。けれど小柳は知っている。
この男がどれだけ失うことを恐れているか。だからこそ。
「ずっと持ってた。」
その一言がどれほど重いのか分かってしまった。
俯いた小柳の歪んだ瞳からぽたり、と雫が落ちる。 また泣いている。今日だけで何回目だろう。こんなに泣き虫だったっけ、と小柳は自嘲する他なかった。もう数年は泣くことはないだろうな。
ぐしゃりと顔を覆う。星導は涙が止まらない小柳の隣へ腰を下ろした。
「嬉しい?」
「ッ、う゛ん…」
「んは、酷い顔。…お前が望むなら、新しいものを用意しようと思ってたけど、必要無さそう。」
「…これじゃなきゃやだ」
「マジ?危な、良かった持っといて。無くしてたら詰んでたじゃん。もう二度とプロポーズ出来ないところだった。」
星導の言葉に、小柳は顔を上げる。上げた先には、堪らなく愛おしいという感情を隠しもしない星導の顔。
ああ、本当に、…愛されすぎている。
「君が成人したら、もう一度俺と…結婚してください。」
真っ直ぐ見つめて、チェーンから外したそれを右手の人差し指と親指で挟み、差し出したその手の下に左手を添える。
過去に一度だけ見たことがあるその光景に小柳の呼吸が止まった。
何百年も前。
戦いが終わったあと、瓦礫だらけの屋上で。
同じように真っ直ぐ見つめられて、その時は小さな箱に収まっていたけれど、同じように指輪を差し出されて。
『俺と結婚してください』
そう言われた。あの日は照れ隠しで散々茶化したのだっけ。
「遅い」とか。「断ったらどうすんの」とか。
本当は嬉しくて仕方なかったくせに、素直になれなくて。
なのに今は、何も言えなかった。
胸がいっぱいで。喉が詰まって。視界が滲んで。
どれだけ口を開こうと、パクパクするだけで音が出なかった。だからいっそ、目の前の胸へと飛び込んだ。
「へぁ…!?こ、小柳くん…?ちょ、泣きすぎ」
「うぅ゛〜〜…ッ」
「ちょ、俺の服で鼻水拭いてるでしょ!」
「っばーか、……ん!」
差し出された手に、星導が首を傾げる。
「指輪!」
端的に伝えられた言葉にハッとする。左手で小柳の左手を拝借して、右手に持っていた指輪をそっと薬指へ。あるべき所へ戻ることのできた指輪は心做しか嬉しそうだ。
ゴシゴシと涙を強引に拭って、左手を上に掲げた。キラリと光る指輪に、小柳の頬が緩む。
星導はそんな様子を隣で眺めながら、小さく息を吐いた。
「満足した?」
「ん」
「それは良かった」
「……」
「……」
静かな時間だった。今更気まずいわけではない。
ただ、何百年も探し続けていた相手が今こうして隣にいるという事実を、互いに噛み締めていた。
小柳は指輪を撫で、星導はそんな小柳の顔を見つめる。それだけで心は満たされるものなのだ。
ふと、小柳が口を開く。
「…俺も結婚、したい」
「…ほんと?」
「嘘つくかよ」
「へへ…嬉しい」
ガバッと抱き締められ、そっと唇同士が重なる。すぐに離されると、額が触れた。
数秒見つめ合って、小柳が先に口を開いた。
「見つけてくれてありがとう。」
「こちらこそ、また生まれてきてくれてありがとう。世界で一番、愛していますよ。」
限りない愛の告白に、小柳は一瞬だけ目を見開く。けれど直ぐに視線を逸らし、ぶっきらぼうに呟いた。
額を合わせたまま、顔はすぐ目の前。必ず聞こえる位置にいる星導に、小さく。
⎯⎯俺は宇宙でいちばん、愛してるけど。
終
投稿していない間も過去作への反応ありがとうございます> < ՞
コメントも読ませていただいております。
ぜひ今回も楽しんで頂けましたら幸いです୨୧ˊ˗
時間かかる場合がございますがコメントからリクエスト受け付けております。
現在はrbruのみ。
詳しく詳細いただけるとより早く仕上げられるかもです。
励みとなりますので感想や反応等もお待ちしております!
コメント
5件
めっちゃいいです! もう転生してもDyticaみんなで記憶がなくても集まっててめっちゃよかった! です!
カゲツが転生しても小柳の呼び方がオオカミなのよかったです😭めちゃくちゃ解釈一致で好きですし最近るべロウ不足だったのでとても嬉しいです🙏流石に感動しました😭
みぅです🤍🥀 12話、読み終わりました…。 もう、もうね…冒頭から涙腺がやばかったです。「逢いに来て」って約束した側が、待ちきれなくて探してたっていうのが…胸がぎゅっとなりました。 再会シーンの“遅せぇよ、ばーか”って言葉に、何百年分の想いが詰まってて…。 指輪をまた薬指にはめる場面、本当に綺麗で、泣きそうになりました。 転生しても変わらない“好き”って、尊すぎます…。 素敵な物語をありがとうございます🌙