テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
最後の部屋の前の通路は、他の場所と明らかに違っていた。
足音が、壁に吸われる。
天井の高さも、通路の幅も、どこかが微妙に狂っている。
リンクは歩調を落とし、
突き当たりにある一枚の扉の前で止まった。
「特別倉庫」
簡素な札。
だが、鍵は新しく、強固だ。
リンクが手を伸ばした、その瞬間。
――キィン……
背中で、
マスターソードが澄んだ音と淡い光を放つ。
はっきりとした拒絶。
近づくな、という警告。
「……開けるな、か」
リンクは手を引いた。
同時に、
空気の流れに意識を向ける。
廊下の窓から入る風とは別に、
もう一つ、弱い流れがある。
《リンク……今、何を見つけたのですか?》
シーカーストーンに、ゼルダのチャット。
『三階の奥。 鍵付きの倉庫だ』
《……剣が反応したのですね》
『ああ。 だが、それだけじゃない』
リンクは廊下を見渡す。
『風が動いている。 窓以外からもだ』
《……この建物は、
部屋そのものを“境界”として使っている可能性があります》
『つまり』
《内部 が異常、ということ》
リンクは短く頷き、
倉庫から一度離れた。
隣の部屋を調べる。
机。
棚。
床。
何もない。
さらに、
隔てる壁。
手で叩き、
耳を当て、
反響の差を確かめる。
(隠し扉……なし)
「となると……」
リンクは倉庫の扉を振り返る。
『窓だな』
《ええ》
ゼルダの声は即答だった。
《内側ではなく、 外部と“繋がっている”。 だから、剣が警告した》
『理解した』
リンクは無理に踏み込まない。
ここで扉を開けるべきではない。
通路全体を意識に入れ、
罠の配置を再確認しながら戻る。
階段。
段差が、不自然に光っている。
(ワックス……)
《リンク、そこは》
『踏まない』
リンクは即座に判断し、
階段脇の吹き抜けへ向かう。
パラセールを開き、
静かに降下。
教室前に着地――その瞬間。
背後。
空気が、歪む。
大量の棘が、
音もなく迫る。
リンクは振り向かない。
ただ、
すべてを極限まで高めた集中力で躱す。
半歩。
体軸のずらし。
呼吸の調整。
棘は、
一つも触れない。
「……雑な罠だ」
棘はそのまま、
廊下の奥へと飛び去る。
リンクは立ち止まり、
トゲが向かった方向を確認する。
――何もない。
壁も、床も、天井も、
異変は一切ない。
「……さっきのは、一体……」
《リンク》
ゼルダの声が、わずかに強まる。
《今の罠、 “当てる”ことよりも、 あなたの注意を逸らすためのものです》
『……精神的消耗、か』
《ええ》
だが。
その時のリンクは、
躱すことに意識を集中しすぎていた。
背中で鳴りかけた
かすかな警告に、気づかない。
ゼルダも、気づかなかった。
リンクは深追いせず、
そのまま教室へ戻る。
扉を閉め、
静かに息を整える。
窓の外。
水平線だけがオレンジ色に染まり、
それ以外は、完全な闇。
昼と夜の境目。
《リンク》
ゼルダが、静かに言う。
《この時間帯…… この世界は、何かを切り替えようとしています》
『……ああ』
リンクは、外を見たまま答える。
『だからこそ、 今は戻る』
剣に手を添え、
次に来るものに備える。
夜は、
もうすぐそこまで来ていた。