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夜の教室は、昼間とは別の場所のようだった。照明は落とされ、 窓の外には星も見えない。
ただ、遠くの地平線だけが、かすかに暗い青を帯びている。
いつの間にか、教室のアカリバナが消えていた。枯れたのだろう。
リンクが扉を静かに開けると、
先に来ていた二人が顔を上げた。
「……あ、リンク」
エンゲルが小さく手を振る。
バブルは、ほっとしたように肩の力を抜いた。
「無事だったんだね」
「まあな」
リンクは教室の奥に腰を下ろす。
そしてまたアカリバナの種を蒔いた。
教室が照らされる。
剣は手の届く位置に置いたまま。
しばらく、他愛もない雑談が続く。
今日の授業のこと。
妙に挙動不審だった教師の話。
窓の外がやけに暗い、という話。
だが、リンクは一度、言葉を切った。
「……二人に、言っておくことがある」
エンゲルとバブルが、自然と姿勢を正す。
「俺は、この学校で―― あの怪物よりも、警戒されている」
「……え?」
「命も、狙われている」
驚きはあったが、
二人は騒がなかった。
バブルが、少し困ったように笑う。
「……やっぱり、そうなんだ」
「今日だけでも、何度かあった」
リンクは淡々と告げる。
「だから、夜は特に警戒する。
二人には、できるだけ俺の近くにいてほしい」
エンゲルは少し考え、
それから小さく頷いた。
「……うん。信じる」
空気が、少しだけ重くなる。
リンクはそれを感じ取り、
肩をすくめた。
「まあ、暗い話はここまでだ」
「え?」
「気を紛らわせよう。 俺の話でもするか」
二人の視線が、少し和らぐ。
「リンクって…… 何が得意なの?」
「特技か」
リンクは一瞬考え、
それから口を開く。
「バレットタイムっていう」
「……なにそれ?」
「極限まで集中した時に起きる現象だ」
リンクは、ゆっくり説明する。
「空中で弓を引き絞る時。
相手の一瞬の隙を突く時。
盾で、攻撃を弾く瞬間とか」
そして、常人への爆弾発言。
「その時、 周りが……二十倍くらい遅く見える」
「二十倍!?」
「逆に言えば、 周りからは俺が二十倍の速さで動いているように見える」
エンゲルは目を丸くした。
「それ……人間の動きじゃないよ」
「慣れだ」
リンクはあっさり言う。
「ちなみに、普段は右手を使うが…… 本当は左利きだ」
「え、そうなの?」
「訓練の都合でな」
それから、少しだけ間を置いた。
「……俺には、仕えている人がいる」
二人が静かに聞く。
「ゼルダ。付き合いの長い 姫君だ」
その名を口にした瞬間、
シーカーストーンが淡く光る。
チャットだ。
《リンク、話しているのですか?》
『少しな』
《……夜の教室ですね》
リンクは、二人に目配せする。
「紹介する。 俺が仕える姫君だ」
エンゲルとバブルは、目を見開いたまま、
シーカーストーンを見つめる。
すると、ウツシエが起動した。
リンクは、ゼルダが何かいじったのだと思い、特に驚くことは無かった。
ゼルダの声のみが聞こえる。
《あなたたちが、 リンクと共に過ごしている方々ですね》
ゼルダの声は、
穏やかで、芯があった。
「……え、えっと……」
《ありがとう。 リンクを信じてくれて》
そして言葉を連ねる。
《彼は、危険な状況でも、 決して仲間を置き去りにしない》
バブルが、少し照れたように言う。
「……大切にされてるんだね」
リンクは、わずかに視線を逸らした。
「……まあな」
その後、リンクは袋から包みを取り出す。
「デザートだ」
「えっ」
「クレープ。 甘いものは、緊張を和らげる」
三人で、静かに食べる。
紙の擦れる音だけが、教室に響く。
やがて、
エンゲルとバブルは毛布にくるまり、
眠りについた。
リンクは、起きたまま、椅子に座る。
剣に手を置き、
呼吸を整える。
早朝。
(寝ない……つもりだったが)
窓の向こう、
地平線が、わずかに光り始めている。
(今日を乗り切れば、一安心だ)
今日は、集合時刻が遅い。
短時間なら、眠れる。
リンクは、警戒を保ったまま、
浅く目を閉じた。
夜は、
静かに終わりへ向かっていた。