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「あ」
何かを見つけたのか拓海が路地裏まで歩くと、そこには野生の黒猫がいた。僕もそれに着いていく。どうやら猫は食べ物を漁っていたらしい。少し手が汚い。
「可愛いな!」
「これ、野良猫だよね。保護してくれる場所に送り届けたほうがいいかな?」
「そうだな。でもリハーサルに間に合わないしな。困ったもんだ」
「それならリハーサルが終わったらまた来よう!いるかもしれないし」
そう提案した直後、拓海が猫と戯れ始めた。本当に猫が好きなんだ……。
それを見て、黒猫に嫉妬。頬をぷくっと膨らませる。
「お前可愛いな、どこから来たんだ?」
「にゃーご」
猫は警戒することなく、彼に懐いている。その時の表情はいつにも増して、目が輝いていた。右手で猫の顎を撫でる。
僕は拓海の服の袖を掴んだ。彼がこちらを向く。
「僕のことも撫でてくれる?」
「もしかして嫉妬した?でも、一番好きなのは幸男だ。他の誰でもない」
そう言われて胸がキュンとしてしまう。左手で顎を撫でられて、恥ずかしくなってきた。拓海の指、温かくて気持ちいいな。ほっこりしてしまう。
「猫みたいで可愛いな」
そうイケメンな顔で言われて、顔から湯気が出てしまう。鼻血が出そうだ。
猫と充分戯れた後、立ち上がって腕時計を見る。もうすぐリハーサルの時間らしい。左手と右手が握られて、これが恋人なんだと思い返される。掌同士が重なり合い、人の温もりを感じた。
路地裏から出ようとした瞬間、誰かがこちらに向かってきた。黒い服に黒い帽子、黒いマスクのせいで男か女かはわからない。そいつが僕目掛けて、ナイフを向けてきたのだ。殺される。
「伏せろ!」
拓海に強い言葉でそう言われて、突き飛ばされた。彼の腹にナイフが刺さり、地面に血が流れる。表情は険しい顔をしていた。
そのナイフを体から離した後、手で押さえたままその場に倒れる。僕も黒い服の人物も驚いたらしく、ナイフを落としてしまった。
「拓海を殺したいわけじゃなかったのに……ごめん」
この声は男のものだ。彼は震えた声で言い、そのまま立ち去ってしまう。突然の出来事が起きて、頭が動転する。思考が回らず、何をどうすればいいかわからない。このままでは拓海が死んでしまう。
僕は急いで119番と110番通報して、救急車と警察が来るのを彼の近くで待つ。ゆすっても苦しそうにしている。赤黒い血が流れ出ていた。当然ナイフには触れていない。