テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
春の風に教室の白いカーテンが揺られていた。春の朝は忙しい。特に今日は。
今日は、始業式である。進級したからと言って、クラス替えが楽しみってわけでもない。
そもそも僕は好んで人と関わるタイプではないのだ。
思わず深い溜め息がでる。早くに登校しておいてよかったものの、人がうるさくて集中しようにもすることが出来ない。何で入口にたまるんだ。
始業式の日は、すぐに下校になる。よって、ロングホームルームが終わった今、教室はざわめきで埋まっているのだった。
「ねぇ、やばっ!私らもう受験生じゃん!」
「そうだよぉ、助けてよね」
「何言ってんの、勉強ぐらい自分でしなさい。」
「もぉ、咲季ってば酷いんだから。」
…大抵は、受験のことだったが。
昼が近くなり、やがて、人の気配がなくなった。
「渡辺、ゆき先輩。」
名前を呼ばれて、顔を上げた。空いた窓から吹いた風で、参考書が捲れた。
見る。見るだけだが。セーラー服の女子。間違いなくここの生徒。だが、学年が違う。青いリボンは一年だったか。もしや、二年だったかもしれない。三年は、黄色いリボンだったはずだ。
「私、二年一組の、花本、遙華って、いいます。」
僕がずっと見ていたからか、もしくは僕の視線に耐えきれなくなったためか、彼女は自己紹介をした。いや、してくれた。
「絵を、描いてくれませんか?」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!