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知りたかった答えに一気に近づいた時、初めて俺は少し真実を知るのが怖いと思った。俺と出会う前の先輩を今から知ることになることも。
「···すみません、こんな突然に。藤澤くんは元気です。でも、自分のピアノのせいで、先生が亡くなったって言ってるんです。何か知っていたら教えてくれませんか」
俺は深々と頭を下げる。
汗がポタリ、と地面に落ちたけど夏の暑さですぐに消えていった。
「···暑いから、家に上がっていかない?」
残りの2人がちょっと、大丈夫なの?と心配している。けれどその人はピアノの生徒さんだった子のお友達だから大丈夫よ、と告げて俺を家に誘ってくれた。
家の和室には小さいお仏壇と先輩の先生と思われる写真が飾ってあった。俺はそっとその写真に手を合わせた。
「···息子が大学に入って少しした頃、ピアノを教えるアルバイトを見つけたって教えてくれて、それが涼架くんだった···あの時は12歳くらいだったかしら。ピアノの先生なんか出来るか不安で思わず藤澤さんの家に挨拶に行ったのよ、過保護でしょう」
俺は黙って首を横に振ると、懐かしそうにその人は写真を見ながら笑った。
「真面目で熱心にピアノを弾く、教えがいのある素直な子だっていつも言ってたの。年も近かったから、弟のように思ってて、たぶん涼架くんも本当の兄弟みたいに慕ってくれてたんだと思う···。3年前の夏、あの日は涼架くんが中学最後の大きなコンクールに出場することになったから見に行く約束をしていたって。でもその日は偶然、大学院へ進む試験が重なってしまって···涼架くんの出番には間に合いそうにないなって言いながら朝出かけて行ってそのまま····」
そのあとの言葉は続かなかった。俺はこんな風に振り返らせてしまったことを心の中で謝った。
「···事故に巻き込まれたところは、大学からコンクール会場までの途中で···。それを聞いてしまったんでしょうね、涼架くんはお葬式で私たちに土下座でもするみたいに泣きながら謝って···自分のせいで先生がって···」
この時俺は、先輩の言葉の意味がようやく理解出来た。
先輩は今もまだ自分を責めて生きている。その罰がピアノを人前で弾けないということなんだろう。
「···辛い話を、すみません。ありがとうございました」
そういって頭を下げる。
俺は全部聞いて知ったところでどうしたらいいか、頭が真っ白になっていた。
「あなたが来てくれて良かった。あの子が呼んでくれたのかもしれない···本当に、あれは涼架くんのせいじゃないって伝えるために」
「え?」
どういう意味がわからず、顔をあげた俺の前に先生の、お母さんは そういって手紙と小さい箱をそっと置いた。