アイツが死んで、何もかもが変わったんだ。俺の親友が死んでから、この世界は変わった。『アイツが死んだ』あの日から、何もかもが変わった。物の考え方も、世界の見え方も、そして俺の人生そのものも。
――――――――――
「侑くん、どうしたの? そんなに空、見て」
声をかけられて振り返ると、花束を抱え、純白のドレスに身を包んだ菫が立っていた。やわらかな光をまとったその姿を見た瞬間、胸の奥で静かに何かがほどける。――ああ、これが。これが、俺が積み上げてきたすべてなんだ。
「いや……ここまで、長かったなって思ってさ」
そう言って、俺は菫のほうを見る。初めて会ったころは、こんなに髪、長くなかったよな。指先でその髪にそっと触れながら、まだ何も知らなかった、迷うことすら知らなかった、あの頃の自分を思い出していた。
「髪、長いときと短いとき、どっちが好きだった?」
菫は、俺の手をやさしく取って聞いてくる。
どっちも好きだよ。長いときも、短いときも、それぞれ違う良さがあって――結局、どっちも菫に似合ってるんだ。そう言いかけた、そのときだった。
「「「「せんせー!!! 写真撮るからこっち来てーーーー!!!」」」」
教え子たちの声が、一斉に響く。元気で、要領が良くて、まっすぐな目をした、できすぎなくらいの生徒たちだ。……俺と違って。ふと、思う。マーリン先生から見た俺は、どんな生徒だったんだろうな。不器用でも、遠回りでも、ちゃんと前を向いて歩いているように、見えていただろうか。
「何ボケっとしてんのよ! 主役が来ないんじゃ意味ないじゃない!」
成瀬の声が飛んでくる。その周りには、これまで出会ってきた仲間たち、何度も迷って、立ち止まった俺を支えてくれた友人たちの姿があった。笑っている顔も、からかう声も、全部が懐かしくて、あたたかい。
俺は菫の手を取る。そして一緒に、みんなの待つ場所へ駆けていった。
俺は、この世界を変えた。そしてこれは――
俺が今まで歩んできた道のり、そのすべてを綴る物語だ。
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