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んぐあ、、をなごでございましたかリョウカ様、少し感ずいてはいましたがほんとだとは思いませんでしたなぁ。大好きです
私はめちゃくちゃ好きな展開で、ルンルンです🫶💕 💛ちゃん愛され大好きで、ファンタジーも好きな私にはご褒美すぎます👏✨
陰陽寮より示された善き日に、リョウカの帝即位の儀、御大礼が執り行われた。
流行病も終息した事で、都はすっかりお祭り騒ぎとなっていた。
帝に即位したリョウカの傍には、常に、ヒロトとモトキの姿があった。
ヒロトは鋭い眼光で周りを警戒し、日中の政には、陰陽道を用いて、モトキがリョウカの相談役として大いに役立っていた。
夜になると、三人で御所の広間へ赴き、リョウカは横笛を、ヒロトは琵琶を、そしてモトキは口から紡ぎ出す旋律を、毎晩の様にそれぞれの音を重ね合わせて、遊戯していた。
三人にとって、この時間は何物にも変え難い、幸せで大切なものであった。
ある日、帝への贈り物として、貿易商人から、竹でできた楽器の様な、一風変わった物がリョウカへと贈られた。丸い形のそれには、いくつか短く切り揃えられた竹が埋め込まれている。リョウカはそれを興味深そうに触るが、貿易商人は肩を竦めてこう話した。
「わたくしも、それが楽器だと聞いて仕入れたのですが、指で押そうが、弾こうが、叩こうが、一向に音が出ませんでした。きっと、楽器を模した飾り物だったのでしょう。大君は楽器がお好みとお聞きしましたので、嗜好を凝らしてご用意いたしたのですが、音が鳴らぬとは…いやはや、面目もございませぬ。」
深々と頭を下げる商人に、リョウカは優しく微笑みかける。
「よろしいのですよ、私のために、ありがとう。とても嬉しく思います。」
商人は顔を上げ、リョウカのその笑顔に頬を赤くして見惚れている。
ヒロトが鋭い眼光を向け、商人がヒッと小さく声を上げて、慌てて退席して行った。
「もう、ヒロト。お客様なんだから、睨んじゃ駄目じゃん。」
「申し訳ございません。阿呆な虫が紛れ込んだかと思いまして。」
「…どっちが。」
モトキがボソリと云うと、ヒロトが舌を打った。リョウカが袖で口を隠して、フフッと笑う。
「…ずっと、そうして仲良く、変わらずに私のそばにいてね、ヒロト、モトキ。」
リョウカの言葉に、二人とも静かに頷いた。
それから幾年か経ち、モトキ達は十七に、リョウカは二十歳を迎えていた。
ヒロトはあれから随分と背が伸び、リョウカと変わらぬ背丈になっていた。
「よう、ちび。」
ヒロトは、モトキの肩に腕を回し、朝の挨拶をする。モトキはじろ、と睨んで言い放つ。
「…相変わらず、ざる頭だな。」
ふい、と陰陽寮へと仕事に向かう。ヒロトは貿易商人から買ったマントをバサッと整えて、モトキの言葉の意味を図りかねていた。
「ざる頭?」
「…救い(掬い)ようの無いお頭って事じゃない?」
後ろから、リョウカが説明する。
「な゛…っ!あい、つ!」
「ふふふ、相変わらずだね。」
リョウカの笑顔に、ヒロトは顔を赤らめて、苦笑した。
その日、モトキは父から呼び出されていた。陰陽寮へ行き、個室へと通される。
「なんの御用で御座いましょう。」
「うん。これは、どちらかと云うと医業の方の命なのだが、お前にしか出来ない事だ。心して取り掛かって欲しい。」
「有り難き事で御座います。」
「…大君への、御入内について、大切な事なのだ。」
モトキの心臓が、強く掴まれた様に、痛む。リョウカは、もう二十歳だ。すでに婚姻していてもおかしくは無い年齢。むしろ、話が遅すぎたくらいだ。
「…どこの姫君を、お迎えするのでしょう。」
「うむ、それなのだが…。」
父が言い淀むのを、モトキは怪訝な顔で見上げる。
「…まずは、お前に、大君が、『をのこ』か『をなご』か、診て欲しいのだ。」
モトキの目が見開かれる。
どう云う事だ…リョウカは、男なのでは無かったのか…?
「これは、大老様方と私しか知らぬ事だが、大君のお身体は、所謂『未分化』の状態でお生まれになったのだ。」
モトキの心臓が早鐘を打つ。あの、リョウカの男とも女ともつかぬ異様な美しさは、身体の未分化がもたらしているものなのか。
「大君のお身体が、男として機能するのか、女として子を成せるのか、はたまた、どちらとも不能なのか…。まずはそこを診てからでないと、なんの話も進められないのだ。…頼んだぞ、モトキ。」
「…はい。」
モトキは両拳を床に着いて、頭を下げる。
ガンガンと頭の中に鈍痛が響いて、脳の芯が痺れる。
足元の感覚がハッキリとしないまま、リョウカの部屋へと向かった。
部屋の前に、ヒロトがあぐらをかいて座っている。
モトキを見ると、顔をパッと明るくした。
「よう、モトキ。仕事か?」
「…医業の方で、ちょっと…。」
「医業?リョウカ様はご健康の筈だが…。」
モトキの不穏な表情を見て、ヒロトは顔を曇らせた。ただ、自分の仕事の領域では無いので、ヒロトは黙ってその場を離れ、御所内の警邏に向かう。モトキの表情から、人払いが必要である事を察したのだ。
「お上、モトキに御座います。」
「…どうぞ。」
御簾を引き上げられ、そこを潜って中へと入る。リョウカが、いつもの豪華な着物ではなく、簡素な襦袢に身を包んでいる。その生地の薄さゆえに、余計に妖艶な姿となっていた。
部屋には敷布団が用意され、その上でリョウカは正座をして待っていた。
御簾を上げた侍女も、頭を下げた後、部屋から去って行った。
「…私の身体について、だね。」
モトキは、少し部屋の周りを気にした。
「大丈夫、人払いしてるから。私の身体については、秘匿の話だからね。」
「…左様で御座いますか。」
モトキは、布団の横に、しゃがみ込む。心臓が高鳴って、なかなかリョウカを見られない。
「…それでは、お布団に臥して頂けますか。」
「…うん。」
リョウカが、ゆっくりと仰向けに布団へ身体を倒す。衣擦れの音が、部屋に響いて、モトキの耳に煩いほど届いた。
医業についての術書を開き、これから施すべき術を確認する。
「…モトキ。」
「は、はい。」
思わず声が上擦ってしまった。咄嗟に顔を上げたので、モトキの目がリョウカの目と相対する。
「…私の意識を、沈めてもらうことはできる?」
「…ですが…。」
「大丈夫、皆、モトキの事を信頼してるから。私の意識がなくとも、無碍な事は絶対にしないでしょ。」
リョウカが、顔を背けて呟く。
「…意識がある中で、モトキに身体を診られるのは耐えられない…。」
モトキは、胸が詰まる思いだった。リョウカはどれほどの羞恥を持って、この行為を受け入れているのだろう。竹馬の友に、性別を診断されるなど、屈辱的ですらある筈だ。
「…分かりました。目を閉じて、深く息を吸ってください。」
リョウカは、また真っ直ぐ天井へ向き直り、目を閉じて、すう、と静かに息を吸った。
モトキは、印を結び、リョウカの額に指をそっと付けると、リョウカの意識が深い眠りへと落ちた。
モトキは、術書の通りに、上半身を確認する。襦袢をはだけさせると、リョウカの鎖骨の間より僅か下に、見慣れた赤茶の痣があった。それは、花の様に美しい紋様を描いていた。
これが、リョウカの力を使った証か。リョウカの様に、美しい痣。
モトキは、頭を振って、胸部に改めて視線を向ける。乳房は、ほんの少し、膨らみを持っている様だった。襟元を閉めて、形を整える。
次に、リョウカの足元へと移動する。下肢に手を触れ、目を閉じて、心の中でリョウカに謝った。
モトキは覚悟を決めて、リョウカの両脚を立てて広げさせ、襦袢を上へとたくしあげる。あっけなく、リョウカの秘部が露わになった。
モトキは思わず息を飲む。男性根と呼ぶには、あまりに小さな竿が、そこにあった。まるで、赤子の頃から変わらぬ大きさのようである。そして、その下にある筈の睾丸は無く、代わりに女にしか無い筈の孔が、確かに存在していた。
そっと、両脚を戻して、裾を整える。
あの男根に、恐らく子を創る機能はない。あとは、腹の中に、子を宿す機能があるかどうかだ。
モトキは、深呼吸をして、新たに印を結ぶ。赤い光を纏った手のひらをリョウカの腹の上にかざすと、下腹部が逆三角形のような形に光り、子宮や卵巣の存在を確かに表した。
モトキは、力無く、その場にへたり込んだ。
リョウカは、『をなご』だった…。
誰かと婚姻を結び、子を成す…。
モトキは、身体に力を入れ直して、なんとか荷を片付ける。最後にそっと、リョウカの髪を梳くように手を触れ、静かに、部屋を出て行った。