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みみ/不定期
10
七瀬🍏
4,724
#カンヒュ
蓮
68
episode02.少しだけ違う。
翌朝。
澪は、鏡を見ることができなかった。
洗面所の前まで来て、足が止まる。
「……別に、何もないでしょ」
昨日のことなんて、きっと見間違いだ。
疲れていた。
寝ぼけていた。
光の加減だった。
そうに決まっている。
そう思いながら、恐る恐る顔を上げる。
鏡の中には、いつもの自分がいた。
眠そうな顔。
少し乱れた髪。
見慣れた制服。
何も変じゃない。
「……ほら」
澪は小さく息を吐いた。
昨日のことなんて、忘れてしまえばいい。
そう思って、髪を整える。
右側の髪を耳にかける。
鏡の中の自分も、同じように髪を耳にかけた。
左側の髪を整える。
同じ。
笑ってみる。
同じ。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせるように呟く。
そして、鏡から離れた。
その直後。
鏡の中の澪が、
ゆっくりと首を傾げた。
澪は、気づかなかった。
学校へ向かう道。
昨日のことを考えないようにしていたのに、
どうしても頭から離れない。
信号を待ちながら、スマホを見る。
何気なくカメラを起動した。
黒い画面に、自分の顔が映る。
「……っ」
反射的に画面を消した。
「澪?」
「え?」
振り返る。
奏斗がいた。
「朝から何してんの」
「……別に」
「なんか変じゃない?」
「変じゃないよ」
少し強く返してしまった。
奏斗は何も言わず、澪を見る。
「……そっか」
それだけ言って、前を向いた。
少しして。
「昨日も言ったけどさ」
「何?」
「なんかあったら言えよ」
「……」
「別に、俺じゃなくてもいいけど」
そう言って奏斗は笑った。
その言葉が、妙に胸に残った。
放課後。
教室には、まだ何人か生徒が残っていた。
澪は机の上を片付けながら、ふと窓を見る。
ガラスに、自分の姿が映っている。
普通だ。
今日は大丈夫。
そう思った。
けれど。
窓ガラスの中の自分が、
こちらを見ていた。
澪は動いていない。
鏡の中も動いていない。
ただ、じっと見ている。
「……」
澪が右手を上げる。
鏡の中も右手を上げる。
手を下ろす。
同じ。
何度か繰り返す。
大丈夫。
昨日と同じ。
何もおかしくない。
そう思った瞬間。
鏡の中の澪が、
指を一本だけ立てた。
「……え?」
澪は手を動かしていない。
なのに。
窓の中では、
人差し指だけがゆっくり持ち上がっている。
澪は息を止めた。
そして鏡の中の澪は、
立てた人差し指を自分の唇に当てた。
「しーっ」
「……!」
澪が慌てて振り返る。
誰もいない。
もう一度窓を見る。
いつもの自分。
何も変わっていない。
「……嘘」
手が震える。
「澪?」
突然、後ろから声がした。
「……っ!」
振り返る。
奏斗だった。
「何してんの?」
「……奏斗」
「帰らないの?」
「……ねえ」
「ん?」
言うべきか迷った。
鏡がおかしい。
自分とは違う動きをした。
そんなことを言ったって、信じてもらえるはずがない。
「……鏡ってさ」
「鏡?」
「……ううん。なんでもない」
結局、言えなかった。
奏斗は少し黙ってから、
「そっか」
とだけ答えた。
その帰り道。
二人で並んで歩く。
会話はほとんどなかった。
夕方の街は静かで、建物の窓にオレンジ色の光が反射している。
そのたびに澪は、視線を逸らした。
「澪」
「……なに?」
「鏡、怖い?」
足が止まった。
「……え?」
奏斗は前を向いたままだった。
「いや」
少しだけ間を置いて、
「なんとなく」
そう言った。
澪は何も答えられなかった。
その夜。
澪は自分の部屋にある鏡に、白い布をかけた。
「これでいい」
鏡なんて見なければいい。
そうすれば、何も起きない。
ベッドに入る。
電気を消す。
しばらくして。
カタン。
小さな音がした。
「……?」
目を開ける。
部屋は暗い。
また、
カタン。
澪はゆっくり起き上がった。
音がした方向を見る。
鏡。
かけたはずの白い布が、
床に落ちていた。
「……なんで」
怖くて、近づけない。
でも、鏡が見えてしまう。
月明かりに照らされた鏡。
そこには、
ベッドの上に座っている澪が映っていた。
……いや。
映っているのは、澪だけじゃなかった。
鏡の中。
澪の背後に、
誰かが立っている。
「……っ」
澪は慌てて振り返った。
誰もいない。
もう一度、鏡を見る。
そこには、
いつもの部屋。
いつもの自分。
そして、
いつもの自分が、笑っていた。
澪は笑っていないのに。
鏡の中の”澪”は、
昨日よりもずっと自然に、
笑っていた。
コメント
1件
うわぁ第2話、めっちゃ怖かった…!!😭💦 鏡の中の澪が“しーっ”ってするシーン、背筋ゾワッとしたよ…。 自分で指一本だけ立てるのと違う動き、それに布が落ちてて背後に誰か… もう寝る前の鏡がまともに見られなくなるやつじゃん…!! 奏斗くんの「鏡、怖い?」って一言、なんで気づいたんだろう…彼も何か知ってるのかな? 続きが気になりすぎる〜!!次話も絶対読むね!!🔥