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コメント
4件
コメント失礼します🙇♀ 甘さの中に仄暗い苦味もある🇨🇦🇯🇵をありがとうございます♡✨
続き待ってます!
不穏集用に書いたんですが、不穏と呼ぶには平和すぎたのでこちらに詰めます。
うんたら中毒がよく似合いますね、🇨🇦くん。不穏集には別の中毒を用意します。加日増えろ。
やわらかな頬いっぱいに、ざくりとしたクッキーを詰めて、幸せそうに日本は身を捩った。
「好きなの?甘いもの。」
「ほうれふね………。大好き、です。」
その言葉を、ずっとずっと、覚えている。
***
「日本、これどうぞ。」
デスクの端に、クッキー缶を置いた。
「えっ、いいんですか?」
遠慮したような言葉とは裏腹に、つぶらな瞳が忙しなく煌めいている。
「疲れたね、日本。」
会議中、そう囁いてポッケに飴をねじ込んだ。
「寝ちゃダメですからね、カナダさん。」
ポケットの膨らみに指を這わせた彼は、資料の端に「Thank you」と書いてくれた。
小さな両手に、湯気立つマグを握らせた。
「お疲れ様、日本。」
ふたりっきりのオフィス。
「すみません、昨日も今日も……作ってもらっていてばかりで……。」
「うぅん、全然。……熱いから、気をつけてね。」
「はい。」
ふぅふぅ息を吹きかけるルビーチョコの唇。
とぷりと揺れる、昨日より少し。
ほんの一滴だけ、多く蜜を垂らしたホットミルク。
「おいしいです。」
ひとくち口に含んだだけで、目をとろんとさせた日本。
フライパンの上でくたりと溶けるカラメルみたいで、心臓が強く収縮する。
その一言に、これ以上ないほどの痺れを脳が感じている。
「よかった。」
「ありがとうございます。」
最近、なんだか甘いものがないと落ち着かなくて、と小さく微笑んで日本が言った。
「お昼の後にも食べちゃうんです。流石に控えた方がいいですよね。」
「う〜ん………でも、我慢って体に悪いんじゃなかったっけ?」
「あっ、そっか………。」
眉をハの字に下げて、それでもまた、日本はとろみを帯びたミルクを飲み干す。
「ねぇ、日本。」
「はい?」
「昨日とちょっと甘さ変えてみたんだけど……どっちの方が好き?」
両目のチョコビーンズが悩ましげに揺れる。
「……今日のやつ、の方が好きです。」
そっか、とどうにか微笑んだ。
空になったマグをもらって給湯室でひとり、笑いを噛み締める。
最初は、小さな小さな角砂糖ひとつだった。
次は、シロップ。
その次は、くつくつ煮詰めた琥珀のメープル。
全部、君の選んだ甘さだ。
全部、僕の与えた甘さだ。
全部全部、僕の優しさ。
その舌の根は、どれほど甘くなったんだろう。
きっと日本は、僕が消えてしまっても平気だ。
でも、いつか必ず手が震える。
落ち着かない目線。
空回りする集中力。
夜中、無意識にキッチンに踏み込んでしまう足。
そして思い出すんだ。
僕が笑って差し出した、甘い甘い、砂糖菓子たちを。
『中毒』。
君の言葉では、そんな風に言うらしい。
知った瞬間、よくそんな組み合わせを見つけたものだと思った。
快感の駆け巡る脳だって。
甘さに震える舌の根だって。
触れたくて震える指先だって。
ずっと前からわかっていたのに。
僕は毒の中にいる、って。
やめられない、止まらない。
やめたくない、止められない。
君も僕もそうなっちゃったのは、一体誰のせいなんだろう。
ねぇ、日本。
次はどんな、甘さがいい?
(終)