テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
そして――翌朝。
「…………最悪」
頭が痛い。恐る恐る横を見ると、昨日の男が静かな寝息を立てている。
(やらかしたあああああ!!)
私は両手で頭を抱えた。
(……いや、待って。大成功じゃない!?)
昨日、あれだけ好き勝手したのだ。
(これで向こうから婚約破棄を切り出してくるはず!)
処刑フラグ、一個消滅!
「……よし、逃げよ」
大急ぎで身支度を整え、そーっと扉を閉める。そのまま早朝の王城から、全速力でバックレた。
***
その頃、ウィステリア伯爵邸では――。
「……それで、バイオレッタは?」
ベラドンナは、ミレーヌを冷たい目で見下ろしていた。
「そ、それが……ベルシュタイン公爵閣下と、客室棟へ向かわれたとか……」
「……アレクと?」
「はい。お嬢様は、突然わたくしの言うことを聞いてくださらなくなって……!」
ベラドンナの指先が、ぴたりと止まった。
「あの子が……?」
しばしの沈黙の後、目を細めた。
「……これは、少し考えないといけないわねえ」
***
数日後。
「なんで、あなたがここにいるのよ!!」
私の絶叫が、王立魔法学院の中庭に響き渡った。
ここは貴族の子弟が原則十八歳から一年間、魔法や政治、領地経営を学ぶ王国最高峰の学院。人脈作りや、縁談の場でもある。そして目の前にいるのは――制服姿のアレク。
(ほとぼりが冷めるまで逃げるつもりだったのに!)
というか。
(王国最強の戦争英雄が私と同級生って、設定盛りすぎでしょ!!)
しかも険しい顔で、まっすぐこちらへ歩いてくる。
「…………」
この不機嫌そうな顔。これはもしや――。
(婚約破棄イベント!?)
『お前のような女に、公爵夫人の資格はない。今すぐ婚約を解消する!』
そんな素敵な台詞が飛び出してくるのでは!?私は前世で営業成績上位だった頃を思い出し、口角を引き上げた。
「ごきげんよう。この間のことでしたら――」
「なぜ、何も言わずにいなくなった?」
「……はい?」
予想の斜め上を行くクレームが飛んできた。
「いや、それは……その……」
(気まずかったからに決まってるでしょ!!)
アレクは沈黙の後、意を決したように真っ直ぐ私の目を見据えた。
「……予定より早いが、できるだけ早く結婚してほしい」
「……はあぁぁぁぁぁっ!?」
ひより
5,242
#主人公最強
伊織
41
#ロマンスファンタジー
百はな🍑
5,547
#ギャップ
ひより
3,528
結婚?今、結婚って言った?
「ちょっと待って! 私は公爵夫人に相応しくないのよ!? だから婚約破棄を――」
「するつもりはない」
「なんでよ!?」
「お前は、俺を受け入れてくれた」
「……えっ?」
「これ以上、待つ理由など何一つない」
「いやいやいやいや!」
違う。そうじゃない。
(あれは婚約破棄してもらうための作戦だったのよ!!)
どうやら、この堅物すぎる男の脳内では――。
大胆に迫られた。
↓
傷跡ごと自分を受け入れてくれた
↓
なら結婚しよう。
(まさか……フローラへ向かうはずだった執着フラグをへし折ったせいで――)
(その激重感情が私に向いちゃったとか!?)
冗談じゃない。私はただ、婚約破棄して処刑を回避し、推しを愛でながら平穏に生きたいだけなのに!
「……嫌なのか?」
「うっ」
さっきまでの威圧感が嘘のように、しょんぼりと肩を落とす。
(ちょっと可哀想……)
良心が、ちくりと痛む。でも。
(将来私を処刑する張本人が夫になるなんて、死神と添い遂げるようなものじゃない。そんなの絶対にお断りよ!!)
逃げるしかない。周囲を見回すと、登校してきた生徒たちが遠巻きにこちらを見始めていた。
「あっ!」
「?」
「あちらに国王陛下が!」
「何?」
アレクが振り返る。
(――今だわ!!)
スカートの裾を掴み、校舎へ向かって全速力で駆け出した。
「おい! 待て、バイオレッタ!」
(待つわけないでしょ!!)
王立魔法学院の回廊を駆け抜ける。どこか隠れるところは――。
その時だった。
「そんなに慌てて」
甘い声が降ってきた。
「可愛い子猫ちゃんは、一体何から逃げているのかな?」
「…………!」
そこに立っていたのは――第二王子レオン。眩いプラチナブロンドに、澄んだターコイズブルーの瞳。余裕たっぷりの笑みを浮かべている。
(レオン!!)
フローラのメインルートの相手。つまり――最推しを幸せにするはずの王子!
「レオン殿下! お願いです。少しだけ、かくまっていただけませんか!?」
「僕に?」
「はい!」
レオンは意外そうに目を瞬いた。かつてのバイオレッタなら、彼と話せただけで舞い上がっていただろう。だけど今の私は――。
(あなたは緊急避難シェルター!)
(私の最優先事項は、処刑回避&推しのハピエンなんだから!)
「へえ……」
なぜか楽しそうに目を細めた。
「そんなに必死になって。痴話げんか?」
「ち、違います! いろいろ事情がありまして!」
「ふうん」
レオンは面白そうに私を眺める。
「じゃあ、特別に助け舟を出してあげようか?」
「本当ですか!?」
「うん」
ひらりとマントを翻すと、私の肩を抱き寄せた。
「ちょ、近いです!」
「隠れるんだから仕方ないでしょ?」
その直後。廊下の角から、アレクが姿を現した。
「……レオン」
「やあ、アレク。血相を変えてどうしたんだい?」
「バイオレッタから離れろ」
鋭い声は、もはや宣戦布告だった。けれど、レオンは涼しい顔で受け流す。
「淑女をそんな怖い顔で追い回すものじゃないよ」
そして、ちらりと私を見る。
「彼女は今、僕に助けを求めているみたいだから。ねえ?」
「そ、そうですわ! 主に逃げ場を……!」
「バイオレッタ」
アレクの眉間に皺が寄る。
「来い。話はまだ終わっていない」
「私のことはもう忘れてって言ってるでしょ!」
「…………」
回廊の空気が、凍りついた。
「わあ。怖い怖い」
レオンはわざとらしく肩をすくめてみせるが、その口元は笑っている。
「君たち、ずいぶんお熱い仲みたいだね~」
(ちょっと王子!)
(面白がってないで、早くこの場を収めなさいよ!)
私は抗議するように、レオンの腕をぽかぽか叩いた。
「ははっ」
レオンは楽しそうに笑う。それから、ふと思いついたように私の耳元へ顔を寄せた。
「じゃあさ――僕の『恋人』になるのはどう?」
「……はい?」
「恋人ってことにしておけば、さすがに強引には連れていけないでしょ」
「いやいやいや! あなたにはフロー――」
言い終わるより早く。
ちゅっ。
柔らかな温もりが、私の左頬にそっと押し当てられた。
「……っっっ!?」
え? いま、何が起きたの?
「……もっと喜ぶと思ったんだけど。ごめん、嫌だった?」
「当たり前でしょ! っていうか、あなたの相手はフローラでしょうが!」
「フローラ? ……ああ、特待生ちゃん?なんで彼女が僕の相手なの?」
レオンは心底不思議そうに首を傾げた。
「……は?」
(いや、こっちが聞きたいんですけど!?)
(……まさか、二人の恋愛フラグがまだ立ってないの!?)
「……貴様……っ!!」
アレクが腰の長剣の柄に手をかけた。二人の視線が、火花を散らすように衝突する。
(待って待って待って!)
原作では、フローラを巡って争うはずの二人がなぜか今――。私を挟んで睨み合っている。
(どうしてこうなったのよ!?)
その時だった。
「――きゃあああっ!?」
頭上から、悲鳴が響いた。