ことはちゃん視点
「…ぇ、?」
遥から小さく声が零れる。目は大きく見開かれ驚いているのがよくわかった。
「…あのね、遥。きっと、貴方はまだ自分がどうしてこんなところにいるのかもわかってないと思うの。でも…酷いことを言うようだけど、もう二度と、遥の親とは会えないの…」
「…!ことはさん…」
ことはが悲痛に歪んだような顔をして遥に語りかける。その言葉は悲しいけど、現実を受け入れさせるような言葉であって、でも、どこか優しい。その言葉を聞いた遥はきっと、もう自分が親に会えないということは理解していたのだろう。目線を下に下げ暗い顔をし、口をキュッと結んでいる。そんな2人の様子を楡井が苦しそうな顔をして見ていた。
「遥、貴方このままだとね、孤児院ってところに行くことになるの。別にそこが悪いところと言っている訳ではないんだけどね。でも、遥に孤児院に行く以外でもう1つ、選択肢を増やしてあげたいなと思ったの。
…ここは…この”家”に住む人たちは全員親がいないの。それに加えて血の繋がり…兄弟とか、いとことか、そういった親戚って訳でもない。でもみんな家族なの。家族で、友達で、兄弟。 」
多分ことはの言っていることがいまいちよく分からなかったのだろう遥は小さく首を傾げている。
「…わからないわよね。つまり、ここにいる人たちは全員家族ってことなの。…私はね、私”達”はね。遥。貴方さえ良ければ一緒に暮らしたいと思うの。だから、家族になってくれない ?」
ことはが遥の小さな手を握る。触ってみてわかったが、手も切り傷や痣だらけだ。しかも、人に触られることに慣れていないのか触れた瞬間遥の体が震えたことがわかった。でも、視線は外さず、かつ、優しく、お風呂から上がり、すっかり冷めてしまった手を温め直すように握りしめた。
「…ぁ、あぁ、ぁぅ” 」
…きっとまだ上手に喋ることが出来ないのだろう。口を震わせ、体を震わせ始めた。でも遥は、ことはの手をしっかりと握り返した。その手が家族になることを了承した証で、少しでも心を開こうとしてくれている証明だと、ことはと楡井には小さいけれど、ハッキリと伝わったのだ。
「…ありがとう、遥。…これからよろしくね…」
4月1日の、大雨から晴れた、最高な天気の日の出来事だった。
続く
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