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僕の部屋はスピカ寮というところの208号室だと、教えられた。
どこかの先生の計らいだろうか、千夏も同じ部屋らしい。
「いやーしかし、ほんと日本とは大違いだよ」
そう、僕たちはもともと日本に住んでいて、親の仕事の事情でこのトンディアに引っ越してきたのだ。
「お兄、着いたっぽいよー」
千夏の言う通り、ちょうど208号室に着いたところだった。
冷たい金属製のドアノブを回す。
量は四人部屋が基本で、僕たちの部屋もそうだ。
「⋯⋯は?」
そこにいたのは、僕もよく知る「マーサ=スコット」と、「根田 蒼真」だった。
──ちふゆくんもあっちであそばないの?
幼い日の記憶。
──めんどーくさーい
──じゃあ、あたしとあそぼ
そのときは、たしかその感情がなんなのか分かっていなかったのだと思う。
──じゃあね
あの日、日本語でマーサは「さよなら」ではなく「じゃあね」と言った。
そのときマーサがさよならと言わなかったのは、わざとだったのだろうか。
あの日から今まで、会うことはなかった。
──さようなら、とは、実は『左様ならばまた会いましょう』の略なんですよ
退屈な授業の中で、その言葉だけが鮮明に聞こえた。
多分、あの頃僕はマーサに恋をしていた。
「あれ、ちふゆんじゃん、え、ちなっちゃんも?」
あのころより少し低くなっただろうか。しかし変わらない流暢な日本語が聞こえてきた。
たしかマーサはトンディア出身だったはずだ。
まあ分かる。王立セルヴィア学園は能力者学校のなかでも最高峰。しかも地元となれば能力が発現して戻るのもわかる。しかし。
「マーサはともかく、なぜ蒼真がいるんだ」
部屋を決めた先生がこの関係を知っていたならば、とんだ悪趣味だ、と思った。
なぜなら蒼真は、幼稚園か小学生の頃、千夏のいじりに加担していた一人だったのだから。
「げ」
ようやく発した一言目がそれかよ、とも思ったが、その一言目には千夏の声も重なっていた。