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ふと意識が浮かび上がり、みことはまどろみの中で目を開けた。
「……ん……?」
少し重たいまぶたをこすりながら、昨夜の記憶がじわじわと蘇ってくる。
甘えるようにくっついたこと、抱っこをせがんだこと――そして、キスをたくさんおねだりして、ほかにも……。
「~~~~っ!!」
みことは跳ねるように起き上がると、自分の顔を両手で覆った。耳まで真っ赤になっている。
「なんであんなこと……!!しかも、みんなの前で……うぅ……!」
隣でまだ眠っているすちの寝顔をちらりと見る。
あまりにも穏やかで安心しきった顔に、また胸がキュッと締めつけられる。
「……でも、すち……ちゃんと受け止めてくれて、ありがと……」
小さく呟いたその声は、すちには聞こえていない――はずだった。
「……今さら恥ずかしがってるの、かわいいね?」
「っ!? 起きてたのっ!?!?」
すちは片目を開け、くすっと笑う。その顔に、みことは真っ赤なまま、枕に顔を埋めた。
枕に顔を埋めたまま、みことはもぞもぞと小さく体を揺らす。
「……見ないで……」と、くぐもった声が布越しに漏れた。
すちはその様子に目尻を下げながら、みことの背中にそっと手を置いた。
「ねぇ、顔見せて。ほら、かわいく赤くなってるところ、ちゃんと見たいんだけど」
「……からかってる……」
「ううん、本気で愛でてるだけ」
そう言ってすちは、みことの背中越しに優しくキスを落とした。
布団の上から何度も、何度も、ゆっくりと。
「……もう、そういうの……ずるい」
「じゃあ、もっとずるくするね」
すちはみことの身体をそっと仰向けに転がすと、ふわりと覆いかぶさるように顔を寄せた。
そしておでこにひとつ、鼻先にひとつ、まぶたにひとつと、キスを丁寧に落としていく。
「……すち」
「ん?」
「……好き、すごく……すき」
ぽつりと落ちた言葉に、すちは一瞬だけ目を丸くし、それからたまらないようにみことを抱きしめた。
「……俺も。なにもかも、ぜんぶ好きだよ」
「ん、ぎゅー……」
「もっとしてあげる。起きてからずっと抱きしめたかった」
「……じゃあ、今日1日、すちの腕の中で過ごしたい……」
「叶えるよ。みこちゃんがそう言うなら、なんだって」
みことは、ぎゅっと抱きしめられたまま目を細め、すちの胸の中でとろけるように微笑んだ。
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浴室には、ふわりとやわらかい香りの湯気が立ち込めていた。
みことはすちの腕の中で、まだ少しぼんやりとした表情のまま、胸元に頬を預けている。
「湯加減、どう?熱すぎたりしない?」
すちの低くて優しい声が、耳元に響く。
みことは小さく首を横に振るだけで、言葉にはしなかった。すちの体温と湯の温もりに包まれて、何もかもが心地よすぎた。
「……すち、だっこ、気持ちいい……」
その一言に、すちは苦笑しながらも、より優しく腕を回す。
「じゃあ、しばらくこのままね。無理はさせないから、今日は俺に全部任せて。」
背中をなでるように指を這わせ、時おり髪を撫でたり、のぼせないように額に冷たいタオルを当ててあげたりと、すちの気遣いは細やかだった。
「……恥ずかしい、のに……やさしすぎる……」
「恥ずかしくないよ。大事な人を甘やかすのは、当たり前だよ?」
湯けむりの中、みことはすちの胸にしがみつき、小さな吐息を漏らした。
その肩をそっと抱き寄せ、すちは耳元でささやく。
「俺だけが、こうして触れていい。どこにも行かせないから。」
その声音に、みことの胸は甘く締めつけられた。心の奥までじんわりと満たされるような静かな幸福に、目を閉じてそっとすちの肩に顔をうずめる。
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みことはすちに優しく支えられながら、肩まで湯に浸かっていた。ぴったりと後ろから抱かれる体勢のまま、湯の中でそっと手を重ねられている。
「…ねえ、鏡。」
すちの胸に背中を預けながら、みことがぼんやりと前方を指さした。曇った鏡に映るふたりの姿が、湯気の隙間からぼんやりと浮かんでいる。
「…わ、すご…」
小さく息を呑んだみことは、鏡の中に見える自分の首筋や体に残った淡い痕に気づく。昨夜の熱が、そこかしこに名残として刻まれていた。
「ごめん、ちょっと…つけすぎたかも」
すちが申し訳なさそうに苦笑する。みことは俯きながら、赤くなった耳をぴくりと震わせた。
「…怒ってない…けど。なんか、恥ずかしい…」
鏡に映る自分の姿を見ているうちに、みことはふと視線をすちの背中に移す。振り返ると、湯に濡れたすちの肩甲骨のあたりに、自分の指でつけた細い爪痕がいくつも残っていた。
「…俺も…けっこうやっちゃってたんだね」
みことは申し訳なさそうに呟きながら、そっとすちの背中に手を伸ばし、やわらかく撫でた。その仕草はおそるおそるで、それでいて愛しさに満ちていた。
「いいんだよ、痛くない。むしろ…残ってるのが、ちょっと嬉しい」
「えっ…ばか…」
ふわりと笑って、みことはすちの胸に頬を埋める。お湯の温度よりも、すちの腕の中の温かさの方がずっと心地よかった。
しばらくふたりは、お湯の中でそっと寄り添ったまま、静かに目を閉じた。
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湯上がりの体をバスタオルにくるみ、すちがそっとみことを抱き上げる。まだ少しふわふわしているみことは、ぼんやりしたままその腕に身を預けていた。
「…すちの腕、あったかい」
「湯冷めしないようにって、ちゃんと温めといたからね」
「んー…ずるい。すちに抱っこされてると、なんにもしたくなくなる…」
「してなくていいよ。今日はもう、みことは甘えんぼモードなんでしょ?」
「うん、ちょっとじゃなくて…すごく甘えたい日…」
みことはすちの首元にきゅっと腕をまわし、小さな声で囁いた。
「すちがいないと、さみしい…」
その言葉にすちは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに穏やかに微笑み、みことの髪を優しく撫でる。
「じゃあ、ずっとそばにいる。ちゃんと抱きしめてるし、離れないから」
「…ほんと?」
「ほんと。みことのこと、大事で仕方ないもん」
「…ふふっ、ちょっとだけ…照れた?」
「だいぶ照れた。でも言いたかったから言った」
みことは笑って、すちの頬にそっとキスを落とす。
「すち、だいすき」
「俺も、みことが世界で一番すき」
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