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昼休み。
警察署から少し離れた喫茶店は,平日でもそこそこ人がいる。
私は窓際の席で,コーヒーを混ぜていた。
向かいに座る友達は,もう最初から顔が楽しそうだ。
涼川 奈津 (27)警察官。
私の数少ない昔からの友達である。
「ねえ,恵」
「何」
「今日呼び出された理由,分かってる?」
「分からないし,分かりたくもない」
涼川はにっこり笑った。
「じゃあ言うね」
身を乗り出して,声を落とす。
「中野くん」
「……何」
「最近,距離近すぎじゃない?」
即答。
「気のせい」
「出た,恵のそれ」
「どれよ」
「都合悪い時の即否定」
涼川はストローをくるくる回しながら続ける。
「職場で見たよ」
「何を」
「中野くんが,あんたのデスクに寄りかかってるとこ」
「それが?」
「普通あそこまで行かないって」
私はため息をついた。
「中野は距離感がおかしいの」
「うん」
涼川は,即頷いた。
「それは知ってる」
「……なら話終わり」
「終わらない」
即否定。
「距離感おかしいのに,恵が本気で拒否しないのが問題」
「拒否してるわ」
「口ではね」
涼川は,指を一本立てる。
「でもさ」
「中野くんに近づかれた時,一回も席立ってないでしょ」
「……仕事中だから」
「じゃあ他の人なら?」
「即,席立つ」
「ほら」
涼川は満足そうに笑った。
「それ,特別って言うんだよ」
「違う」
「違わない」
コーヒーを一口飲んで,少し真面目な顔になる。
「恵さ」
「何」
「自覚ないのが一番危ないタイプ」
「何が」
「攻められてるってこと」
「……ない」
「あるよ」
即答。
「中野くんね」
「うん」
「からかってるフリして,ちゃんと相手見てる」
胸の奥が,少しだけざわつく。
「恵が嫌なら,とっくに引いてる」
「……」
「でも引かない」
奈津は,楽しそうに結論づける。
「つまり」
「中野くんは,恵にだけ甘い」
「甘くない」
「甘い」
即断。
「恵さ」
「何……。」
「自分は冷静だと思ってるでしょ」
「事実よ」
「うん」
涼川は笑う。
「だからこそ,落ちた時一気だよ」
「落ちない」
「その台詞,一番危ない」
私は椅子から立ち上がった。
「仕事戻る」
「はいはい」
涼川は手を振りながら,最後に一言。
「でも覚えといて」
「なに」
「中野くん」
一拍置いて。
「本気出したら,一番困るの恵だから」
店を出た後も,
その言葉が,やけに頭に残った。
そんなはず,ない。
……ないはず。
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