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あまね🍡💠
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今から十五年前――。
能力の薬が発表され、世界中が歓喜に包まれていた。
「人類は新たな時代へ。」
「能力社会の幕開けです!」
テレビは連日、その話題一色だった。
街では能力の薬を求める人々が長蛇の列を作り、多くの人が未来への期待に胸を膨らませていた。
しかし――。
その熱狂を複雑な表情で見つめる青年がいた。
蓬莱良樹。
後に”ヴォイアント”と呼ばれる男である。
「本当に……これでいいのかな。」
小さく呟いたその言葉に、一人の女性が振り返る。
「蓬莱さん。」
「また難しい顔をしてますね。」
若き日の神崎詩織。
後の朝霧詩織だった。
蓬莱は苦笑する。
「みんな能力の話ばかりしている。」
「でも、人の心は何も変わっていない。」
「能力だけが先に進歩してしまったら……。」
「きっと、いつか大きな歪みが生まれる。」
詩織は静かに頷く。
「私も同じ考えです。」
-–
数日後。
小さな公民館。
十数人の男女が集まっていた。
蓬莱は全員を見渡す。
「今日は集まっていただき、ありがとうございます。」
「私たちは能力そのものを否定したいわけではありません。」
「ですが。」
「能力に頼りすぎる社会には反対です。」
全員が真剣に耳を傾ける。
「能力がある人も。」
「能力がない人も。」
「同じ人間です。」
「その当たり前を守るために。」
「私たちは活動を始めます。」
拍手が起こる。
詩織も笑顔で拍手を送った。
蓬萊は静かに言う。
「組織の名前は――。」
「ZERO。」
「すべては、ゼロから。」
「人と人との信頼を築き直すために。」
こうして、ZEROは誕生した。
-–
数週間後。
駅前広場。
ZEROの活動が始まる。
「能力社会について、一緒に考えてみませんか。」
詩織は署名用紙を持ちながら、多くの人へ声を掛けていた。
仲間たちはビラを配る。
子どもたちも興味津々に集まってくる。
一人の男の子が蓬莱へ話し掛けた。
「お兄ちゃん!」
「能力ないの?」
蓬莱は笑顔でしゃがみ込む。
「まだないよ。」
男の子は不思議そうな顔をする。
「じゃあ、何で反対してるの?」
蓬莱は優しく微笑んだ。
「能力が悪いんじゃない。」
「能力だけで人の価値が決まる世界になるのが怖いんだ。」
男の子は首を傾げる。
「難しい……。」
蓬莱は笑った。
「大人でも難しいよ。」
「だから、みんなで考えていくんだ。」
詩織はそのやり取りを見て、思わず笑みを浮かべた。
「蓬莱さんらしいですね。」
-–
活動終了後。
駅前の片付けをしていると、一人の男性が近付いてきた。
「お疲れさまでした。」
スーツ姿の青年。
朝霧義一だった。
詩織は少し驚く。
「ありがとうございます。」
義一は名刺を差し出した。
「イコル・ヤーレン研究所で警備責任者をしています。」
「朝霧義一です。」
詩織も軽く頭を下げる。
「初めまして。」
「神崎詩織です。」
蓬莱が笑顔で近付く。
「研究所の方が来てくださるなんて珍しいですね。」
義一は苦笑した。
「今日は警備協力の依頼がありまして。」
「何事もなく終わって安心しました。」
蓬莱は笑顔で手を差し出す。
「こちらこそ、ありがとうございました。」
義一もその手を握る。
「いえ。」
「皆さんの活動には感心しました。」
それが、二人の最初の出会いだった。
-–
その頃。
イコル・ヤーレン研究所。
博士は窓から街を見下ろしていた。
助手が尋ねる。
「博士。」
「能力に反対する団体が活動を始めたようです。」
博士は静かに頷く。
「知っています。」
助手は少し不安そうに言う。
「止めた方がいいのでしょうか。」
博士は首を横へ振った。
「いいえ。」
「考え方が違うからといって否定してはいけません。」
「彼らには彼らの正義があります。」
「私には私の信念があります。」
博士は静かに空を見上げる。
「いつか。」
「答えは歴史が教えてくれるでしょう。」
-–
その夜。
ZEROの定例会。
蓬莱は仲間たちの前へ立つ。
詩織も義一も、その姿を静かに見つめていた。
蓬莱はゆっくりと口を開く。
「私は信じています。」
「暴力では、何も変えられません。」
「人を傷付けて手に入れた未来は。」
「決して幸せな未来ではありません。」
仲間たちは静かに頷く。
蓬莱は穏やかな笑顔で続けた。
「だから私たちは。」
「最後まで話し続けます。」
「最後まで信じ続けます。」
「人の心は。」
「言葉でしか変えられないのですから。」
-–
現在――。
アルバムを見つめる詩織の瞳には涙が浮かんでいた。
「昔の蓬莱さんなら……。」
「絶対に誘拐なんてしなかった。」
「暴力を、一番嫌っていた人だったのに……。」
「蓬莱さんに、一体何があったの……。」
湊は静かにアルバムへ視線を落とした。
ヴォイアント。
今、世界を震撼させている男。
その人物が、かつては誰よりも平和を願っていた。
その事実が、湊の胸へ深く刻まれていく。
第56話へ続く
コメント
1件
うわあああ😭💦 蓬莱さん、まさかこんなに純粋な理想を掲げてた人だったなんて…!ZERO結成のシーン、すごく胸にくるよ。特に子供に「能力がないの?」って聞かれて「まだないよ」って優しく返すところ、蓬莱さんの優しさが滲み出てて泣ける…。今のヴォイアントとのギャップが激しすぎて、何があったのか気になって仕方ないよ!!詩織と義一の出会いもここだったんだね…!続きが気になりすぎる〜😭💕