コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「南くん」
「はい、七さん」
「マーカーしてあるところが去年の傾向なんだけど、それさえつかめば高い位置をキープ出来ると思うんだ」
「……なるほど」
七石先輩の教え方はさすがとしか言いようがないな。
それに比べて、
「勘だよ、勘! 感じれば全てうまくいくんだよ!」
「俺はお前……新葉さんと違って、呼吸するだけでひらめく体質じゃないんで無理です」
「私も無理だから落ち込まなくていいよ、南くん」
今日の俺は幼馴染とその保護者に囲まれ、期末対策の勉強をしている。いる場所は新葉と七先輩がいる部屋だ。七先輩のイベント活動が終わった記念で新葉から連絡がきたので、その流れで対策までしてしまおうということで今に至る。
「一息つこうか、南くん」
「はい、ありがとうございます」
一つ上のお姉さん(といっても新葉は除外)が、こうして親身になって教えてくれるのは本当に助かっている。それというのも、今回の期末の結果が霞ノ宮の女子にも見られることになってしまったからなわけで。
今までは男子だけの世界だったのが、次からは女子にも成績が共有されるものだから気が抜けない。
それなのに新葉は相変わらずだ。
「ねえねえ翔輝。この前の手紙の彼女に会えた?」
「会えてない」
「えー? つまんなーい! モテモテくんの恋の行方が知りたいぞー!」
七先輩がいる前で聞かれたくない話だな。
「なになに? 南くん、好きな子が出来たの?」
「いないです」
「嘘つけー! ラブなレターをこの目で見たんだぞー!! この根性なしめ」
「勝手に人のものを読んだだけだろ。それにあれは手紙というかメモ書きだったからもう捨てたし」
院瀬見の推し女という線を考えたが、思い当たらなかった。そもそも院瀬見とばかり関わってて、推し女とまともに話してもいない以上恋なんぞに発展する要素も無いというのが俺の結論。
「南くん、院瀬見さんとはどう……?」
「何も無いですね」
「え、そう? でも最近二人だけで行動してるって聞いてるよ」
俺だけが女子棟に出入りしてるわけだし、他の女子にそう言われても不思議は無い。この前もひそひそ話をされていた。
「生徒会活動ですからね。ウワサされているような関係じゃないですよ」
「………分かったっーー! 手紙の主はつららちゃんだ」
「何でそうなるんだよ……っていうか、人の話を聞いてたか?」
「だって他に翔輝のことを南呼ばわりする女子なんてー……はっ!? もしかして七ちゃんが――?」
「…………本当に?」
新葉の問いに、七先輩が静かに怒っている。新葉はすぐに姿勢を正し、反省ポーズで七先輩に頭を下げだした。
全く、何をやってんだか。
「新葉の冗談は置いといて、院瀬見さん以外の女子に心当たりは無いの?」
「皆無です。女子棟に行き来してはいますが、話せる女子はほとんどいないですからね……」
七先輩にまともに答えられないせいか、俺は思わず下を向いて落ち込んでしまう。
そんな俺を見ながら、
「そっか。んー……悪いこと聞いちゃったね。あ、お詫びに自販機で何か奢ってあげるよ。何飲む?」
「え、いいんですか? でも俺も行きますよ」
「それくらいはね。一緒に買いに行こうか?」
「はい。喜んで!」
一人いじけている新葉を放置して、俺と七先輩で女子寮のロビーにある自販機に向かうことにした。タレント活動をしている女子向けの特別寮だけあって、ロビーには自販機の他にホテルにあるような配膳室《パントリー》も備わっている。
さすがに俺は利用出来ないものの、こういう光景は見ることが無いのでちょっと得した気分になったり。
「えっと炭酸で」
「うん。じゃあ、はい」
奢ってもらえるとはいえ、部屋でじっと待って持って来てもらうのはさすがに気が引ける。相手が新葉ならともかく、俺がリスペクトしている七石麻にそんな雑用を頼むわけにはいかないからだ。
「南くん、新葉がうるさいから戻ろうか?」
「ですね。あ、七先輩のも持ちますよ」
「ありがと。……ごめん、来ちゃったみたい」
新葉センサーでも働いてるのかと思ってしまうくらい、七先輩は鋭い。しかし今回は廊下の向こう側からアレの声が響いてきたので俺もすぐに分かった。
「こらーーーー!!! あたしを見捨てて二人でどこへ行こうとしてたー!!」
騒がしい奴だ。容姿端麗なのに本当に残念な幼馴染すぎる。
「南くん、ペットボトルを渡してもらえる?」
「……すみません。お願いします」
「しっかりと新葉の愛を受け止めてあげてね」
「そうします……しょうもない愛ですけど」
これも勝手知ったる仲の展開になるが、この後に起こるのは俺をめがけて新葉が思いきり抱きついてくることだ。それが起こるのは七先輩と一緒にいる時だけで、それ以外はほぼ起きない。
今日もいつものやり取りになる――そう思っていたのに。
「どーーん!!! うりゃうりゃっ、あたしの愛を思う存分に受け止めやがれー!」
「はいはい。俺の愛ならいくらでも受け止め――」
「――何を、しているのか聞いてもいいですか? 先輩後輩の仲ってことは知っていましたけど……違うとか……ですか?」
「えっ? 院瀬見……か!?」
本来、この寮にいるはずのない彼女の顔がすぐそこにあった。