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ノボリが消えたのは、急な事だった。
いつも通りバトルサブウェイは運行していて、
夜9時に時計の針が周り、
そろそろ駅員の皆も帰る頃だった。
『ノボリ、どこ行くの?』
人が少なくなってきた事務室で、
クダリがドアに手をかけるノボリに声をかけた。
「見回りをしてきます、
少し遅くなるかもしれません」
「もしわたくしが9時半になっても帰らなければ
先に帰っていてくださいまし」
ノボリがそう言うとクダリは無邪気に笑って答える。
『待ってる。ぼくまだ仕事ある』
「でも、もう遅いでしょう」
『ぼくが待ちたい。だから待つ。』
「…分かりました」
やれやれ、と言うかのように少しだけ頭を抱えてはぁ、と息をつくノボリ。
口角は下がっているが心なしか少し嬉しそうにしているノボリを見てクダリは嬉しくなって釣られて笑った。
ドアを開け部屋を出る前にクダリに向かって言った。
「では行ってきます」
『いってらっしゃい!』
クダリは向こうへ行くノボリに手を振りパソコンのキーボードをカタカタと打つ。
今日は帰ったら何をしようか。
少し遅い時間だけど、明日は休みだし
たまには少し夜更しでもしてしまおうか。
クダリはそんなことを想像しながら陽気に鼻歌を歌いながら仕事に手を付け始めた。
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時計の針は10時を回った。
『…ノボリ遅い。』
駅員はもう3人ほどしか残っていないし、
客もほぼ帰りホームは静まり返っている。
仕事も終わり、クダリは退屈そうに伸びをした。
「あいつ遅いなぁ」
『あ、カズマサ。まだ居たの?』
駅員のカズマサがクダリに声をかけた。
「まだ帰って来とらんのか?何してんやあいつ」
『知らない。とにかく遅い。』
クダリは軽く頬を膨らませたまま、
椅子から立ち上がり、自身のコートと
ノボリの分の荷物も持って事務室のドアを開ける。
『ぼく探してくる。みつけたらそのまま帰る。』
「はいよ、おつかれさん。」
クダリはいつも見回りをしている場所をすべて見回ってきた。
だがどこにもノボリの姿はなく、残されたのはホームのみ。
『電話…繋がらない』
ホームに顔を出したがやはり誰も居ない。
途中ですれ違った駅員たちは最後ここで見たと言っていたのだが、周りにいたような痕跡は何も残っていなかった。
『ノボリ…先帰った?』
クダリはそう思う事にして家に帰った。
──────────────
パチン、と音を立ててスイッチがつき、
部屋の電気がつき明るくなる。
クダリは周りを見渡す。
玄関に靴は無かった。
寝室にもリビングにもいない。
朝家を出たときと変わらない部屋。
『…ノボリ?』
ノボリは見つかることはなかった。
一日経っても、一週間経っても。