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「もうわかったから。梨花ちゃんもこれ以上お酒飲んじゃダメだよ」
「お説教しないでください。ほんと、もし恭香先輩が一弥先輩と付き合ったら、世も末です。私、許しませんから~」
世も末……
梨花ちゃんは、一弥先輩のことを本気で好きなんだ。
酔っているけれど、間違いない。
梨花ちゃんは一弥先輩が好きで、菜々子先輩は朋也さんが好きなのかな……
菜々子先輩は、さっきからずっと朋也さんの近くにいるから。
それにしても、菜々子先輩、あんな短期間で一弥先輩と別れたなんてまだ信じられない。
みんないろいろあるけれど、それぞれに想う相手がいるんだな……
私も、確かに一弥先輩が好きだった。
それは間違いない事実。
でも、朋也さんと出会って、少しずつ環境が変わってしまい、私の気持ちにも変化が現れた。
だけれど、結局、よく分からないまま。
朋也さんにも一弥先輩にも告白されたわけではないし、朋也さんとはただ一緒に住んでいるだけで、微妙な関係。
一弥先輩も映画に誘ってくれたけれど、あくまで友達として。
この状況を、一体どう捉えれば良いのだろう。
目まぐるしく進む展開に頭と心がついていかない。
「そろそろ帰りましょう」
誰かのひとことで、朋也さんの歓迎会はお開きになった。
とても楽しい時間だった。
本当に夢の中にいるような幸せな時間。
「片付けもせず、最後まで甘えっぱなしですみません。大丈夫なんでしょうか」
「心配するな。片付けはこっちでするから」
「……本当にありがとうございます」
「みんなが楽しんでくれたんだ。それでいい」
朋也さん……
「本宮さん、また誘ってくださいね。今日は本当に楽しかったです」
「私もまた誘ってくださ~い」
菜々子先輩と梨花ちゃんは、朋也さんに手を振りながら、同じ車で帰っていった。
一弥先輩と他の人達は、また違う車に。
私は、みんなを送り出して、最後に朋也さんと一緒に車に乗り込んだ。
運転手さんは、夏希を送ってくれた方だ。
「さっきはありがとうございました。ご迷惑をおかけしました」
「迷惑なんて、とんでもないことでございます。ちゃんとお母様が出ていらして、丁寧に降ろさせていただきました。浜辺様はもう眠っておられましたよ」
微笑みながら話す運転手さんは、ロマンスグレーの素敵な紳士だ。
映画やドラマで見る執事のようだ。
「みんな結構酔ってたな」
「そうですね。本当に美味しくて楽しかったから、みんなはしゃいでましたね。私もですけど」
「本当に良かった。父さんも喜んでたし、機会があればまたやろう」
「嬉しいです。社長さんも喜んでくださってて安心しました」
「父さんは、俺が話した時すぐにシェフを予約して、いろいろ段取りをつけてくれたから」
「社長さんがそこまでして下さったなんて、すごく有り難いです」
朋也さんがいきなり出ていくなんてことになって、怒っていないか心配だったけれど、他人がそんなことを心配するまでもなかった。
2人は、深い信頼関係で結ばれた親子なのだから。
「笠井さん、次を右に。そのあと道なりで」
「かしこまりました」
落ち着いた丁寧な運転だ。
ガタガタ揺れなくて快適に乗っていられる。
「森咲様。どうぞこれからも朋也様のことをよろしくお願い致します。朋也様は、本当に素晴らしいお方です。私も、森咲様のような素敵なお嬢様が朋也様のお相手で大変嬉しいです」
「あっ、いえ、私は……」
何と言えばいいのか……
本当にどうなるのか、私自身が1番わからない。
朋也さんは、何も言わずに窓の外を見ている。
しばらくしてマンションに着くと、笠井さんが後部座席のドアを開けてくれた。
「お疲れ様でございました」
「運転していただいてありがとうございました」
本当にお姫様にでもなったような気分にさせてくれる気遣いが嬉しい。
「今日はありがとうございました。お世話になりました」
私は、もう一度、運転手さんにお礼を言った。
「笠井、ありがとう。いろいろご苦労様。帰ったら、すぐ休んでくれ」
「はい、朋也様。お気遣いありがとうございます。朋也様も森咲様もお体にはお気をつけになってください。おやすみなさいませ」
朋也さんは、笑顔でうなづいた。
私達は、笠井さんと別れて部屋に向かった。
「本当にありがとうございました。バーベキュー、最高に美味しかったし、楽しい時間でした」
「ああ、良かった」
部屋に入ったら、私は急に眠くなってしまった。
朋也さんも眠いようだ。
今日は1番みんなに気を遣ってくれていたから疲れたのだろう。
2人とも急いでシャワーを浴び、ベッドに潜り込んだ。
「おやすみなさい」
私はそうつぶやいて、あっという間に深い眠りについた。
明日は、仕事……
目覚ましをセットすることだけは忘れなかった。