次の日、私達は昨夜の余韻を残す間もなく仕事に追われた。
社長にも「頼む」と言われたので、みんなも気合いが入っている。
いよいよ昼からは、シンプル4のポスター撮りとCM撮影が始まる。
社内スタジオでの撮影。
『文映堂』のこだわりだ。
今日は、シンプル4の民法テレビの密着番組の撮影が入り、ほんの少しだけCMのメイキングが使われるらしい。
それだけで、緊張してしまう。
様々な準備を終え、いよいよシンプル4を乗せた車が到着した。
出迎えは、朋也さんと私。
「おはようございます。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
元気に明るく登場したシンプル4のメンバー。
若々しくて爽やかで、全員がキラキラ輝いていた。
私達は、お互いに挨拶を済ませ、スタジオに向かった。
梨花ちゃんはシンプル4に会えるのを楽しみにしていた。
ミーハーのつもりはないけれど、こうして実際に会ってみると、4人ともスターのオーラが半端ない。
そう言えば、朋也さんに出会った時に見えた少し寂しいオーラ。
今は……見えなくなった。
もちろん、朋也さんと一弥先輩には、どこにいても眩しいイケメンオーラがまとわりついてるけれど。
「よろしくお願いします」
シンプル4がスタジオに入ってきた。
みんなで大きな拍手でお出迎えをする。
ニコニコ笑いながら頭を下げるシンプル4のメンバーに、女性社員は目を輝かせている。普段なら見に来ないような社員まで、今日ばかりはたくさん集まってきていた。
みんなシンプル4に会いたくて仕方がないようだ。
それぞれに魅力があって、好印象を受ける。
彼らが女の子達に大人気なのがうなづける。
「恭香先輩! 亮くん、すっごく素敵ですね。本物が目の前にいるなんて信じられません。この仕事を選んでほんとに良かったです」
梨花ちゃんは目がハートだ。
それぞれ個性が溢れていて素敵だけれど、確かに、リーダーの亮君は特に輝いているようにみえた。
「では、ポスター取りから始めます。皆さん、準備よろしくお願いします。浜辺、あっちのカメラも用意しといて」
「はい! 分りました」
カメラマンである、朋也さんと夏希の出番。
2人が協力し合って、シンプル4をどんどん撮影していく。
息が合っていて、手際が良くて、夏希も朋也さんに着いてしっかり頑張っている。
改めて仕事ぶりを見ていると、とてもカッコ良いと思えた。
2人ともすごい。
一弥先輩も、グラフィックデザイナーとしてポスターの構図を考えた本人として、一緒になって指示を出している。
個人での撮影やグループでの撮影。
着替えて何パターンか撮る、なかなか時間がかかる作業だ。
CM撮影は、とても根気がいる。
1日で終わる場合もあれば、何日もかかる時もある。
納得いくまで、妥協許さず、良い作品作りのために力を注いでいるのだ。
「すみません。洋輔君のヘアスタイル、お直しお願いします」
「わかりました」
ヘアメイクさんも入って現場は慌ただしい。
私は、今は雑用係、何でもお手伝いする。
こうやって、手の空いている人がフォローしあい、撮影がうまく進むように動いている。
その時、シンプル4のリーダー亮くんが私のところに近寄ってきた。
他のメンバーは今から着替えをするようだ。
「あの、森咲さん……ですよね。ここの皆さん、良い方ばかりで撮影もスムーズだし、本当にありがとうございます。今日の撮影、僕たち全員、とても楽しみにしてたんです。良い現場だって聞いてたんで。ほんとにその通りでした」
亮君の笑った顔がとても可愛い。
ファンの女の子たちからは、王子様キャラとして受け入れられているようで、グッズ販売も売り上げがすごいらしい。
近くで見ると、肌がつるつるすべすべで、すごく綺麗だ。いったいどんなお手入れをしているのだろう。つい質問してしまいたくなるような美しい肌に、思わず見とれてしまう。
女性である私は、スキンケアをもっと頑張らなければ。
それにしても、今、森咲って……?
聞き間違えた?
えっ……
気がつくと、亮くんが私と話してるところを、テレビの密着のカメラが撮っている。
やめてほしい、絶対映りたくないのに……
「あ、ありがとうございます。みんな若いですけど才能のあるメンバーばかりなので、良い作品ができるよう最善を尽くします」
「僕たちも良い作品が作れるように、皆さんと一緒に頑張りたいと思います」
「はい。どうぞよろしくお願いします」
何とか精一杯答えたけれど、笑顔が引きつっているに違いない。
絶対にこのシーンがボツになりますようにと、心の底から願う。
どうしてよりによって私のところに来たのだろうか?
菜々子先輩や梨花ちゃんもいるのに。
民放のテレビで放送するのならば、もっと見栄えを考えてほしい。私がテレビに映った瞬間に視聴率が大幅に下がるなんて考えただけでも申し訳ない。