陽射しがやわらかく部屋を照らす中、みことはクローゼットの前で鏡をのぞき込みながら、首を傾げていた。
「この服……似合うかなぁ……?」
白いシャツに淡いベージュのパンツ。ナチュラルで清潔感のある服装だが、本人はどこか自信なさげにすちを見つめる。
ソファに座っていたすちは、そんなみことの姿を見て胸がきゅっと締めつけられる 。
「……みことが着てるなら、なんでも似合うよ」
照れもなく言い切ると、みことの頬がほんのり桜色に染まる。
「そ、それはないって……!」
「ほんと。どんな姿でも、かわいい」
穏やかな声に、みことは視線を逸らしながらも口元を緩める。その一瞬があまりにも愛おしく、すちは思わずスマホを取り出した。
「みこと、ちょっとそのまま。」
「え、なに?」
「……ほら、かわいい。」
シャッター音が軽やかに鳴る。画面には、照れ笑いを浮かべたみことの柔らかい表情が映っていた。
その写真を見つめながら、すちは心の中で『ほんとに、誰にも見せたくない』と呟く。
そんなすちの心配が滲んだのか、みことが首を傾げて問う。
「どうしたの? なんかちょっと怖い顔してる……」
「いや……その、今日いるまちゃんとこさめちゃんも一緒なんだよね?」
「うん、三人で出かける!」
「……GPS持ってってくれない?」
一瞬、沈黙。みことがぱちぱちと瞬きをする。すちは慌てて付け加えた。
「いや…重いよね、さすがに。別に疑ってるとかじゃなくて……心配っていうか、俺、どうしても気になっちゃって……」
みことは少し考えるように視線を落とした後、やわらかく微笑んだ。
「いいよ」
「えっ……?」
「位置情報共有でもGPSタグでも、すちになら全然いいよ。……おれ、すちになら束縛されたいかも」
その一言に、すちの理性が一瞬ふっと飛ぶ。
「……ほんと、みことってずるい。」
抱き寄せたみことの背に腕を回しながら、すちは耳元でそっと囁いた。
「そんなこと言われたら……離せなくなるだろ」
——そして数分後。
みことは玄関で靴を履きながら、振り返って笑う。
「行ってくるね!」
「……楽しんで。でも、連絡はちゃんとしてね」
「うん!」
結局今回はいるまとこさめがいる為、GPSタグはつけないことにした。
扉が閉まったあとも、すちは手の中のスマホを見つめながら、心の中で何度も「気をつけて」「早く帰ってこい」と呟いていた。
みことはスマホを見ながら、待ち合わせ場所の駅前広場に立っていた。
風が心地よく、青空の下で街路樹が揺れている。
「……まだ、かな」
小さく呟きながら、ポケットに手を入れて所在なげに足元を見つめる。
そのとき、ふと視線を感じた。
顔を上げると、数メートル先から見知らぬ男女のグループがこちらに笑いかけている。
「あの子かわいくない?」
「ねぇ、今一人?」
声をかけられた瞬間、みことの肩がびくりと震えた。
「え、あ、あの……」
動揺したように目を泳がせ、思わず後ずさる。
知らない人に話しかけられることに慣れていないみことは、どうしていいかわからず視線を彷徨わせた。
相手は面白がるように距離を詰めてくる。
「ねぇ、連絡先教えてよ〜」
「カフェでも行かない?」
——そのとき。
「おーい、みこちゃーん!」
遠くからこさめの明るい声が響く。
続いているまの影が近づき、2人が姿を現した。
その瞬間、みことはぱっと表情を明るくして、まるで救いを見つけたように2人の後ろへと駆け寄る。
「こさめちゃん……いるまくん……!」
「おぉ、どうした?顔こわばってんぞ?」
「知らない人に……話しかけられて……」
みことは小声で呟き、そっといるまの背に隠れた。
目の前のグループがまだ引き下がらない。
「うわ、こっちもイケメン揃いじゃん!」
「紹介してよ〜」
さらに人数が寄ってきた瞬間——
いるまの表情が一変した。
鋭い目つきで睨みつけ、低く短く「邪魔」と吐き捨てる。
その迫力に、周囲の空気が一瞬で張りつめた。
思わず一歩退くナンパ組。
代わりにこさめがいつもの調子で、にこにこと手を振った。
「ごめんね〜、兄弟水入らずなんだ! 今日は無理!」
「え、兄弟!?」
相手が面食らっている間に、こさめはいるまとみことの腕を引き、すばやくその場を離れた。
角を曲がって人混みから抜けると、ようやくみことはほっと息を吐いた。
「びっくりしたぁ……ほんと助かった……」
「ったく、すぐ声かけられんだな、お前」
いるまが呆れたように言うと、こさめが笑いながら肩をすくめる。
「そりゃああんな可愛い顔でぼんやり突っ立ってたら、声かけられるよ〜!」
みことは耳まで真っ赤になり、目を逸らす。
「かわいくないし……」
その様子を見て、こさめといるまは顔を見合わせて小さく笑った。
3人は駅前のゲーセンへ向かい、わいわいと賑やかに遊び回っていた。
「みこと、もうちょっと右右っ!」
「え、こっち!?あ、あ〜〜落ちたぁぁ!」
UFOキャッチャーのアームがぬいぐるみを掴んだかと思えば、惜しくもポトリと落ちる。
こさめが大笑いしながら背中を叩き、いるまが「お前、タイミング悪すぎ」と呆れた声を漏らした。
それでもみことは楽しそうに笑っていて、その笑顔に2人もつられて頬がゆるんでいた。
昼下がりのカフェ。
三人が座るテーブルには、頼んだオムライスと飲み物が並んでいた。
「ねぇ、いるまくんさ」
スプーンをくるくる回しながら、こさめが唐突に口を開く。
「なつ兄にいつ手出されたの?」
その瞬間、いるまは飲みかけていたアイスティーを盛大にむせた。
「ぶはっ…!ごほっ…!…っな、なに言ってんだお前!」
慌てて口元を拭いながら、真っ赤になっているまはこさめを睨む。
みことはというと、きょとんとしたまま二人を見ていた。
「え、手出されたって……そういう、あの……?」
困惑と興味の入り混じった瞳で小首を傾げるその仕草に、いるまはさらに混乱した。
「おま、こさめ! そういうこと人前で言うな!」
「だって気になるじゃん!」
こさめは悪びれる様子もなく笑っている。
その明るさに救われるような気もしつつ、いるまは顔を覆って小さく唸った。
「……倉庫の時だよ」
ぼそりと答えたその声は、かすかに震えていた。
一瞬の沈黙。
次の瞬間、こさめの目がまんまるになる。
「えっ!? それ中学の時じゃん!」
思わず大きな声を出しそうになったこさめの口を、いるまが咄嗟に手で塞いだ。
「シーッ! バカッ……ここ、カフェだっつの!」
焦りながらも、耳の先まで赤く染まっているいるま。
こさめは喋れないまま「んーっ」と笑っている。
みことはそんな二人を見て、くすっと笑った。
「なんか、こさめちゃんといるまくんってほんと仲良しだね」
「……やかましい」
そう言いながらも、いるまの声にはどこか照れくささが滲んでいた。
昼食を終え、デザートに頼んだパフェをつつきながら、
三人のテーブルは穏やかな笑い声で包まれていた。
「ねぇ、みことくんってさぁ… すち兄に、もう手出された?」
「――っ!」
みことは思わず持っていたスプーンを落としそうになった。
頬が一瞬で赤く染まり、目をぱちぱちと瞬かせる。
「え、えっと……その……まだ、だよ……」
恥ずかしそうに視線を落とすみことの声は、ほんのり震えていた。
「へぇ〜! そうなんだ!」
こさめは興味津々で身を乗り出す。
「うん……。おれ、18歳の誕生日の時に、って言われたんだ」
そう小さく答えると、みことは照れくさそうに微笑んだ。
その顔を見て、こさめは「いいなぁ〜!」と両手で頬を押さえて笑う。
「らんにぃなんてさ、全然手出してくれないんだよ?」
「……は?」
いるまがスプーンを止めてこさめを見る。
「お前ら、あんだけベッタリなのに?」
「そう! 手ぇ繋いでキスして終わり! つまんなーい!」
頬をぷくっと膨らませるこさめ。
それを見て、いるまは肩をすくめた。
「……まぁ、あいつ女々しそうだしな」
「どうすれば手出してくれるかな~」
こさめはむくれる がすぐに笑顔に戻って、考え込むように呟いた。
「お前から誘えばいいじゃん」
「え?」
「お前、押しが強いしさ。いざとなったら、あいつの方が引きずられんだろ」
冗談めかしたいるまの言葉に、みことも思わずくすっと笑った。
「でも、うまくできるかなぁ……?」
不安そうに眉を寄せるこさめ。
「できるできる。お前、そういうとこ度胸あるし」
いるまの言葉に、こさめの顔がぱっと明るくなる。
「そっか! じゃあ……やってみる!」
こさめは拳を握り、笑顔で宣言した。
その無邪気な表情に、いるまとみことは思わず顔を見合わせ、柔らかく微笑む。
「がんばれ、こさめちゃん」
「報告、待ってるからな」
三人の笑い声が窓際のテーブルにまた広がり、 それぞれの恋の話が、ほんの少しだけ前に進む気配がしていた。
こさめはパフェのグラスを指でなぞりながら、 ふと気になったようにいるまへ視線を向けた。
「ねぇ、いるまくん」
「ん?」
「その……最初のときってさ……痛くなかったの?」
「なっ……なに聞いてんだよお前!」
耳まで真っ赤になりながら慌てて顔をそむける。
「気になっちゃって……! だって、なつ兄ってなんか余裕ある感じするし……」
「……あいつ、そういうとこは妙に慎重なんだよ」
ぼそりと呟くいるま。
「最初のときも…数日かけてちゃんとゆっくりしてくれた。だから、思ったより……大丈夫だった」
照れを隠すように、グラスの氷をストローでくるくる回す。
こさめはほっとしたように微笑んだ。
少し沈黙があって、 こさめはいたずらっぽく首を傾げる。
「じゃあ、気持ちよかった?」
「~~~っ!うるせぇよ!!」
いるまは一気に顔を真っ赤にし、 叫びながらスプーンを握りしめた。
そのリアクションにこさめはケラケラと笑い、 みことも思わずつられて笑い出す。
「やっぱりいるまくん、かわいい〜!」
「やめろっての!」
「でも嬉しそうだったよ?」
「お前まで何言ってんだ!」
3人の笑い声が響くカフェの隅で、
どこか照れくさいけれどあたたかい空気が流れていた。
その後、3人はカラオケに移動。
「こさめ、声でかすぎ!」
「だって盛り上げ係だもん!」
マイクを奪い合い、飲み物を回し合いながら、学生らしい時間を満喫した。
夕方になるころ、通りのクレープ屋の甘い香りに惹かれて立ち寄る。
「みこと、どれにする?」
「えっと……いちごのやつ……!」
クレープを両手で受け取ったみことは、ふわっと顔をほころばせ、頬を緩める。
「ん〜〜、あまいっ!」
その瞬間を、こさめが逃さずスマホで撮影。
「みこちゃん、めっちゃいい顔してるじゃん!はい、いるまくんもこっち向いて〜!」
「おい、やめろって!」
文句を言いながらも、いるまも結局クレープを咥えたまま撮られてしまう。
数秒後、こさめはその2枚の写真を並べ、トークアプリを開いた。
送信先は——兄弟グループ。
📸「みこと&いるまの甘々タイム🍓」
📎(写真添付)
💬「ついでに報告〜! みこちゃん、最初逆ナンされて困ってた🤣 でも無事回収済✨」
送信ボタンを押したあと、こさめは満足そうにスマホを閉じた。
「……絶対、あいつ動揺するぞ」
いるまがぼそっと呟く。
「だろうね〜」
こさめは肩をすくめて笑った。
さらに、いるまもそっとスマホを取り出し、今度はこさめの笑顔をパシャリ。
カメラ越しのこさめは、陽だまりみたいに明るい。
その写真を見つめて、いるまはふっと笑う。
📎(写真添付)
💬「1枚500円な」
送り先は“らん”。
メッセージを送信すると、すぐに既読がつき、“買う”の一言だけが返ってきた。
こさめがそれを覗き込み、吹き出す。
「らんにぃ、即答すぎ!」
「……まぁ、あいつらしいな」
いるまは少し照れたように笑いながら、クレープをひと口かじる。
夕暮れが街をオレンジ色に染める中、3人の笑い声が響いていた。
すちはリビングのソファでコーヒーを飲みながら、ぼんやりとテレビを眺めていた。
そのとき、スマホの通知音が鳴る。
画面に表示されたのは──「兄弟グループ」。
何気なく開いたそのメッセージに、すちの目が止まった。
📸「みこと&いるまの甘々タイム🍓」
(添付された写真には、クレープを頬張るみこと。頬にクリームをつけたまま笑っている。その隣では、いるまが同じようにクレープを食べながら少し照れたように笑っている)
💬「ついでに報告〜! みこちゃん、最初逆ナンされて困ってた🤣 でも無事回収済✨」
その文を読み終える前に、すちの表情がぴしりと固まった。
「……逆ナン?」
無意識に声が漏れる。
心臓が嫌な音を立てるようにドクンと鳴った。
思わずズームして、みことの写真を拡大する。
クレープを持つ手、頬のクリーム、笑顔。
どれもいつものみことなのに、周囲にいる人たちの視線が気になって仕方ない。
(なんで、そんなに可愛い顔して……知らない人の前で……)
ふっと、胸の奥がチクリと痛む。
嫉妬と心配が混ざったような、ざらついた感情。
「GPSつけとけばよかった……」
ぼそっと呟くと、 自分で提案したはいいものの、まさか本気で必要になるとは思わなかった、と頭を抱える。
そのとき、通知がもう一つ。
今度は“ひまなつ”から。
💬「かわいー。 でもすち、顔が曇ってそうだから落ち着けな?」
それを見て、すちは額を押さえる。
図星を突かれた気がして、苦笑も出ない。
しばらく写真を見つめたあと、ため息をつく。
そして、みことにメッセージを送る指が自然と動いた。
🟢すち
「楽しんでる?」
「……逆ナンって、大丈夫だった?」
🟡みこと
「うん!こさめちゃんといるまくんが助けてくれた!」
「すち、心配してくれたの?」
🟢すち
「……そりゃ、するよ。」
「今どこ?」
🟡みこと
「クレープ屋さんの前!甘いのいっぱい食べてる🍓」
「すちの分も買って帰ろうか?」
その一文に、すちは思わず微笑む。
胸の中でぐるぐるしていた不安が、少しだけ溶けていく。
(……ほんと、ずるいな。そうやって可愛いこと言う)
スマホの画面を見つめながら、すちは心の中で呟く。
(帰ってきたら、ぎゅってして離さないからな)
コーヒーを置き、ふっと息をつくと、
画面に映るみことの笑顔をそっと指でなぞった。
玄関の扉が開く音がして、すちはすぐに顔を上げた。
「……おかえり」
声をかけると、そこには疲れたように小さくあくびをしながら靴を脱ぐみことの姿があった。
「ただいま……」
柔らかく笑うその表情を見た瞬間、 すちの胸の奥にあった張り詰めた糸がふっと切れた。
みことがコートを脱ごうとしたその腕を、
すちは思わず掴んだ。
「……すち?」
そのまま、力いっぱい抱きしめた。
驚いたみことが「わっ」と声を上げるが、
すちはそれを無視して腕に力をこめる。
「どうしたの……?」
小さな声でそう尋ねるみことの髪に、
すちは顔を埋めた。
「心配した。すげぇ心配した。……嫉妬もした」
素直すぎる言葉に、みことは少しだけ目を丸くしたあと、
そっとすちの胸に頬を押し付ける。
「ごめんね。でも、大丈夫だよ? いるまくんとこさめちゃんが助けてくれたし…」
「知ってる」
「……すち、そんなに心配してくれたの?」
「当たり前だろ。……お前、ほんとに可愛いんだから。見知らぬ人に笑いかけるな」
みことは照れたように笑って、ぽつりと答える。
「じゃあ、すちにだけ笑う」
すちはその言葉に、胸の奥がぎゅっと熱くなるのを感じた。
「……ほんとにそんなこと言わないで、理性がもたない」
腕の中でみことがくすっと笑う。
「じゃあ、ぎゅってして?」
「もうしてる」
「もっと」
みことの小さな声に、 すちはさらに強く抱きしめた。 背に手を回し、 そのぬくもりを確かめるように指先でなぞる。
柔らかな髪、甘いシャンプーの香り、 そして胸の奥で聞こえる鼓動。
すちは小さく息を吐きながら、もう一度囁いた。
「……おかえり、みこと。」
みことはその胸の中で、安心したように目を細めて微笑んだ。
「ただいま、すち」
玄関の扉を開けると、ふわりと温かい匂いが鼻をくすぐった。
夕飯の香ばしい香り──
らんが作る料理の匂いだとすぐに分かって、こさめの顔がぱっと明るくなる。
「らんにぃ〜! ただいまっ!」
靴を脱ぐのもそこそこに、勢いよくリビングへ駆け込むこさめ。
キッチンの前でエプロン姿のらんが振り返る。
少し汗ばんだ髪を後ろでまとめ、フライパンを持ったままの姿。
「おかえり、こさめ。ご飯、もうすぐできるぞ」
その穏やかな声に、こさめは満面の笑みで飛びついた。
勢い余ってらんの胸にダイブするように抱きつく。
「わっ……お、おい、熱いから気をつけ──」
「らんにぃの匂い〜。落ち着く〜!」
らんは苦笑しながらも、
片手でこさめの背を支え、もう片方でコンロの火を止める。
「……ほんと、お前は元気だな」
「だって、早く会いたかったんだもん!」
こさめはらんの胸に顔を埋めたまま、 くぐもった声で言葉を続けた。
少しして顔を上げると、らんを見上げてにっこり。
「ねぇ、ただいまのちゅーは?」
その一言で、らんの呼吸が止まった。
「……な、何言ってんだお前……」
頬がみるみるうちに赤く染まっていく。
だけど、こさめはそんなことお構いなしに唇を尖らせる。
「らんにぃの作ったごはんの前に、らんにぃのちゅーがいい」
悪戯な笑顔に、 らんの心臓はまるで撃ち抜かれたように跳ねた。
「……まったく、反則だぞ」
低く囁くように言いながら、 らんはこさめの頬に手を添え、そっと唇を重ねた。
一瞬触れるだけの柔らかい口づけ。
だけど、こさめは嬉しそうに目を細めて、笑う。
「んふっ……ただいまのちゅー、成功〜!」
「もう……冷める前に食えよ」
らんは視線を逸らしながらぼそりと呟いたが、 その耳まで真っ赤になっていた。
「らんにぃ、かわい~」
こさめはそんならんの横顔を見て、 笑いながら、 腕にぎゅっとしがみつくのであった。
「……ただいま。」
少し疲れた声で、いるまが靴を脱ぎながらつぶやく。
すると、廊下の奥から足音が近づいてきた。
「おかえり、いるま」
柔らかな声とともに現れたのは、部屋着姿のひまなつ。
ラフなTシャツにゆるいパンツという格好なのに、 その表情はどこか嬉しそうで、迎えに出てくるその仕草から、 待ちわびていた気配が伝わる。
「……お、おう」
軽く頷いた瞬間、ひまなつが一歩近づいた。
いるまが「どうし──」と声を出す間もなく、 不意に唇が塞がれる。
一瞬、息が止まる。
短くも確かに温もりが伝わる口づけだった。
唇を離すと、ひまなつはいたずらっぽく笑う。
「楽しかった?」
「な、なんだよいきなり……!」
頬を赤くしながらも、 いるまは視線を逸らし、小さく頷いた。
「……まぁ、あいつらといると退屈はしねぇし」
「ふふ、そうだろうな」
ひまなつは微笑みながら、 いるまの腰に手を回し、そっと抱き寄せる。
「写真、めちゃくちゃ可愛かったけど──
やっぱ、実物の方がずっと可愛いね」
その言葉に、いるまの肩がぴくりと震える。
「ば、ばか言ってんなよ……!」
照れ隠しのように、ひまなつの胸元を押し返す。
けれど、その力は弱く、まるで「もっと構って」と 言っているようにも見えた。
ひまなつはそんな反応が堪らなく愛しくて、 思わず口元を緩める。
「その顔、反則」
「うるせぇ……!」
その頬は真っ赤で、逃げるようにひまなつの胸に顔を押し付けた。
ひまなつはそんないるまの頭を優しく撫で、 その温もりを感じながら、 腕の中の存在をぎゅっと抱きしめた。
夜、部屋の電気を落とし、静かな空気の中でふたりはベッドに横たわる。
ひまなつはそっといるまを抱き寄せ、体温を感じながら顔を上げる。
「……いるま、今夜も一緒に寝ような?」
いるまは恥ずかしさと幸福感で少し俯くが、すぐに素直に頷く。
ひまなつは微笑みながら唇を近づける。
重ねられた唇の温もりと柔らかさに、いるまの心臓は早鐘のように打つ。
ひまなつはそのまま首筋にも口付けを落とす。
小さな痕が残るのを意識しながら、柔らかく舌先で唇を撫で、再び顔を上げているまの視線を捕らえる。
「……もっと寄越せ…」
いるまは少し照れながらも、身体ごとひまなつに身を委ねる。
抵抗するどころか、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じ、目を細めながらひまなつの手の動きを受け入れる。
「仰せのままに」
ひまなつは囁くと、再び深く、丁寧に唇を重ねる。
角度を変えながら、何度も何度も重ねるキス。
いるまは唇を重ね返しつつ、優しく息を整え、甘えた声を漏らす。
深く、息を分け合うようなキスの合間に、指先がいるまの胸元へと触れる。
軽く布越しに撫でるたび、いるまの呼吸が少しずつ乱れ、肩が小刻みに震えた。
「……なつ、やめ……」
小さな声でそう言いながらも、拒絶の色はなく、むしろ甘い熱が滲む。
ひまなつはそんないるまの表情を見て、優しく笑った。
「……かわいいね。こんな顔、俺にしか見せないで」
指先で軽くなぞりながら、唇をもう一度重ねる。
息が混ざり合い、二人の間の空気が熱を帯びていく。
そのぬくもりの中で、言葉を交わすよりも、互いの心音を確かめ合うように寄り添っていった。
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彼女組は全員可愛い!以上!
なんでこんなに可愛い兄弟なのでしょうか…嫉妬深いすっちーもあんっま甘の暇ちゃんも頼れる兄ちゃんオーラ全開のらんらんもかっこよすぎでしょう…(いるま先生その写真私にも下さい)