ショッピングモールにたどり着く二人。
週末ということもあり、人の波が途切れない。行き交う声、フードコートの匂い、照明の反射。
そのざわめきの中で、すちは自然と隣を歩くみことの姿を目で追っていた。
みことは嬉しそうに店のウィンドウを覗き込みながら、少し鼻歌を歌っている。
歩きながら振り返って笑うその顔に、すちは思わず目を細めた。
その笑顔は中学時代から変わらないけれど、少し大人びた横顔に「成長したな」と感じる瞬間がある。
「ねぇ、すち」
みことが足を止めて振り向いた。
「ん?」
「バイト代入ったんだ。だから今日はすちに何か買いたいなって思って」
その言葉に、すちは一瞬言葉を失った。
胸の奥がくすぐったくなるような、あたたかいものが広がる。
「……そういうの、俺が言うセリフじゃない?」
「えー、いっつもすちが奢ってくれるじゃん。たまにはお返ししたいの」
頬を少し膨らませるみことの仕草が可愛すぎて、すちは思わず笑いながら頭を撫でた。
「……気持ちだけでも嬉しいよ。」
みことは少しだけ残念そうに「むー」と唇を尖らせたが、その後すぐにくすっと笑って歩き出した。
昼になり、2人はモールの中にあるイタリアンレストランに入った。
木目調のテーブルに差し込む柔らかな日差し。
隣の席との距離も程よく、なんとなく恋人同士には心地よい空間だった。
「うーん…ボロネーゼにしようかな」
「じゃあ俺はカルボナーラにしよっか」
注文を終え、運ばれてきたパスタから湯気が立ち上る。
トマトの酸味とチーズの香ばしさがふわっと漂い、みことは幸せそうにフォークをくるくると回した。
「ん〜〜〜っ、おいしい…っ」
満面の笑顔で頬張るその姿を見て、すちは口元が緩む。
無意識に、みことの口の端についた赤いトマトソースに目がいった。
「……みこと、ここ」
「え?」
すちは笑いながら、指でそのソースをそっとぬぐった。
ほんの一瞬の触れ合いなのに、みことの頬が一気に赤く染まる。
「……ありがと」
小さく呟いて、恥ずかしそうに視線を逸らすみこと。
その反応が愛おしくて、すちは微笑みながら心の中でつぶやいた。
――なんでこんなに、可愛いんだろ。
食事を終えると、みことが財布を取り出した。
「今日はおれが払う!」
その姿がなんだか誇らしげで、すちは少し笑って首を振る。
「いや、俺が奢る」
「え〜、だめだよ!」
「だめじゃない。彼氏にかっこつけさせて?」
「っ……!」
その言葉に、みことの耳が一瞬で真っ赤になった。
財布を持つ手がぴたりと止まり、口を開けたり閉じたりしている。
「……か、彼氏って……今、言った?」
「うん?」とすちは何でもない風に首を傾げる。
「だって、俺たち付き合ってるでしょ?」
「う、うん……でも、改めて言われると……恥ずかしい……」
照れたように顔を隠すみことの手を、すちはそっと取って指先を絡める。
「そういう顔も、好きだよ」
「も、もう……」
みことは俯きながらも、握られた手をぎゅっと握り返した。
支払いを終え、二人はモールの中をゆっくり歩く。
人混みの中でも、自然と距離は近く、手は離れない。
ガラス越しに映る二人の姿を見て、みことは照れくさそうに笑った。
「ねぇ、すち」
「ん?」
「おれ、すちとこうやって歩くの、すごく好き。」
その言葉に、すちは胸の奥が熱くなる。
「俺もだよ」
そう言って、すちはそっとみことの頭に手を置いた。
ショッピングモールのアパレルフロア。
通路の両側には季節の服が整然と並び、落ち着いたジャズが静かに流れていた。
人混みから少し離れたその一角は、時間がゆるやかに流れているように感じる。
「ねぇ、すち。ちょっとこの店、見ていい?」
「もちろん。」
2人で店内に入ると、色とりどりのシャツやジャケットが並んでいる。
柔らかい照明に照らされた布地が、手に取るたびにふわりと質感を変える。
みことはラックをめくりながら、時折すちをちらっと見て、なにか考え込むように目を細めた。
「すちってさ、いつもシンプルなの着てるでしょ?」
「うん。無地のとか、モノトーンが多いかな」
「うんうん、でも……こういうの、着てるの見たいかも」
そう言ってみことが手に取ったのは、淡いグレー地に小さな花模様が散りばめられたシャツだった。
派手ではないけれど、少し華やかで、優しい印象を与える柄。
すちは思わず目を瞬かせた。
「これ……俺、着たことない感じだな」
「でしょ。でも、絶対似合うと思う」
みことは胸の前でシャツをすちの体に当て、少し距離をとって眺める。
その目はまるで絵を描くように真剣で、すちは思わず笑みを漏らした。
「そんな真剣な顔で見られたら、断れなくなるな」
「え、似合わない?」
「いや、すごく新鮮で……なんか、こういうのもいいかもって思った」
みことはぱっと表情を明るくして、「ほんと!?」と笑った。
その笑顔に、すちは胸の奥が温かくなる。
「……みことが選んだものなら、なんでも嬉しいけどな。 服だったら、毎日着ちゃうかもしれない」
冗談めかして言うと、みことは一瞬ぽかんとしたあと、照れたように口元を押さえて笑った。
「や、やめて……そういうこと言うと、変に嬉しくなる……」
「事実だから」
「でも、毎日はダメ。せめて週1くらいにして」
「なんで?」
「……だって、すちが着るたびに、思い出したら恥ずかしいもん」
小声でそう言って、みことは視線をそらした。
頬がほんのりと赤く染まり、耳まで熱を帯びている。
その仕草がたまらなく愛おしくて、すちは笑いながら彼の髪をくしゃっと撫でた。
「わかった。週1ね、約束する」
みことは少し安心したように微笑む。
「…じゃあこれ、買ってあげる」
支払いを済ませ、店を出ると、みことは紙袋をすちに差し出す。
「はい、プレゼント」
「ありがとう」
すちは受け取った袋を見つめ、しばらく黙ったまま微笑んだ。
そのまま一歩近づいて、みことの額にそっと唇を寄せる。
「っ……!」
みことは驚いて目を見開いたが、次の瞬間、頬にじんわりと色が差した。
「……も、もう……人目あるのに……」
「ありがと、みこと。大事にする」
その声は優しくて、穏やかで、
まるで『この瞬間すべてを愛してる』と言葉にしているようだった。
みことは唇を噛みながら、照れくさそうに笑った。
「……そんな顔で言われたら、こっちが照れるから」
すちはただ柔らかく笑って、紙袋を片手に、みことの手をもう一方の手で握るのであった。
コメント
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はぁ、微笑ましいわーホントBLで腐りに腐った私の心を和ませてくれるのはすちみこだ(?)
すちみこてぇてぇです☆ みこちゃんの誕生日が待ち遠しい(*´ω`*)