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時は現代に戻り、ここはカフェの店内。アサの要求にランナは返答せずにいる。
(私はヒルくんの妻。ヒルくんを裏切りたくない。アサ様のものにはなれない)
ランナの中では答えは決まっていたが声に出せない。言葉で拒否すれば両親の謎を知る術が完全に無くなる気がした。
やがて店員が来て、アサが注文した二人分のタマゴサンドとホットコーヒーをテーブルの上に置いた。
アサはランナの無言を拒否だと受け止めた。それは予想通りなので清々しく微笑む。
「いいですよ、それでも。ランナさんは知らない方が良いと思いますし」
アサは両親の件を話したいのか、話したくないのか、曖昧な言葉でランナを惑わす。
結局アサから話を聞き出す事はできずに、単に一緒に朝食を食べただけで終わった。
カフェを出て馬車に乗ると、城下町を抜けて少し進んだ先の広大な緑地に着いた。
馬車から降りたランナは、目の間に広がる景色に感動して声を失う。緑の中に雪のように花が点々と咲き乱れている。
「ここって庭園ですか? きれい……」
「はい。白薔薇の庭園です。僕のお気に入りの場所です」
確かに白の服を纏う銀髪のアサは白が似合う。アサの城も純白だし、そういえばジョルノ王家の紋章は白薔薇だった。
まだ午前中なのに庭園には親子連れや散歩で訪れる住民が多くいる。そして誰もがアサを見かけると笑顔で挨拶をする。
親子連れの父親がフレンドリーな笑顔でアサに話しかける。
「アサ様、おはようございます! 今日はモニカ様とご一緒ではないんですね!」
「おはようございます。はい、今日は第三王妃のランナさんとデートです」
「さすがアサ様、罪深い!」
冗談交じりの和やかな会話ではあるが、それを横で聞いているランナは笑えない。どこまで本気なのかアサの心は読めない。
さらに、その男性の娘の女児が笑顔でアサを見上げる。小さな指で少し横の白薔薇を指差す。
「アサさま! ほら、ここのバラ、私が植えたの! きれい?」
「あぁ、すごいですね。綺麗な薔薇が咲きましたね」
幼い子供にも紳士的な態度のアサの笑顔に演技や含みはない。ランナはアサの意外な本質を見て驚く。
国民から親しまれ、誰にでも優しい笑顔を向けるアサは国王としての資質も器も兼ね備えている。
三人格が殺し合う現状を思うとランナの胸は痛む。ヨルの事は未だに理解できないが、どの人格も欠けてはいけない存在のような気がした。
庭園を一周してから二人は馬車に乗り、再び城下町へと入って王城への帰り道を行く。
今の時刻は11時過ぎ。アサとデートしていられるのはヒルの人格に変わる12時まで。かと思うと、城下町の道の途中で馬車が止まった。
降りてみると、目の前には尖った屋根がいくつも連なる石造りの建物。赤茶色で塗られた小さい城のようだ。
「アサ様、この建物は?」
「入ってみれば分かります」
言われるままにアサと一緒にエントランスを通り抜けると、広大な室内には木製の本棚が延々と並んでいる。
ランナは、こんなにたくさんの本棚も本も見た事がない。
「すごい! 王都には、こんなに大きな本屋さんがあるんですね……!」
「本屋ではありません。ランナさんは図書館は初めてなのですね」
「わぁ、これが図書館! 初めて来ました!」
辺境の田舎町で暮らしていたランナにとって図書館は初めての場所だった。本を買うのではなく借りる場所なんて斬新だと思った。
「僕はこの図書館の本を全部読みましたよ」
「え、本当ですか!? すごい!!」
「冗談です。まぁ半分くらいは読んだかもしれません」
笑うべきなのか感心すべきなのか。澄んだ笑顔で冗談を言うアサの性格が掴めない。知的で聡明なのは間違いない。
アサには目的の本があるらしく、迷う事なく本棚から1冊の本を取り出して手に持つ。
その1冊だけを借りると、アサとランナは図書館を後にした。
帰り途中の馬車の中でアサが懐中時計を取り出して確認すると、間もなく昼の12時。
アサは図書館で借りた本を隣に座っているランナに差し出す。それは文庫本サイズの小説だった。
「読んでみてください。ランナさんが知りたい事のヒントが得られますよ」
「ヒントですか? 実話の物語なんですか?」
「ジョルノ国に伝わる昔話です。あ、もう時間ですね。今日は楽しかったです。では、また」
アサの銀色の髪が毛先から浸透するように塗り替えられて黄金に煌めいていく。完全に金色に染まると人格が変わる。
「お~! ランナ! あれ? ここって馬車の中か!?」
ヒルは車内をキョロキョロと見回している。どうしても人格が変わった直後は状況と場所を把握するのに時間がかかる。
ようやく隣のランナと目を合わせると、ヒルはランナの両肩を掴んで揺らす。
「おいランナ、まさかアサと二人で出かけていたのか!?」
「うん。アサ様とデートしてた」
ランナは少し意地悪をして返した。アサの冗談っぽい口調が移ってしまったのかもしれない。
素直で単純なヒルは歯を食いしばって必死にランナに迫っていく。予想通りの分かりやすい嫉妬で笑えてくる。
「ランナぁぁ!! オレという夫がいながら浮気かぁ!! 言えよ、オレの何が不満なんだ!? いやアレか、アサが強引にランナを……」
「あ、ごめん。冗談。私がデートするのはヒルくんだけだから」
「へ……」
ようやく我に返ったヒルは、空気が抜けた風船みたいにフニャフニャになって椅子に座り直した。
呼吸を整えてから改めて視線を交わすと、ヒルは再びランナに向かって両腕を伸ばす。今度は全身を優しく抱きしめた。
「ったくランナ、オレを弄ぶなよ……。アサはヨルほど危険な奴じゃないが、気を付けろよ。な?」
「……うん」
ランナはヒルの温かい背中を片手で抱き返す。もう片方の手はアサから手渡された本を握りしめていた。