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橙×水
色とりどりのペンライトが波打つ会場。最高潮の盛り上がりを見せる中、ほとけは眩いスポットライトを浴びながら、客席の通路へと足を踏み出した。
💎「みんなー! 楽しんでるー!?」
いつもの弾けるような笑顔。ほとけは左右の観客一人ひとりと目を合わせるように、大きく両手を振った。
💎「わあ、そのうちわ可愛い! ありがとう!」
💎「後ろの方も見えてるよー!」
ぴょんぴょんと跳ねるような足取りで、ファンとの距離を縮めていく。手を伸ばせば届きそうな距離。ほとけにとって、この光景は宝物だった。
みんなの温かい歓声と、キラキラした瞳。それに応えるように、彼はさらに深く、観客の渦の中へと入り込んでいった。
――けれど、その「温かさ」が、一瞬で「毒」に変わる。
通路の角を曲がろうとした、その時だった。
背後から、異常な執着を持った、湿り気を帯びた指先が、ほとけの首筋を執拗に這った。
💎「っ……!?」
喉の奥がヒュッと鳴った。
一瞬前まであんなに温かかった歓声が、急に遠のく。
かつて自分を壊しかけた、あの冷たく身勝手な感触。それが、今、この幸せな空間で再現された。
ほとけの足が、凍りついたように止まった。
💎「……あ、……ぁ……っ」
マイクを持つ手がガタガタと震え、膝から力が抜ける。
あんなに元気に振っていた両手は、今や自分の肩を必死に抱きしめることしかできなかった。
🤪「ほとけ!? おい、ほとけ!!」
異変に気づいた、いふの声が響く。
華やかなステージの裏側、絶望の淵へと引きずり込まれるパニックの始まりだった。
💎「……っ、げほっ、……ぅ、あ……!」
いふの肩にすがり、引きずられるようにして歩いていたほとけの足が止まる。
喉の奥からせり上がる、強烈な嫌悪感。首筋に残る、あの見知らぬ誰かの指の感触が、脳内で何度も何度も再生される。
🤪「ほとけ? 大丈夫、もう裏やけど……」
いふが声をかけ終える前に、ほとけの体が激しく折れ曲がった。
💎「……おえっ……!!」
凄まじい音を立てて、床に未消化のものがぶちまけられた。
胃を雑巾のように絞られる痛みに、ほとけは涙をボロボロとこぼしながら、何度も嘔吐を繰り返す。
🤪「ほとけ! 全部吐け、我慢すんな!」
いふは自分の衣装が汚れるのも構わず、ほとけの細い体を横から抱きかかえるように支えた。地面に崩れ落ちそうなほとけを膝の上に乗せ、激しく震える背中を「大丈夫だ、大丈夫だ」と強く、一定のリズムで叩き続ける。
🤪「ないこ、水とタオル! 急げ!」
🍣「わかってる、今持ってきた!」
ないこは迷うことなく、近くにあった救護用のタオルを数枚掴み、ほとけの隣に膝をついた。酸っぱい匂いが立ち込める中、ないこは嫌な顔一つせず、むしろその瞳にはほとけを傷つけたものへの静かな怒りと、相棒への深い慈愛が混ざり合っていた。
💎「……っ、は、……ごめ、なさ……っ、きたな、い……っ」
ほとけは、吐瀉物で汚れた自分の口元を袖で隠そうと、力なく腕を動かす。
パニックと嘔吐で脱水し、顔色は紙のように真っ白だ。
🍣「ばか、何言ってんの」
ないこは優しくほとけの腕を制すと、濡らしたタオルで、汚れた口元を驚くほど丁寧に拭った。
🍣「汚いのは、ほとけっちに勝手に触ったあいつの方やから。ほとけっちは、世界で一番綺麗なままやから。ね?」
ないこの穏やかな声に、ほとけの過呼吸気味だった呼吸が、少しずつ落ち着きを取り戻していく。
💎「……いふ、くん……ないちゃん……っ」
🤪「おう。ここおるで」
いふは、ほとけの額に張り付いた汗ばんだ髪をかきあげ、大きな手のひらでその頬を包み込んだ。
🤪「お前は何もせんでいい。あいつのことは俺が、いや、俺たちが絶対許さん。今は、ゆっくり息しとけ」
いふの力強い言葉と、ないこの柔らかな眼差し。
二人の体温に挟まれて、ほとけはようやく「安全な場所に帰ってきた」ことを実感し、震える指先で二人の服の裾をぎゅっと握りしめた。
💎「……うん、……ありがとう……」
消え入るような声だったが、確かに届いたその言葉に、二人は顔を見合わせ、安堵の溜息をついた。
いふは、衰弱しきったほとけを軽々と横抱きにすると、一歩一歩、その重みを噛み締めるように救護室へと歩出し、ないこはそっと、ほとけの視界を塞ぐように上着をかけてやった。